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□薔薇の花3本
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『以上、本日バレンタインの午後のお天気でした。CMの後はバレンタイン特集です…』



バレンタインなんてろくなことがない。

去年のバレンタインは、面倒くさいと鍵を閉めていない下駄箱に、嫌がらせのごとくチョコレートやらクッキーやらが入っていた。

きっと今年も溢れんばかりのプレゼントがどこかしらに入っているのだろう(下駄箱は施錠済み)。

そんな憂鬱な気分になりながらも学校へ向かう。遅刻するよりも休んでしまうのが楽なのだが、今日はバレンタイン。

好きな女の子からのチョコを期待するのは男の性であって、それは学校へ行かなきゃもらえない。

もらえるかも分からない不確かなチョコに期待する男子の気分をこの歳にして初めて体感した。




「げっ、」




昇降口を入って、真っ正面、3年生のところには紙袋がちらほらと置いてある。A組、3袋。B組、1袋。C組……と、そんな感じで無意識に数えていると、一際目を引く一角がZ組の場所だと気付いた。

その大部分はは俺と土方さん、それから高杉で占められている。




「世の中もの好きだらけアル」




ひょこっと現れたチャイナは俺が思っていたことを言ってのけ、ガサッと紙袋を持ち上げる。

それからほら、とその中の数袋をこちらに差し出してきた。




「何でィ」


「お前の分」




そう手渡してから、あとは私の物だと言うように残りの紙袋を音を立てて運び出す。




「土方さんと高杉のパシリですかィ?」


「ちっがうアル」




じゃあ何で、と聞こうと思ったが、いつにもまして機嫌が悪い。それに続けて貰ったと言われたので納得した。

どうせなら俺のも持って行けばいいのに。




「俺のもいらねェ?」


「自分で食えヨ」


「オイオイ俺には随分と厳しいじゃねーか」




百歩…いや一万百歩譲って姉ちゃんが居る土方へのチョコを貰うなら分かる。でも高杉のだって貰ってるじゃないか。




「お前はフリーだからナ」


「は?」


「本命チョコの10個や20個あるんじゃないかってことネ」



それから、お前は王子様なんダロ?と幾度も聞かされたことのあるセリフを吐かれた。だが、チャイナにそう言われたのは初めてかもしれない。それくらいコイツは俺を王子キャラだと思っていないのだろう。


まぁ、普段の俺を見ていれば、王子だなんて到底思えない。誰が1番最初に王子と呼んだのか定かではないが、持ち前のルックスと亜麻色のサラサラヘアーをみれば誰だってそう思うだろう。王冠だってきっと似合うはずだ。

なんて、そんな冗談をかましている場合ではなく、他にやるべきことがあるはずだ。そう、たとえば…




「チャイナからのチョコは?」


「ないアル」




予想はしていたが即答された。こんなにハッキリと言われるとショックがデカい。大切な硝子のハートが割れそうになった。




「俺ァ本命1個しか受け取らねーぜ」


「じゃあこの中から1個はお前の、あとは私のでいいアルか」


「全部お前のでいいけどな」




そう言い袋を返すと、ぱぁっと顔が笑顔になる。なんて単純で分かりやすい女なんだ。


ありがとうと礼を言われ、少し驚いたが、コイツだって礼くらいは言えるに決まっている。

じゃああとで、とそのまま階段へ向かおうとするチャイナの手を掴み、歩きを止めた。




「なにヨ」


「礼は?」


「言ったダロ」




そりゃあそうだが、もっと別な返し方を期待していたのだ。




「チョコはくれねーのかィ」


「本命しかもらわないっつったのはどこの誰ネ」




そう言ったのは自分だが、ここまで言えば誰が本命だなんて分かりきったことじゃないか。

ただ、チャイナは自分のことに関して人よりも遥かに鈍いので、こんなことは想定内。




「じゃあこれもあげまさァ」


「キャホー!」




紙の袋をほいっと投げ、階段へと向かう。ガサガサと袋を漁る音が消えたと思い振り向くと、ビュンと音を立てて小さな箱が飛んできた。




「てんめぇ、あぶねーだろィ」


「お、お前!何のつもりアルか!」


「何のつもりって、まんまだけど?」




ケロッとした顔でそう答えると、かぁっと顔を赤くして、俯いたまま動かなくなってしまった。

これは想定外。




「オイ大丈夫か?」


「3本の意味も分かってんのかヨ」


「分かってらァ」


「マジ、でか」




しばらくシンとした空気になり、6限の始まりを告げるチャイムが鳴った。この空気に耐えきれず先に口を開いたのは俺の方。




「お前だってコレ、本気にするぜ?」




そう言い、先ほどすごい勢いで投げられた箱を取り出し、チャイナに見せた。

中には受け取った衝撃で割れたと思われるクッキーが入っていた。つまり、バレンタインのソレであろう。




「当たり前ダロ、キザ野郎」


「キザって何でィ」


「薔薇なんて普通は買えないアル」




今この状況でキズを抉るようなことを言いやがって。俺だって花を買うなんて初めての経験で。

学生服を着た俺が花屋を訪れたことに衝撃を受けたのは店主だけじゃなくて自分自身だってそうだ。




「普通なわけあるか、恥ずかしかったっつーの」


「まぁ…ありがとナ」


「おう」




それから2人揃って階段を上る。2階につき、チャイナは教室のある右側に、俺はクッキーを口に放り、職員室のある左側へ向かう。

そして朝のニュースで『世界のバレンタイン特集』をしていたことに感謝するのであった。










薔薇の花3本
(意味は愛しています)









*****
中国では男の人が女の人に贈り物をするそうです。
薔薇は本数によって意味が違ってて迷った末3本にしました!
だっていきなり花束とか重(ry


あと書き終えて気づいたんですけど
クッキーって箱に入れませんよね(^q^)


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