ごくどきっ!

□崩れゆく関係
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「勇人さんが行きたい所って……此処だったの?」



勇人さんにデートに行こうと誘われた。

普段の僕なら凄く嬉しいことのはずなのに、今日は何故か頭に隼人がチラついて素直に喜べない。



でも、勇人さんの誘いを断れる訳もなく、連れて来られた場所は映画館。

今日、隼人と山本が行くと言っていた場所だ。




「ああ、俺も見たい映画あったしな」

「それってもしかして…」

「宇宙人VS地底人」

「やっぱり、」



流石は兄弟と言うべきか…。どうしてこの兄弟はそういった世界の不思議が好きなのか。
勇人さんが見たいと言った映画は、隼人が見たがっていたものと見事に一致した。


マイナーな映画な為、公開回数も1日に1回しかないから、隼人達と鉢合わせになるのは必至だ。

勇人さんは最初からそれが目的なのか?



「ねぇ、勇人さ…」

「おやおや。お二人揃ってデートですか?」



僕の言葉を遮ったのは、居るはずのない六道の声。
まさかと思って振り返ると、そこには案の定、六道骸の姿があった。



「む、骸!?なんでお前が此処に!?」

「クフフ。今日此処に来れば隼人君に逢えるかと思いましてね」



ストーカーか。そうツッコんでやりたかったが、珍しく動揺した様子の勇人さんを見たら言葉を失った。

まるで、見られたくなかった……そんな顔している。



「隼人君はご一緒ではないんですか?」

「あ、アイツは…」

「ゲッ!」



そう声を発したのは隼人で。隣には不思議そうな顔をした山本武がいる。

二人が此処に来ることは分かっていたはずなのに、何故か胸がチクリと痛んだ。




「雲雀に獄寺先生に六道先生まで……珍しい組み合わせなのな!」

「僕は今偶然会っただけですけどね。ところで山本君」

「ん?」

「僕の隼人君から離れなさい」

「ははっ。獄寺は六道先生のもんじゃないのなー」



睨み合いながら攻防を繰り広げる骸と山本を無視して、隼人は自身の兄に目を向けると、あからさまに怒りの表情をしていた。

てっきり昨日のうちに家に連れ帰されると思っていたのにメールの返信すらなくて安心していたが……やっぱり昨日のうちに連れ帰される方がマシだったかもしれない…。




「な、なんで兄貴が此処に?」

「俺が映画見に来ちゃダメなのか?」



笑顔なのに怖い!



「いや……別にそうは言ってないけど、なんで雲雀まで…」



兄貴の見たい映画は恐らく俺と同じだろう。
雲雀はこのての映画は嫌いなはずなのに、




「…別に、僕は勇人さんに誘われたから来ただけだよ」

「っ!」



兄貴に、誘われたから?



「へぇ…俺が誘ってもいつも断る癖に?」

「ただの気まぐれだよ。それに、隼人には僕じゃなくてもそこに居る山本や六道なら喜んで付き合ってくれるじゃない。
僕が隼人のお守りをしてあげる必要はないで…」

「恭弥っ!!!」




勇人の言葉に、雲雀は我に返った。
イライラしてたせいとは言え、これは流石に言い過ぎだ。

謝らなければ。そう思って顔を上げて隼人の顔を見たら、雲雀は更に言葉を失った。



隼人の瞳に、涙が溜まっていたから…。




「ガキのお守りなんかさせて悪かったなっ…!」

「隼っ…」

「嫌ならもう…………二度と俺に構うなっ!!!」




そう言って隼人は、僕らの横を通り抜けていった。

呼び止めたいのに、言葉が浮かばない。



隼人が泣いていた。

否、僕が泣かした。



子供の頃、泣き虫だった隼人を泣かせない為に守っていたのに……その僕が隼人に涙を流させた。




「待てよ!隼人!」

「獄寺先生」



隼人を追いかけようとする勇人を、骸が止める。



「貴方が行っても逆効果です。ここは僕に任せて下さい」

「骸…」



勇人にニッコリと笑みを向けると、骸は隼人の後を追いかけた。

イマイチ状況についていけない山本も、とりあえずは隼人を追いかけようとするが、それを勇人に静止させられた。




「悪い、山本。今は骸に任せた方がいい」



普段はふざけた様子の男だが、あれでも一応は教師だ。
隼人の相談にものってくれるだろ。

山本もそれを察してくれたのか、コクりと頷く。



そして勇人は問題の雲雀に目を向けると、隼人の涙に相当まいったのか、手を強く握り締めたまま固まっている。



今まで口喧嘩は多かった二人の関係がここまで拗れたのは初めてだ。

勇人はどうやって二人の関係を修復するかと頭を悩ませた。























「落ち着きましたか?」

「ああ…」



公園のベンチで骸に貰ったホットココアを飲みながら、隼人は小さなため息をついた。




「俺さ……ずっと雲雀に子供扱いされたくなかったのに、いざそうなったら寂しいとか思ってんだ。変だよな」

「変ではないですよ。人は誰しも、変わりゆく事を恐れます。ずっと子供のままでいたかったと思う人間は五万といますから」

「そ、かな…」

「それに、雲雀君の言葉が本心でないことくらい、隼人君だって分かっているでしょう?
今日の雲雀君は様子がおかしかったですから」

「それは……そうなんだけど、」




でも、雲雀が俺より兄貴が好きだという事実は変わらない。

雲雀が好きだと自覚してたった一日で、俺は完全に失恋してしまったみたいだ。




「なんか、今日も家に帰りづらくなっちまったな」

「なら、僕の家に来ますか?」

「え?」

「今日一日、泊まっていって下さい」



そうニッコリと笑う骸を見て、俺は思わず首を縦に振った。



















「電話…、骸からか」



骸からの着信に、勇人を携帯の通話ボタンを押した。



「骸か?隼人の様子はどう…」

『隼人君の身柄は僕が預かりました』

「は…?」

『明日の夕方までにはお返しするので安心して下さいね。それでは、Arrivederci』



プチッ……ツーツー





「な………………なんだとぉ!?」

「どうしたんすか獄寺先生!?」

「は、隼人が…」

「獄寺が?」

「骸に誘拐された!!!!」

「えぇー!!!!」




その言葉に、僕の心臓がわしづかみされたような衝撃がはしった。


隼人がどんどん遠くなる。


いつも隣を歩いていたはずなのに、気が付けば隼人はどんどん僕より前を歩いていて…



僕は隼人を、見失ってしまった…―――




Next...




***
ようやく雲隼の関係が本格的に動き出しました!
山本が空気でサーセン(苦笑)

次回は華麗なる骸さんのターンです。
拍手ありがとうございましたv


 
 

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