ごくどきっ!

□嵐の予感
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「隼人、今日宿直だったこと忘れてて飯の用意なんもしてねぇんだ。
悪いけど恭弥でも誘って、どっか食べに行ってくれ」




そう言って兄貴に渡されたお金を見つめながら、俺は固まった。


今夜は兄貴が居ない。


雲雀と俺が、その…こ、恋人、という関係になって数日。
幼なじみとしての期間が長すぎるせいか、正直付き合う前と変わらぬ関係が続いている。

それは多分、家に兄貴がいるから二人っきりになれないというのも大きく関係しているのだろう。



でも、今日は家に俺一人(瓜は居るが)

雲雀を家に誘えば二人っきりになれる、イコール……恋人らしい事も、出来る…。





「って!何考えてんだよ俺は!?変態か!?」

「ワオ、びっくりした…。どうしたの、隼人?一人で百面相してるかと思えば、いきなり声あげて…」

「ひ、雲雀…!」



いつの間にか兄貴の姿はなく、代わりに雲雀が側まで歩み寄ってきた。

今の見られたのか?やばい、めちゃくちゃ恥ずい。




「顔赤いけど、熱でもあるの?」

「あ、いや…大丈夫だ。それより、今日は兄貴が宿直で居ないんだ。雲雀と飯食ってこいって言われたんだけど、一緒に行くだろ…?」

「それは、構わないけど……なんなら僕の家で食べる?」

「へ?」


予想外の雲雀の誘いに、俺は目を丸くした。


「法事があるとかで、両親しばらく帰ってこないんだ」



こっちから誘ってやるくらいの意気込みだったのに、雲雀から誘われるなんて…。

これは、ちょっと…期待してもいいのか…?




「隼人?」

「え、あ……そうだな。だったら、お邪魔しよう、かな」

「よかった。なら一緒に帰ろう、応接室で待ってるから」

「おぅ…」




それから俺は、授業中ずっと胸の鼓動を高鳴らせていた。

もしかして今夜…大人の階段、登っちゃうかも…?



















「あ、瓜も連れていってもいいか?」



放課後になり、家の前までくると瓜の事を思い出して足を止める。



「もちろんだよ。先に行ってるね」



雲雀に断りをいれて自分の家に入ると、直ぐに瓜が顔を出した。

俺は玄関前に雲雀がいない事を確認し、扉を閉めて瓜に手を伸ばした。



「頼む瓜!今日は俺の側にいてくれ!」

「にょ?」



今日一日、色々考えたが、雲雀と二人っきりということを考えただけで心臓がバクバクして大変だった。

これでは実際に二人っきりになんかなったら平常心を保っていられる訳がない。
意識しすぎて変な奴とか思われて嫌われたくねーし、瓜が一緒ならいつも通りに出来るだろ。




「な、瓜!今度高級ネコ缶買ってきてやるから!」

「にょ!」



ネコ缶に釣られたのか、瓜は大人しく俺の腕に収まった。
兄貴だったら直ぐに従う癖に…。




俺は瓜を抱えたまま隣の雲雀の家に向かうと、雲雀は玄関の前で立ちすくんでいだ。




「雲雀?中に入らないのか…?」

「おや、隼人ではないですか?」

「へ?」



家の中から雲雀以外の声が聞こえる。

今日は雲雀の両親は居なくて、雲雀一人だと言っていたのに、何故?



そう疑問に思いながら雲雀の横まで歩み寄り、家の中を覗いた。
そこには、雲雀によく似た……でも、雲雀よりも優しい面影のある青年が立っていた。





「お前は…………風!?」

「お久しぶりです、隼人」



その優しい笑顔に、雲雀は顔を歪め、俺は目を見開いた。

























「お前、まだ残ってたのかよ…」



その頃、勇人は生徒が全員帰ったのを確認し、職員室へと戻った。

そこには、今だに仕事をする骸の姿があった。




「ああ、もうこんな時間でしたか…。すみません、直ぐに帰ります」

「おぉ…」



慌てて帰る支度をする骸を見ながら、勇人は言葉を探した。
このままさよならでは味気無さすぎる。せめてもう一言二言会話をしたい……が、口下手の勇人にそんな言葉が思い付くはずもなく、勇人は骸に気づかれない程度に小さくため息をついた。

そんな勇人の気持ちに気付いたのか、骸がゆっくりと口を開いた。





「そうだ、獄寺先生」

「へ?」

「今度、どこか食事にでも行きませんか?」

「え……えっと、二人で…か?」

「何かおかしいですか?」

「あ、いや……そういうんじゃねぇけど…」



隼人じゃなくて、俺を誘う?
珍しい事もあるんだな…。




「では、決まりですね。また明日」

「ああ、気をつけて帰れよ」



ドキドキと煩い鼓動を収め、必死に平常心を保ちながら骸を見送った。


骸と二人で食事…。
単なる仕事の付き合いみたいなものなんだろうが…やっぱり、嬉しい…かな。




この時の俺は、この恋に嵐が吹き荒れようとしている事に……全く気付いていなかった。




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