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□大きな桜の木の下で
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暖かい日が続き、昼寝には丁度良い陽気になってきた今日この頃。いつものベンチに寝そべりアイマスクを着用して、寝る体制に入った。
公園の桜の蕾も大分開いてきていて、あと2、3日ほどすれば満開するだろう。そしたら人気の少ないこの公園も人がたくさん来て、このベンチではサボれなくなる。
行事が大好きな江戸の人々も時に迷惑なものだ。
「仕事するヨロシ税金泥棒が」
「人聞きの悪いこと言うな。今日は非番でィ」
アイマスクを外さなくても分かる聞き慣れた声に、特徴のありすぎる口調。
隊服をきていないのだからそのくらい気づけばどうだ。そして俺の恋心にも早く気づけばいい。
「じゃあそこ退くネ」
「俺が先居ただろィ」
「…話すか寝るかどっちになんだヨお前」
そう言われたので付けたばかりのアイマスクを外すし体を起こして座る。そのついでにもう一人分座れるスペースを作った。
昔ならナメてんのかと喧嘩が始まるところだが、時間が経つにつれて俺とチャイナの仲は、"顔を見てすぐ戦闘"から、"会話してムカついたら戦闘"に変化した。だからチャイナは黙ってベンチに座るし、俺は黙って受け入れる。
「もうすぐお花見が出来るアル!」
目の前の桜の木を眺めていたチャイナが急にそんなことを言いだした。
コイツとのはじめての戦いは花見だ。昔から、春は出会いの季節というけれど、まさか俺ほどの闘力を持つ女と出会うとは思ってもいなかった。
「第一戦目の花見、覚えてますかィ?」
「もちろんアル。地球に来てはじめて相手互角に戦うことのできた勝負だからナ」
今思うと、始めから戦ってばっかりだ。一番初めに会ったのは池田屋だと土方が言っていたが、戦った記憶があるのは花見。
チャイナに池田屋を覚えてるか聞いたことがあったが、何それ、そんなのあったっけ状態。残念ながら俺も覚えてない。
「桜、早く咲くといいですねィ」
「そしたらあの時の勝負つけてやるネ」
「花見の席では無しでさァ。みんなは飯食って騒いでんのに俺らは殴り合おうってか?」
「嫌ヨ!おいしいもの食べたいアル!」
ついでに言うと旦那も眼鏡も姐さんも、真選組の連中もみんな無し、と言いたいところだが、コイツは万事屋で花見に行って、今年も俺たちと出会うのだろう。
根拠なんてないけれど、腐れ縁の万事屋とは何かと関わることが多い。
その場に旦那が居る時点で花見を2人でしようなんて不可能に近いことだ。
「だったら…団子でも食い行くかィ?」
「食い行くアル!」
じゃあ決まり、とここからそう遠くない団子屋へ。
店の近くの桜も、公園と変わらずもう少しで満開しそうだ。
団子を運びがてら、お花見かい?と尋ねてきたおばちゃんに、どうせなら満開が良かったですけどと返し、出てきた団子を食べた。
「どうですかィ団子」
「うまいアル!おばちゃんもう10本追加!」
花より団子とは正にこのことだ。
まだ満開ではないものの、蕾はほとんど開いている。だから花を見ながら団子を食べるだろ普通は。
しかも花を見ないどころか、奢ってもらってるのに少しも遠慮しない。とは言っても急に遠慮をされても気持ちが悪いし、追加注文も予想して既に土方の財布をすってきてある。
「お前いつまで食ってんでィ」
「もーひょい」
「飲み込んでから喋れ」
さすがに団子ばっかり食べてたら飽きるし、チャイナが団子に夢中でつまらない。
俺の存在を忘れるな。誰が金払うと思ってんだ。
「もうちょい食べる」
「花も見てねぇクセになに言ってんだテメー」
「だって満開じゃないアル」
「じゃあ来年もまた来るかィ?」
そしたら嬉しそうに行くと言い、絶対に忘れんなよと言われた。
忘れるなんてとんでもない。忘れられる訳がないだろ。どちらかと言うとチャイナのが忘れそうだ。
「約束破ったら別れるからナ」
「は?」
付き合ってもないのに、別れるもクソもあるものか。これ以上距離があくなんて、たまったもんじゃない。
意味が分からなくて聞き返すと、そのままの意味だと言われたけど、俺にはその、そのままの意味が理解できなかった。
「お前は馬鹿デスカ?来年までにはお前が私に告白して付き合ってるってことアル」
ごちそうさまを言って逃げていったチャイナの予想外の言葉に驚いた。
こんなことを言われて告らないわけにはいかない。
――プルルルルル
「あ、旦那ですかィ?チャイナに伝言があるんですけど…」
大きな桜の木の下で
(何よりも甘い口づけと)
(愛の告白を送りましょう)
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桃さまへ相互記念小説です^^
春っぽい沖神というリクでしたが、どうでしょうか?
桃さまのみお持ち帰り可、苦情受付ます。