ごくどきっ!
□シャマル先生の恋愛相談室
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並盛中学の保健室を利用する者は少ない。
なぜなら、そこを管理する保健医――シャマルが原因だ。
シャマルは無類の女好きで、女子生徒は迂闊に近づく事は出来ないし、男は診ないと男子生徒は追い出されるのだ。
しかし、そんな保健室を頻繁に利用する者もいた。
「勇人。てめぇ教師がサボってんじゃねぇよ」
「うるせぇな。今の時間は受け持ちのクラスねぇんだからいいだろ」
「テストの採点とかプリント作りとかもあるだろーが」
「全部終わった」
その一人が獄寺勇人。並盛中学数学教師。
シャマルとは遠い親戚で、両親を失ってからは保護者のような存在だった。
「つかどうやって入ったんだ?保健室の鍵はしめといたはずだぜ?」
「恭弥に鍵借りた」
「天下の風紀委員長様が教師のサボりを見逃すたぁ、気に入られたもんだなぁ」
「……」
シャマルの言葉に、勇人は口を閉ざした。
その様子にシャマルは小さくため息をついた。
「暴れん坊主とはもう少し距離を置いて方がいいんじゃねぇか?
お前なら分かってんだろ。暴れん坊主の気持ちも………隼人の気持ちもな」
「っ……隼人はまだ自覚はしてねぇよ」
「でも、いずれは自覚する。隼人ももうガキじゃねぇんだ。その時、隼人にとってお前は邪魔な存在でしかねぇんだ」
分かっている。
恭弥が俺に恋愛感情を抱いていることも。
隼人が恭弥に、惹かれていることも…。
そして、恭弥が俺に恋愛感情を抱いている限りは、恭弥にとって隼人は、弟のような存在でしかないことも…。
「…俺は、隼人が幸せならそれでいい」
「なら、」
「そう……思ってたはずだった」
隼人の為なら誰が傷つこうが構わない。
そう思ってたはずなのに、恭弥を突き放す事に躊躇する。
俺は多分、恭弥に嫌われることを恐れている。
「まぁ、お前にとっちゃ暴れん坊主は隼人の次に大切な存在なんだろうな。
アイツがいなかったら、今頃隼人は…――」
「っ……やめろ!!!思い出したくもないっ!」
「勇人…」
俺は、逃げてばっかりだ。
恭弥からも、過去からも……逃げてばっかりだ。
「勇人、お前は自分を犠牲にしすぎだ」
「、んなことねぇ」
「そうだな、新しい恋でもしてみたらどうだ?」
「ふざけんなよ。俺は恋愛なんかもうしねぇって何度も…」
「六道骸」
「っ…!」
「いや〜勇人の好みも変わってるよな〜」
「……いつから、気づいてた?」
俺がそう尋ねると、シャマルは怪しく笑った。
最初からだって顔してやがる…。
「俺、そんな分かりやすかったか?」
「いや。俺以外は気づいてねぇんじゃねぇの?」
「なんで…シャマルには直ぐバレんだよ」
「そりゃ俺は勇人のオムツだって変えてやったことあるからなー」
「うぜぇ…」
でも、なんでだろうな。
悩んでる事があると、必ず此処に来てしまう。
そしていつも、素直に相談する事の出来ない俺を見越して、シャマルはさりげなく欲しい言葉をしてくれるんだ。
それが凄く、心地好いと感じてしまう。
「勇人、」
そう言うとシャマルは、優しい手つきで俺の頭を撫でた。
「お前は頑張ってるよ。だからもう少し、自分の幸せも考えろ」
「っ……」
涙が出そうになった。
いつもはふざけた事しか言わないシャマルが、時々放つ優しい言葉に、俺は弱い。
「子供扱い、すんな…」
こう言い返すのが何時だって、精一杯なんだ…――
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