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□あなたを想う
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「いらっしゃいませー!」
あの日から8年。私が今いるのは地球という星の江戸というところ。
「ハァ…疲れた〜」
「名前ちゃんお疲れ!はい、今月分の給料だよ!」
「あ…ありがとうございます、店長!」
やったぁ!なんか食べに行こうかな?
星を出てからずっと神威を探しているけど、一向に手がかりが見つからない。
「(どこにいるんだろ…神威…)」
私は夜兎の傘ではない、市販の日傘を差す星を出てから、私は自分が夜兎であることを隠してきた。
「(でも…太陽はさすがにカバーできないしね…)」
一応、夜兎族専用の傘は収縮自在にしてもらって、いつも懐に入っている。
はっきり言って…夜兎族であるハズの私だけど、戦いはあまり好きではない。戦場を好まない夜兎。珍しいかもね。
江戸はいい場所だから…だから、"夜兎"としてではなく、"人間"として見てほしかった。
「神威…会いたいよ…」
そう呟いた瞬間に…
「キャアアアアアアアア!!」
「えっ!?」
凄く大きな女の人の叫びが聞こえた。
「ぐっ…!」
その瞬間、全身を心臓がドクンと震えあがらせる。どこか懐かしい…戦場に立つ時のあの感覚。
「(ヤバい…夜兎の血が騒いで…)」
そう思っていた時には、既に私の足は叫び声の方に引きずられように向かっていた。
「っ…一体どこから……」
「動くなァアアアア!!」
「っ!?」
その声の方を見た瞬間、また心臓がざわめく。叫んだ男の下に見えるのは…血で染まった、女の死体。
「ぐっ…!くっそ…」
8年前…星を出てからは戦場に出ていないせいか、血がもの凄くざわつく。
"戦いたいんでしょ?"
そうやって心の内側から、夜兎の私が叫んでくる。
「(やめて…私は…私は…!)」
「おい、お前…そこで何をしている…」
「!?」
後ろを振り向くと刀を構えた男がいた。周りを見ると、数人の男に取り囲まれていた。
「ここで何をしている!幕府の者か!?」
幕府…刀…。攘夷志士か、コイツら。
「幕府だろうと関係ない!切れェエエエエ!!」
男の1人が切りかかってきたその瞬間、私の中の鎖が・・・切れた。
「なっ……」
あまりの驚きで、固まっていた攘夷浪士達がやっとのことで口を開いた。
無理もないだろう。だって、今の私は…狂ってる。
「…ふふ、私にはむかおうなんて、いい度胸してるよね。…ねぇ?次は誰が私と遊んでくれるの?」
マズイ…。一応理性はあるけど…体が戦いを求めてる……。
「く…このォオオオオ!!」
男が今度は数人で切りかかってくる。
やめて!これ以上刀なんか向けたら…私は…!!
だけど、目覚めてしまった夜兎が止まるはずもなく、切りかかってきた男たちは次々に倒れていった。
「ふふ…」
返り血を舐めながら笑う彼女は…まさに戦場に生きる者の姿。
血を浴びても楽しそうに笑う名前を見て、男達は恐怖が込み上げた。
どうしよう…久しぶりに力が解放されたってこともあって…コントロールできない…。
夜兎は戦場に生きる者。戦場が私たちの生きる場所。昔、そう教わった。
だけど…私は戦場が嫌いだった。
私の中にいる夜兎の血は戦いが好きだったけど、私自身はそんなこと望んでいない。
「(どうして…私は……)」
私の手が、懐にある夜兎の傘を掴む。
ダメだ…抵抗しても、もう抗えない…。
休む暇もなく、男達が切りかかってくる。いつの間にか何十人といた男たちは10人ぐらいになってしまった。
「なんだ…この娘…」
「まるで化け物じゃないか……!」
「っ!」
"化け物"その言葉に敏感に反応する。
懐かしいね…そんな風に呼ばれるのも。強さって、時に残酷だよね…。
所詮、私は夜兎族。戦場で生き、太陽の光がない夜に生きる者。
「……っ」
今の私は夜兎なハズなのに、涙があふれ出てくる。どんなに頑張ったって、私の中にいる獣は消せないんだ…。
その一瞬の隙が命取りだった。
「死ねェエエエエ!!!」
「っ!?」
このままじゃ…切られる!
傘を盾に使おうとしたが、この人数じゃ防ぎきれない。覚悟を決め目をつぶった。
その後、どこか懐かしい声が聞こえた。
「ほあちゃああああああ!!」
「「ぐあっ!?」」
「……え?」
今の…声は……。
目をそっと開くと、そこにいたのは、夜兎の特徴の1つである真っ白な肌。
そして、夜兎独特の傘を持つピンク色の髪の女の子。