.

□長編
18ページ/18ページ





昨日の俺は確実にどうかしていた。でなければ好きなのかという問いに、そうだとは答えないし、わざわざ部活にもでない。

土方には自分が部活に出ろと言ったくせにチャイナと帰るのかと思ったと言われたが、その予想は当たっている。日直の日はいつもそうだし、俺もそのつもりだった。

しかしチャイナには先客がいた。さすがに3人で帰るのはやめた方がいいと判断した俺の脳みそは、近藤さんと帰ると要らぬことまで言わせてしまったらしい。




「アイツ…何考えてんでさァ」




アイツというのはチャイナではなく、昨日チャイナと2人で帰っていた荻原しおんのこと。2人の態度を見るからに、昨日の帰りは何かあったに違いない。チャイナに至っては睨みつけているので誰にでもわかるわかりやすさだ。




「しかしあの2人、何があったんでしょうねィ」


「総悟絡みには間違いねーよ」


「んじゃ俺ァ幸せもんでさァ」


「心にも思ってないことをよく言えたもんだな」




心にも思ってないことだなんて、半分は本気なのにヒドいことを言うものだ。チャイナが今までに俺絡みで女と険悪ムードになるなんて一度もあったことがない。

それだけでも喜ぶに値するのに、その相手は荻原しおんときた。土方の言うとおり俺絡みというのはあながち間違いではないだろう。




「気を付けねぇとアイツ等何起こすかわかんねーからな」


「分かってやすよ。にしてもなんでうちの学校に転校なんて」


「お前を追ってきたらしいぞ」




一番聞きたくなかった答えが返ってきた。アイツが俺を好きなのは中学が一緒のやつなら誰だって知っている事実。むしろ常識だ。女の中では一番仲が良かったし、普通の小さな口喧嘩ほどはした。俺とチャイナの関係をめちゃくちゃ可愛くした感じ。

しかし今重要なのは荻原しおんがまだ俺を好きということより、土方が人づてにそれを聞いたこと。基本、荻原しおんは土方と喋らないので、聞いたとなると考えられる人物はただ1人。




「いつ姉ちゃんと会ったんでィ」


「それは…まぁ偶然会ったというか…」




しまったという顔をした土方を見て、確実に会ったのだと確信した。姉ちゃんの外出時にはいつも一緒だったのに偶然なんてあり得ない。畜生、俺が居ながらなんてことだ。




「土方さん、屋上から紐なしバンジーして下せェ」


「お前がやれ総悟」


「嫌ですよ、そんなことしたら死ぬじゃねーですかィ」




んなこたァ分かってんだよ!!とツッコミを入れた土方の声と、銀八が俺を呼ぶ声とが重なった。チャイナも呼ばれたことを考えると、雑用の仕事だと思ったが全然違っていた。



職員室前の廊下で、この点数は何だと銀八が持っているのは、夏休み明けテストの追試の再テストの回答用紙。




「18点」


「14点」


「んなこたァ分かってんだよ!!」




土方さんと同じ反応をした銀八は、なんで3回も同じ問題をして合格点に届かないんだと苛立っているが、そんなこと俺もチャイナも知ったこっちゃない。
強いて言うなら問題が難しすぎたのだろう。




「問題が難しすぎアル!」


「お、気が合うじゃねーか」




慣用句なんかいちいち覚えてられないだとか、活用なんてさっぱりだとか、そんなことを話し意気投合していると、チョップが降ってきた。しかも結構な力で。さっきの会話に相当イラついたようだ。




「俺を過労死させる気かコノヤロー」


「本望じゃありませんか」


「俺は孫に囲まれて衰弱死していくんだよ」


「孫どころか嫁すらできないくせに何言ってるネ」




その言葉が癪に障ったのであろう、今度はげんこつを喰らわされた。いや待ておかしい。なんで俺まで殴られる必要があるんだ。

もっともな意見をぶつけると、ムカつくからと返ってきたがそんな理不尽な理由があるか。それに俺の何がムカつくんだ。




「お前がサラサラヘアーだからに決まってんダロ」


「それにモテんじゃん」




いつ心の声を聞かれたかは定かではないが、それが理由らしい。理不尽の理由はやっぱり理不尽だ。

しかしこの髪この容姿で産まれてきてしまったのだから仕方ないではないか。それに姉があんなに美人なのだから、弟の俺が不細工に産まれるわけがない。




「そんな理由で殴られてちゃ俺ァもう死んでます」


「沖田くん何それ?自慢?別に羨ましくないけどねっ!!」




そんなどうでもいい話を職員室前でしていたが、銀八がはっとして、本来の目的を思い出した。その瞬間に俺とチャイナは舌打ち。折角忘れられたと思ったのに、俺らのやり口はバレていたようだ。




「雑用週5な。水金は補習でサボったら単位取れないから」


「「マジでか」」


「追試の再テストが18点と14点の奴が何言ってんの!?俺が一番嫌だわ!!」




分かったらさっさと帰れ!と職員室に入ってしまった。




「崖っぷちアル」


「いや俺のが崖っぷち」




って何でこんなことで争ってんだと思いながらも、教室まで崖っぷち具合を競い合った。








*****
本当すんません久しぶりでした。
14点は入高校試の数学で取った奇跡の点数です。


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ