君だけの妹
□ベルトコンベアーには気をつけよう
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夏の定番と言えばなんでしょう?
冷えたスイカ?キンキンのかき氷やアイス?
それとも夜空に咲く大輪の花火?
いえいえ。そんなものはこのむさくるしい真選組には縁がありません。
真選組の夏の定番と言えば――……
―ベルトコンベアーには気をつけよう―
「あれは…今日みたいに蚊が沢山飛んでる暑い夜だったねぇ…」
1人の稲村という隊士が語り始めたもの。
それは今屯所で(なぜか)流行ってる…怪談だ。
他の隊士さんに誘われて断れず、怪談を聞いてるんだけど・・・
「・・・;;」
もう既にヤバいんですけど!怖い…私、怖いもの本っ気で無理なのに……;
そろそろ震えだしてきた頃には、話は赤い着物の女の話へ。
うぅ…怖いよ…ていうか話しかけないでよ…。
物語はどうやらクライマックスらへんらしい。
「そしたらさその女…ニヤッと笑ってさ…」
ここで全員が息をのむのがわかった。
そして・・・
「マヨネーズが足りないんだけどぉ〜…」
という声が、いきなり後ろから聞こえた。
・・・。
「「ギャアアアアアアアア!!」」
「キャアアアアアアアア!!」
周りの人につられて思わず叫んでしまった。
やだやだやだやだやだ〜〜!南無阿弥陀仏〜…;;
ここで今まで消えていた電気がつけられた。
そして、さっきの声の正体は…
「副長なんてことしてくれたんですか!?」
「お…兄ちゃん……;」
なんと自分の兄だった。
私は安堵感からなのか、思うように力が入らなかった。
ど、どうしよ…腰抜けちゃったかも…;
しばらくその場に座り込んでいると、お兄ちゃんと目があった。
「・・・おい、桜まで巻き込んだ奴は誰だ?理由によっちゃあ…斬るぜ?」
「「すんませんでしたァアアアア!!」」
お兄ちゃんの言葉に、隊士たちが頭を下げた。
斬ることに関しては、一応保留になったみたい。
「つーかマヨネーズ買っとけって言っただろーが!」
お兄ちゃん…マヨネーズがなかったからあんな台詞を言ってたんだ。
って…ん?なんか誰かいないような…
「局長ォオオオ!!」
突然近くのほうからそんな声が聞こえた。
「大変だ!局長がマヨネーズで倒れやがった!!」
「最悪だァアアアア!!」
「え…こ、近藤さん!?」
まさかお兄ちゃん+マヨで倒れちゃったの?さすがにそれはないよ近藤さん!!
「・・・って;」
駆け寄りたいんだけど、私も腰が抜けてるんだった…。
「たくっ…近藤さんも何やってんだか」
お兄ちゃんは呆れた顔をして、私の近くに来た。
「桜、オメーもとっとと寝ろ。女がこんな遅い時間まで野郎と一緒にいたらマズイだろうが」
「あ・・・ご、ごめんなさい…」
お兄ちゃんの鋭い指摘にシュンとなってしまった。
「(たくっ…これだから甘やかしたくなるんだよな…//)わかったら自分の部屋に戻れ」
「う、うん…」
お兄ちゃん、そうしたいのは山々なんだけどね……。
「…どうした?震えてんぞ」
私の様子に気が付いたお兄ちゃんは目線を低くしてくれた。
「あ・・・なんかちょっと怖くて…寝れない、かも……」
情けないとは思うんだけど、でも怖いものはやっぱり怖い。
そんな私にお兄ちゃんは手を握ってくれた。
「え・・・お兄ちゃん…?」
「俺は妹を見捨てるような兄貴じゃねえからな…、今日だけだぞ」
「今日だけ?」
…って、なにがだろう?
「怖いんなら、俺の部屋に来て寝ればいいだろ」
ちょっと恥ずかしそうにお兄ちゃんはそう言った。
恐怖で怯えていたあたしにとって、その台詞は凄く嬉しいものだった。
「お兄ちゃん!!」
「おわっΣ」
嬉しさで気持ちがこみ上げてきた私は、思わず抱きついてしまった。