ごくどきっ!

□砕けた想いの行方
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「骸って黒曜に住んでたんだな、」

「えぇ、並中までは車で通ってるんですよ」



骸に連れて来られたのは隣町の黒曜にある高級マンション。
部屋は結構シンプルで、上品な感じが骸らしいと思った。




「隼人君。珈琲と紅茶、どちらにしますか?」

「んー、紅茶」

「はい、ちょっと待ってて下さいね」



そう言ってキッチンに向かう骸の背中を見ながら、俺はソファーに腰を降ろした。



なんで…こんな所に来ちまったんだろ。
これじゃあ余計に家に帰りづらくなるじゃんか…。


でも本当は、理由なんて分かってるんだ。

普段から骸には近づくなと言っていた雲雀が、迎えに来てくれるかも……なんて、有り得ないよな。

もう雲雀は、毎朝俺を迎えに来ることすらしてくれない。

幼なじみとして過ごすことすら…俺達には――





「隼人君?紅茶入りましたよ」

「あ、ああ…さんきゅ」



骸が差し出した紅茶を口にする。

暖かい。凄く落ち着く。


でも落ち着くのは紅茶のおかげじゃなくて、骸が側に居るからなんだろうな…。


なんでだろ。初めて会った時から骸の側って落ち着くんだよな…。

なんか凄く、懐かしいんだ。





「クフフ」

「…なに笑ってんだよ?」

「いえ、相変わらず無防備だなっと…。その紅茶に、僕が変な薬でも入れてたらどうするんです?」

「骸は…んなことしねぇだろ」

「信用して下さるのは嬉しいですが、僕も男ですよ?
大好きな隼人君を目の前に、何もしない確証はありません」

「確証ならあるぜ?」



予想外の隼人の言葉に、骸は目を見開く。



「それは…どんな?」

「骸が本当に好きなのは俺じゃなくて、兄貴だから。
流石に想い人の弟に手を出すわけない」

「……」



確信めいた隼人の言葉に、骸は言葉を失う。
そのあと直ぐに笑みを見せた。



「クフフ…いつから気付いてたんです?僕が獄寺先生を好きだと」

「んー、最初から?基本的に、俺に近づく大人は兄貴目当てだって思ってるから。最初から骸もそうだと思ってたし。
まぁ、骸は他と違って媚び売ったりしなかったから好感は持てたし、俺の事を気に入ってるのは嘘じゃないと思ったから別にいいかなって」

「僕は隼人君を利用したりはしませんよ。本当に可愛いと思ってますから」

「可愛い言うな」

「あ、ただ。隼人君に近づくと怒る獄寺先生が可愛いので、必要以上に隼人君に構ってしまったのは事実ですが」

「うわ、悪趣味だな…」

「褒め言葉ですね、クフフ」



ニコニコ笑う骸は、本当に何を考えてるのか分からない奴だ。

でも、骸になら兄貴を譲ってやってもいいかなって思う。




「告白はしねぇの?兄貴は完璧に骸は俺が好きなんだって勘違いしてるぜ?」

「しませんよ、今は…ね」

「なんで?やっぱり骸でもフラれるの怖いとか?」

「そういう訳じゃないですよ。もちろんフラれたくはないですが、一度フラれたとしても諦めるつもりはありませんので…。ただ、」

「ただ?」

「獄寺先生は、恋をすることを恐れてるように見えるんです。
だから今は、言いません…」



恋を恐れてる?兄貴が?

そういえば兄貴って、モテる癖に恋人作らないよな…。


なんか、理由でもあるのか…?




「そういう隼人君はどうなんですか?」

「え?」

「好きなのでしょう、雲雀君の事。その気持ちを伝えなくてもよいのですか?」

「っ……俺、は」



雲雀に気持ちを伝える…。

そんな事、出来る訳がない。


だって雲雀は、俺を嫌いな訳ではないと思うから。
俺の気持ちはきっと雲雀の重荷になる。

雲雀の兄貴への想いへの…邪魔になるかもしれない。


それは、それだけは……嫌だ。




「…言わない。絶対に」

「……」

「骸には悪いけどさ、俺は雲雀の恋を応援するぜ。雲雀と兄貴が幸せなら、俺は…」

「そうやって、いつまで逃げるのですか?」

「え…」



唐突な骸の言葉に、俺は目を丸くした。



「逃げて何かが変わるんですか?隼人君の想いが、消えるというのですか?」

「…骸、」

「逃げないで下さい、隼人君。誰かを想いやるのは素晴らしい事です。でも、自分を犠牲にするのはダメです。
隼人君が犠牲になって得た幸せで、雲雀君や獄寺先生が本当に幸せになると思ってるのですか?」

「っ…」

「恋を終わらせる一番の近道は、前に進む事です。
当たって砕けろってよく言うでしょう?砕けたっていいじゃないですか。砕けて得るものもあるんですよ」



砕けて得るものなんて本当にあるのか?

雲雀とは今よりも気まずくなって…兄貴の顔だって、きっとまともに見る事が出来なくなる。



俺は一人ぼっちになる。


一人は……嫌だ。




「俺はっ」

「もし、本当に砕けてしまったら…」

「え?」

「その欠片は僕が全て拾ってあげます。だから、怖がらないで下さい」




そう言って骸は微笑んだ。

凄く心が暖かい。



そうか、俺はもう一人じゃないんだ。

学校に行けば沢田先生や、山本にシャマル……そして骸がいる。

きっと、変わらぬ笑顔で俺を迎えてくれる。



だから…





「ありがとな、骸」





砕けたって、怖くない。





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