ごくどきっ!

□ブラザーコンプレックス
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「なー雲雀ー。いい加減帰ろうぜ?」

「嫌だよ。あんな群れの塊」



買い出しと偽って俺と雲雀が訪れたのは並盛公園。
その公園のベンチで、雲雀は終始不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。




「早く帰らないと沢田先生と骸が帰っちまう…」

「寧ろ本望だね」

「でも、そしたら兄貴と風が二人っきりに…」

「っ!?」



俺のその言葉に、雲雀は目を見開き、困ったように顔を俯かせた。




「それは…困るね。帰ろうか」

「……」



コロリと変わった意見に、今度は俺の眉間にシワが寄った。




「…まだ兄貴に未練あんのかよ、」

「え?ああ、そういう意味じゃないよ」

「じゃあどういう意味だよ!?風に兄貴取られたくないだけだろ!?」

「そうだけど……心情的には片親の再婚相手に嫉妬してるようなものだよ」

「……は?」

「僕にとっては、あの人や両親以上に…勇人さんが育ての親みたいなものだからね」




そういえば、風は留学して、雲雀の両親も仕事が忙しいみたいだからあんま家に居ないし、雲雀の家族が全員揃うところなんて……見たことねぇかも…。

家族の話だって、したことねぇしな…。




「もしかして雲雀って、兄貴を風の代わりにしてたのか?」

「は?」

「だから、本当は風に甘えたかったのに側に居ないから、代わりに兄貴に甘えてたのかなって…」

「なっ!!??」



雲雀が顔を真っ赤に染めながら慌てだした。

雲雀が取り乱すなんて珍しいな…。もしかして、図星だったのか?




「へぇ〜雲雀って意外と可愛いとこあんだな」

「ち、違うよ!!!僕はあの人が世界一嫌いなの!!!」

「あの人あの人って、たまにはお兄ちゃんって呼んでやれよ。風もきっと喜ぶぜ?」

「呼ぶわけないでしょ!?」

「ほら、練習しようぜ。せーのっ、お兄ちゃ〜ん」

「いい加減にしないと怒るからね!?」




雲雀と出会って10年。

また一つ、俺の知らなかった雲雀を知ることが出来た。


意地っ張りで素直じゃねぇけど、そんな所も好きだと思えた。






















「それでは、ご馳走様でした」

「お邪魔しました。また明日ね」

「はい、お気をつけて。骸!ちゃんと沢田さんを無事に送り届けろよ!!!」

「分かってますよ」




短い挨拶を済ませ、骸と綱吉は骸の車に乗り込み獄寺家を後にした。

獄寺家が見えなくなった所で、それまで笑顔だった骸の表情が消える。




「あのさぁ、そのあからさま過ぎる態度、なんとかならないわけ?」

「どうして僕が沢田先生を送らなきゃいけないのでしょう…」

「自分から申し出たんだろ!?俺だって一人で帰りたかったよ!!!」



勇人が居るのと居ないのではこうも態度が変わるのかと、綱吉はため息をついた。




「骸ってやっぱり、獄寺君のこと好きなわけ?」

「おや?それはどちらの獄寺君でしょうか?」

「勇人の方だよ!聞かなくても分かってるんだろ!?」

「……」



綱吉の問いに、骸は無言で返した。
それはつまり、肯定の証。




「……俺が昔忠告したの忘れたの?」

「本気になるな、でしたっけ?了承した覚えはありませんが?」

「……無駄だからね。獄寺君を好きになったって」



本当は気づいている。

獄寺君が……骸に惹かれていることは。


骸と結ばれる事で獄寺君が幸せになるなら、俺は全力で協力する。
でも、今はまだダメだ。今、骸に告白されるのは困る。


だって獄寺君はまだ、あの人の事を…――




「無駄、というのは。沢田先生宛てに届く、エアメールの差出人が絡んでいるんですか?」

「っ…!立ち聞きしてたんだ?性格悪いなぁ」

「おや?僕が立ち聞きしていると気付いていた人にだけは言われたくありませんねぇ」

「俺、骸とは一生友達になれない気がする」

「気が合いますね、僕も同感ですよ」




骸は時々、何を考えているのか分からない時がある。

骸の放つ言葉の全てが、嘘のように思えてくる。


だけど…。





「ねぇ、骸。本気で獄寺君の事が好きなの?」

「…えぇ、本気です。好きですよ、勇人の事が……ね」




この言葉だけは嘘じゃない。

何故かそう思えた。




















「隼人達、帰って来ないな…」

「そんなに心配しなくても、恭弥が一緒なのですから大丈夫ですよ」

「それは分かってるんだけどよ、」



夕飯の後片付けをしながら、未だ帰らぬ隼人達を気にして勇人は何度も時計を見た。

そんな様子に、風はクスッと笑みを零す。




「な、なんだよ…」

「いえ、相変わらず兄弟仲が良いな、と。少し……羨ましいです」

「……羨ましがる暇があったら、もう少し恭弥と歩み寄る努力をすればいいだろ」

「分かってます。分かってはいるんですが……10年近くもの間、僕は自分のや事ばかりで……兄らしい事は一つも出来ませんでしたから…。今更どのように接すればいいのか…」

「……」



風のその言葉に、勇人は顔を俯かせた。





「自分の事ばかりだったのは………俺の方だ、」

「え?……あ、すみません…」




自分の事しか見えていなかった。

隼人の事を気にかける余裕なんかなくて、自分のことで精一杯だった。


だからあの日、俺は……………隼人を失いかけたんだ。







「大丈夫だぜ、風。俺ですら隼人の兄でいられるんだから、お前らだってこれから少しずつ…溝を埋めて行けばいいだろ?」

「勇人…」



どこか辛そうに笑う勇人に、風は胸が締め付けられるようだった。






「ただいまー」

「お、帰ってきたな。
こらー隼人!どこほっつき歩いてたんだ!?罰として残りの後片付けは二人でやれ!」

「えぇ…!」




今からでも、遅くはないのだろうか?

私ももう一度……歩み寄る事ができるのでしょうか?






「……恭弥、お帰りなさい」

「……」



恭弥は直ぐに私から目を反らした。

やはり、そう簡単ではないですよね。




「………だいま、」

「え?」




恭弥が私の隣を横切り、小さく呟いた言葉。

聞き間違い、だったのかもしれない。でも、確かに聞こえた……ただいまという言葉。

恭弥の口からその言葉を聞くのは、一体何年振りでしょう。



「お帰りなさい」




まだ、時間は掛かるかもしれない。

でも、一歩ずつ一歩ずつ……歩み寄って行こう――




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