Tout le monde est un ami!

□第五章 彼女の涙と弱点。
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「あ、深紅!早く早く!」



ご主人様が、こっちに手招きしているのが分かる。

何か大切な事だろうか?

オレが歩いているので遅いと焦れたのか走ってくる咲夜。

可愛いと、思った次の瞬間オレの手を引いて人影の少ない方に引っ張られて行く。

っておいおい。



「深紅も早く戻って!回復出来ない!」

『あ〜…。悪りぃ。』



すぐ原型のバオップに戻り、ボールの中へ。

そういえばサンヨウシティで擬人化した時言ってたな。

人前で擬人化や原型に戻るなって。

じゃないと怪しい奴に狙われるからと。

それは嫌だって咲夜がオレ達を必死になって説得したのは記憶に新しい…。

オレ達なんて、返り討ちにしてやるって勢いだったから。

でも、さっきもやっちまったけどな…。

此処まで来るのにも、皆平等にって交代しながらこっちに来たからそれで回復する為に呼んだんだろうな。

……道中はずっとボールの中だったし、少し疲れたかも知れない。

ボールに戻ったオレを確認するや否やまた駆け出していく咲夜。

おいおい。

それで人にぶつかるなよ?




ドン!





ほら、言っただろ?

咲夜は危なかっしいから目が離せないじゃないか。

そんな事お構い無しに尻餅をついた咲夜に謝罪する事も無く相手は突っかかって来た。



「おい!どこ見てんだ!」

「ごめんなさい。急いでたから前見えなかったんです。」



鋭い目で睨まれてるにも関わらず、へらっと笑って咲夜は謝罪をする。

…言わせてもらえば咲夜があんな奴に謝る必要は全く無い。

あいつらの所為で咲夜が転んだのは事実だし、あいつらも前方不注意だった訳だから。



「何、ヘラヘラしてやがる!」



そう言って咲夜の胸ぐらを掴み、拳を上げたのを見て、オレは居ても立っても居られなくてボールから出た瞬間、擬人化し、相手の拳を手で受け止めた。

瞬間、咲夜の顔が驚きに変わる。



「し、深紅…?」



あぁ…、オレ今すげぇ顔してんだろうな。

咲夜、悪りぃ。

我慢出来ないんだ…。



『てめぇ…、今、咲夜に何しようとしやがった…?』

「な、何って…、ヘラヘラしてやがるから『ヘラヘラしてるから、なんだって…?』ひっ!」



更に手に力を込めると悲鳴をあげる相手。



「深紅っ!いいよっ!私、大丈夫だったから!離してあげよ?」



どうして咲夜はこんな奴の肩入れするんだろうか。



『チッ…。てめぇ、今回は見逃してやるが…次は無いと思え。』



それだけ言って、オレは手を乱暴に離した。

すると、転びながらも惨めに走っていくチンピラを横目で見る。

咲夜に向き直り、なるべく優しい声音で声を出す。



『大丈夫か?咲夜。』

「うん。大丈夫だよ。…深紅…。」



彼女が顔を伏せた為、表情はこちらからじゃ伺えないが…暗い顔をしているのだろうか。

それとも恐かったから泣きそうに…なっているのだろうか…。

どちらにせよ、今のオレで彼女を慰める事が出来るのだろうか…。

今、とても心の中がざわついてるから。

とても…ムシャクシャしているから…。

そんな気持ちとは裏腹に彼女はオレの手を両手で包み込んだ。

それを本当に大事そうに自分の胸の前に持っていく。

オレは勿論だが、何か分からないからたじろぐしか、出来ない。

だけど、しっかりとオレの耳には彼女の嗚咽が聞こえたんだ。

今度はオレが驚く番。

驚いてるオレに更に衝撃的な事が起こる。

大事そうに包み込まれたオレの手に水滴…、つまり彼女の涙が落ちた。

もう、あたふたするしかない。

彼女はどうして泣いているのか…、どうしてオレの手を大事そうに握っているのか、分からないのだから……。



『お、おい…?どうした?咲夜。』

「……かった!」

『…?咲夜…?』



怯えさせない様にもう片方の手を彼女の肩に優しく置く。

すると、彼女は顔をあげ、言葉にする。



「痛かった…!」

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