ごくどきっ!

□越えられない存在
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風が日本に帰国して数日。並中は大騒ぎになっていた。




「そこはもっと腕を引いて、力を抜いて下さい」

「は、はい!」

「風先生!私にも稽古つけて下さい!!」

「はい。もちろんですよ」

「「「キャー!!」」」




風が見せる笑顔に、黄色い声が響き渡る。

並中拳法部のOBである風がボランティアで講師を務めるようになってからというものの、拳法部の女子はもちろん、関係ない女生徒からも絶大な人気を得ていた。







「凄いよね…風先輩の人気」

「まぁ、昔はファンクラブもあったくらいですし、同じ顔の恭弥が無愛想な分、ギャップにやられたんでしょう」



職員室の窓から道場を眺めていた綱吉と勇人は、聞こえてくる女生徒の悲鳴にため息をついた。




「それに引き返え骸は……なんか機嫌悪いね」

「女子に愛想がいい敬語キャラって所が被ってますからね。今まで骸にキャーキャー言ってた女子が風に行っちまって、面白くないんじゃないですか?ガキくさいですよねー」

「キャラって…」

「失礼ですね!別にそんな事で不機嫌になってる訳じゃありません!!!」

「じゃあなんだよ?」

「純粋に彼が嫌いなだけです!」

「もっとガキくさいじゃねぇか!?」

「あはは…」



確かに10年前からライバルだと思ってた人が、実は恋のライバルでもあったなんて、面白くないのは分かるけどね…。




「でも骸が機嫌悪いなんて珍しいよな」

「そう?俺の前なら普通だけど?」

「へ?」

「沢田先生…!」

「あはは〜なんでもな〜い」



いい加減に獄寺君の前で猫かぶりすんの辞めろよ。



「全く……あ、もうこんな時間ですか。僕も部活の方に顔を出してきますね」

「ああ、お疲れ」

「部活?」



骸が職員室を出ていき、綱吉が首を傾けた。



「骸って部活の顧問なんかしてたっけ?」

「あぁ、園芸部ですよ。部員はほとんど幽霊部員で、骸一人で活動してるようなものですけど」

「園芸部?骸が?」

「はい、中庭の花壇とか、骸が赴任する前は枯れていたでしょう?あれを綺麗にしたのも骸らしいですよ」

「えぇ!?てっきり雲雀さんが業者に頼んでるのかと思ってた!」




骸って植物好きなんだ…。なんか意外だな……というか、




「なんで獄寺君、そんなに詳しいの?」

「え………あ、べ、別に……偶然、ですよ?」



吃りすぎ。そして顔真っ赤なんだけど…?

え?何?骸と一体何があったの!?


















「「「ありがとうございました!!!」」」

「気をつけて帰って下さいね」



部活の練習時間も終わり、風は職員室へと向かった。



(勇人、まだいるでしょうか?)



私が日本に居られる時間もあと僅か。
だからこそ、並中のOBとして校内に侵入したのだ。

不純な動機で拳法部の皆さんを利用しているようで心苦しいが、今はなりふり構ってはいられない。


彼に……六道さんだけには、勇人を譲りたくはない。




「あれは…」



そんな事を考えながら通った中庭。
そこに六道骸の姿を見つけ、私は足を止めた。

そんな私の視線に気がついたのか、六道さんもこちらへと視線を向けた。




「もう、練習は終わったんですか?」

「えぇ。綺麗な花壇ですね」

「当たり前です。僕が育てたんですから」

「え?」



六道さんが?

こういう事を進んで行いタイプには見えないのですが…。




「そういえば黒曜中には綺麗な温室がありましたよね。昔、入った事があるのですが、もしかしてそれも…?」

「えぇ、在学中は僕が管理してました」

「……植物、好きなんですね」

「そんなに意外ですか?好きですよ。植物は大切にした分、綺麗に育ちますから……人間と、違って…」

「……」

「人間は、過保護にすればするほど……ダメな大人になります。親の愛情を受けて育ったのに、いい気なものですよね」

「…一概にそうとは言えませんが……確かに一理ありますね」



私もその一人なのかもしれない。
何不自由なく生きて、自分の好きな事ばかりして……そのせいで親の期待は全て恭弥にいってしまったのだから…。




「六道さんは、ご両親に厳しく育てられたのですか?」

「厳しかったですよ。親ではなく、孤児院の大人にですけど」

「え?」

「僕は施設で育ったんですよ」

「あ、すみません。失言でした」

「別に、謝って頂く理由はありません」



そう言って骸は再び花壇に水を撒いた。


彼と私はよく似ていると思っていた。
どこか、冷めた心をもっている。

でも、感情を表に出さないだけの私と違って、六道さんは感情そのものが欠落しているように見える。




「教師になったのは、そういう事を生徒に教えたかったからですか?」

「僕がそんな熱血教師に見えますか?たんに公務員ならなんでもよかっただけですよ。
まぁ、今は教師になってよかったと思ってますけど」

「……勇人に、出逢えたからですか?」



すると骸は、無言で微笑んだ。

勇人に出逢って、感情を取り戻した……みたいですね。







「渡しませんよ、貴方には」

「それはこちらの台詞です。貴方に負ける気はしません。僕がライバル視すべき相手は、貴方ではないみたいですから」

「…どういう意味です?」

「最初、隼人君に中国から雲雀君の兄が帰国してると聞いた時は、あのエアメールの差出人は貴方なのかと思ったのですが……どうやら違うみたいですし」

「エアメール?」

「沢田先生宛てに届いてるらしいですよ。差出人は知りませんけど」

「っ!?」



沢田君宛てに届いた、海外からの手紙…。
まさか……あの人が…?




「っ……その手紙には、なんと?」

「詳しくは知りません。獄寺先生に逢いたがってるみたいですけど…。
心当たり、あるんですか?」

「えぇ……まぁ、」




間違いない、彼だ。

あまり…時間は残されてないみたいですね。
そろそろ本気を出さなくては…。




「貴方がそんな怖い顔をするなんて、余程の強敵みたいですね」

「知りたいですか?」

「気にはなりますけど、貴方の口から知りたいとは思いません。
でも、一つだけ聞いてもいいですか?その人物が……獄寺先生が恋に臆病になった原因なのですか?」

「……そう、ですね」




でも同時に、勇人に恋を教えたのもまた、彼だった。





「そうですか……それが分かれば十分です」



そう言って骸は校舎へと戻って行った。


彼は、不思議な人だ。

彼には負けたくないと思うのに、彼になら……勇人を幸せに出来るかもしれないなんて…。




本当は分かっているんです。

私は、私では…勇人を、






「風?まだ残ってたのかよ?」

「勇人……。えぇ、一緒に帰ろうかと思いまして」

「そっか。俺ももう上がりだから、荷物持って来るな」




そう言って勇人は私に笑みを見せた。


勇人はあまり他人に笑みを向けない。
その勇人が私には笑顔を向けてくれる。なんて、優越感。


でも、分かっているんだ。
勇人が私に見せてくれる笑顔は、沢田君やシャマルさんと同じ……信頼の証。


それ以上でも、以下でもないことくらい。分かっている。




ねぇ、勇人。


私ではやはり、あの人を越える事は出来ないのですか…?




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