ごくどきっ!

□シャマル先生の恋愛相談室
1ページ/1ページ





並盛中学の保健室を利用する者は少ない。

なぜなら、そこを管理する保健医――シャマルが原因だ。



シャマルは無類の女好きで、女子生徒は迂闊に近づく事は出来ないし、男は診ないと男子生徒は追い出されるのだ。



しかし、そんな保健室を頻繁に利用する者もいた。





「勇人。てめぇ教師がサボってんじゃねぇよ」

「うるせぇな。今の時間は受け持ちのクラスねぇんだからいいだろ」

「テストの採点とかプリント作りとかもあるだろーが」

「全部終わった」




その一人が獄寺勇人。並盛中学数学教師。

シャマルとは遠い親戚で、両親を失ってからは保護者のような存在だった。




「つかどうやって入ったんだ?保健室の鍵はしめといたはずだぜ?」

「恭弥に鍵借りた」

「天下の風紀委員長様が教師のサボりを見逃すたぁ、気に入られたもんだなぁ」

「……」



シャマルの言葉に、勇人は口を閉ざした。

その様子にシャマルは小さくため息をついた。




「暴れん坊主とはもう少し距離を置いて方がいいんじゃねぇか?
お前なら分かってんだろ。暴れん坊主の気持ちも………隼人の気持ちもな」

「っ……隼人はまだ自覚はしてねぇよ」

「でも、いずれは自覚する。隼人ももうガキじゃねぇんだ。その時、隼人にとってお前は邪魔な存在でしかねぇんだ」




分かっている。


恭弥が俺に恋愛感情を抱いていることも。

隼人が恭弥に、惹かれていることも…。



そして、恭弥が俺に恋愛感情を抱いている限りは、恭弥にとって隼人は、弟のような存在でしかないことも…。





「…俺は、隼人が幸せならそれでいい」

「なら、」

「そう……思ってたはずだった」




隼人の為なら誰が傷つこうが構わない。

そう思ってたはずなのに、恭弥を突き放す事に躊躇する。



俺は多分、恭弥に嫌われることを恐れている。




「まぁ、お前にとっちゃ暴れん坊主は隼人の次に大切な存在なんだろうな。
アイツがいなかったら、今頃隼人は…――」

「っ……やめろ!!!思い出したくもないっ!」

「勇人…」




俺は、逃げてばっかりだ。

恭弥からも、過去からも……逃げてばっかりだ。






「勇人、お前は自分を犠牲にしすぎだ」

「、んなことねぇ」

「そうだな、新しい恋でもしてみたらどうだ?」

「ふざけんなよ。俺は恋愛なんかもうしねぇって何度も…」

「六道骸」

「っ…!」

「いや〜勇人の好みも変わってるよな〜」

「……いつから、気づいてた?」



俺がそう尋ねると、シャマルは怪しく笑った。
最初からだって顔してやがる…。




「俺、そんな分かりやすかったか?」

「いや。俺以外は気づいてねぇんじゃねぇの?」

「なんで…シャマルには直ぐバレんだよ」

「そりゃ俺は勇人のオムツだって変えてやったことあるからなー」

「うぜぇ…」



でも、なんでだろうな。

悩んでる事があると、必ず此処に来てしまう。


そしていつも、素直に相談する事の出来ない俺を見越して、シャマルはさりげなく欲しい言葉をしてくれるんだ。

それが凄く、心地好いと感じてしまう。






「勇人、」



そう言うとシャマルは、優しい手つきで俺の頭を撫でた。





「お前は頑張ってるよ。だからもう少し、自分の幸せも考えろ」

「っ……」




涙が出そうになった。


いつもはふざけた事しか言わないシャマルが、時々放つ優しい言葉に、俺は弱い。




「子供扱い、すんな…」




こう言い返すのが何時だって、精一杯なんだ…――





Next...


 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ