ごくどきっ!

□無自覚なヤキモチ
1ページ/1ページ





「ふぅ…」

「お疲れ様です、委員長」



放課後になり、日が落ちはじめた頃、雲雀は応接室で仕事を終わらせた。




「これで明日は一日オフに出来るね」

「何かご予定でもあるんですか?」

「予定って程じゃないけど、明日から隼人が見たがってた映画が公開するみたいだから、たまには付き合ってあげようかなって…」



隼人の趣味は結構独特だから、基本的に見たい映画の趣味は合わない。

でも、最近はなんだか機嫌が悪いみたいだし、これで機嫌が良くなればいいけど…。



「では、自分は先に失礼します。楽しんで来て下さいね」



そう言って応接室を出ていく草壁を見送ると、僕はふと夕日に照らされた校庭に目を向けた。

するとそこには隼人の姿。
部活をしてない隼人がこんな時間まで学校にいるなんて珍しいなと思ったが、その隣にいる人物を見て謎は解けた。




「山本、武…」




隼人とはクラスメートで、一番親しい男。
隼人に対する好意はあからさまで、六道の次に気にくわない男だ。




「咬み殺す…!」



僕は急いで応接室を飛び出した。














(見つけた…)



前を歩く隼人と山本武を見つけて、僕はトンファーを構えた。

これ以上隼人にちょっかいかけないように今日は徹底的に咬み殺してやる。そう思って近づくが、二人の会話に僕は足を止めた。





「え!?マジかよ!?」

「ああ、うちの常連客に映画館で働いてる人がいてな。見たい映画があるって言ったら割引券くれたんだ。
明日から公開のやつ、獄寺見たいって言ってだろ?一緒に行こうぜ!」

「行く行く!こういうの付き合ってくれる奴いないから助かるぜ」

「雲雀とは一緒に行かないのか?」

「……アイツは群れてる場所嫌いだし」

「ははっ、そういやそうだったな!じゃあ明日、10時に駅前な」





隼人は……笑っていた。


昔から人嫌いで、他人に心を開いたりしなかった隼人が……山本に心を開いている?


そういえば六道に対してだって、僕が毛嫌いしてるだけで隼人から話かける事もある。

隼人は二人を迷惑に感じてるんだと思っていたが、僕の勘違いだったのか…?




今まで、隼人に近づく輩は問答無用で咬み殺してきた。けど、僕の行動の方が迷惑だったのかもしれない。

だから隼人は、最近僕には笑顔を見せてくれなくなった…――?






「あ、そうだ。どうせ家で晩飯食うんだから泊まってけよ!」

「え…?……そう、だな。兄貴と雲雀の顔……今はあんま見たくなかったし、」






ああ……もう本当に、僕は隼人には必要ない存在なんだね。


もう……僕が守る必要はないんだ。








『きょーちゃんっ!』

『どうしたの、隼人?』

『起きたら……誰も、いなくてっ』

『勇人さんは学校でしょ?隼人をおいて居なくなったりしないよ』

『わかってる…けど、』

『安心して。勇人さんが帰ってくるまで僕が隼人の側にいるから。

僕が隼人を守るよ――』







―――もう、僕は必要ない

















♪〜



「メール?」



職員室で仕事を終わらせ、帰る準備をしていた勇人が携帯の画面に目を向ける。

メールの送り主は隼人だ。
もう家に居る頃だろうに、なんの用だ?




『今日、山本んとこ泊まる』





絵文字もない、たった一行のメール。
その一行に、勇人は目を見開いた。




「山本だとぉ!?」



隼人が友人の家に泊まるなんて初めてだ。
普通なら隼人にもいい友達が出来たんだな、と喜ぶところだが、相手が山本なら話は別だ。

あのヘタレにそんな根性はないとは思うが、寝込み襲われたらどうするつもりだ!?
隼人の力で山本に敵うわけがない。




「クソッ…迎えに行くか」




そう思って急いで学校を飛び出すと、前を歩く学ランの少年。

この辺で学ランを着ている小柄な少年は恭弥しかいない。
ちょうどいいから一緒に隼人を迎えに行こう。


隼人は俺が言うより、恭弥の言うことのほうが聞くしな。







「恭弥!」

「…、勇人さん」



なんか…恭弥の様子がおかしい。



「隼人から山本んとこ泊まるってメールがあったんだ。今から迎えに行くつもりなんだけど恭弥も行くだろ?」

「…………行かない」

「え…?」



ある意味俺以上に過保護に隼人を可愛がってた恭弥らしからぬ発言に、俺は目を見開いた。

まさか…隼人と何かあったのか?




「隼人が山本武の所に行くのは知ってるよ。明日仲良く映画見に行くみたいだしね」

「な、…知っててどうして?」

「隼人はもう…子供じゃないんだから。僕達が心配する必要はないよ」

「…………って言う割には、かなり不機嫌そうな顔してるな?」

「っ!?」



ビクリと身体を反応させる恭弥に、俺は思わずため息をついた。

恭弥は完全に山本にヤキモチを妬いている。
それは確実だが、それが隼人に対する恋愛感情からくるのかは分からない…。




「恭弥の言う事も一理あるな。迎えに行くのは辞める」

「え、」



恭弥は少し戸惑いの表情を見せる。
自分が行かなくても、俺が行くって安心してやがったな…。




「隼人も好き放題してるみたいだし、俺も好き放題させて貰うぜ」

「勇人さん?」

「恭弥、明日俺とデートしよう」





これは賭けだ。

賭けに負ければ、隼人は一生俺に笑いかけてくれなくなるかもしれない。



それでも俺は、お前らには幸せになって欲しい…―――




Next...




***
ちなみに隼人は小4まで雲雀をきょーちゃんと呼んでました(笑)



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ