main story
□MY LOVE 8
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「おや……!何やら、凄い男前が居るじゃないか。」
トトがハルを家まで送り届けて事務所に戻ると、ソファで一人、腕と足を組んだ仏頂面のムタと目が合う。
ムタはトトの軽口に一切乗らず、怒りを押し殺した声で
「……ハルの奴、どんな様子だ?」
トトは話題に乗らないムタを気にも留めず、羽繕いをしながら淡々と答える。
「どうもしないさ。終始、彼女は微笑んでいた。そして挨拶をして別れた。それだけさ。」
その冷酷とも取れる様に、上目遣いで薄く微笑いながら、努めて声を抑えて話す。
「トト……本気で言ってんのか?」
トトは羽繕いをぴたりと止めると、ムタに向き直り、綺麗に微笑う。
「ムタは、残酷なんだな。」
トトは目を閉じると、話す。
「私は……男爵の荒れ狂う姿など見たくはない。ハルの絶望に彩られた笑顔など見たくはない。」
薄っすらと開けられた目には、虚無感。
「愛し合っているからこそ……互いの幸福を祈り、異なる時を歩む事だってある。」
「……んだよ、それ。そんなんが愛なんて……!」
「…あのまま二人が、一緒に生きる道を選択していたならば……ハルはルイーゼの影に怯え、苦しむ日々が待っていただろう。」
「そんなわけあるかよ!バロンのヤツ、とっくに割り切って生きてんじゃねーか!」
トトは苛立ちを隠しもせず、ムタへとぶつける。
「では、何故!!出会いを否定して立ち去るハルを、引き止めないのだ!?」
迫力に気圧されたムタが、一瞬たじろぐ。
「そっ……れ、は……」
声を一段と低くし、トトは呟く。
「……新しい場所へと、あの二人は行こうとしている。失われた彼等の絆に、只の外野の私達は何が出来るというのだ…?……そう、何もしてやれない…何も………な。」
睨むように絡ませていた視線。
互いに、顔を背ける。己の無力感に。
「……猫の事務所ってのは、こんなにも使えない野郎共しか居なかったか?」
「………元々……そういう集まりだろう?私達は…」
「それでも…何とかやって来れた筈だ………なあ……?」
ムタはトトを、仰ぎ見る。
未だ背けられた顔を見て、やり場なくテーブル上のケーキに、目線を落とす。
「やって来れたのは……男爵が…居たからだ。」
「…アイツ、これからどうなっちまうんだ…?」
トトは口許に笑みを携えて、振り返る。
「情や欲に流されない、あんなにもストイックで完璧な彼も、恋に落ちると只の一人の男だったと言う訳だ……純情をあんなにも曝け出して…可愛らしいものだ。」
言って、トトは悲しみに目を伏せる。
「そう……男爵とハルは、恋をしたのではない………恋に落ちてしまったんだな……」