ごくどきっ!

□動き出した歯車
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「なんか久しぶりだなー、風と二人で呑むなんて」

「そうですね」



明日、私は中国に戻る。
そのおかげなのか、勇人が行きつけの飲み屋に連れてきてくれた。




「でも、よかったのですか?隼人と恭弥も連れて来なくて?」

「いいんだよ。こうでもしないとアイツらなかなか二人っきりになれないからな」



その言葉に、勇人は今までもこんな風に二人の為に気を使っていたのだなと実感して、なんだか微笑ましくなった。



「ありがとうございます、恭弥の為に…」

「まぁ、アイツらが遅かれ早かれくっつく事は10年前から分かってたしな…。
つか、恭弥以外に隼人を譲るつもりもなかったし」

「私や沢田君でもですか?」

「ああ。だって隼人を幸せに出来んのは……恭弥だけだからな、」

「そんなこと…」



そんなことは、ないのに。

確かに、10年前のあの日…隼人を救ったのは恭弥だった。

それでも、あの日から勇人は全てを捨てて隼人を守ってきた。
それは紛れも無い事実だ。



「勇人、」

「あー!暗い話は終わり!!!今夜は飲もうぜ!俺の奢りだから遠慮すんなよ!」

「…ありがとう、ございます」



無理矢理笑顔を作る勇人に、胸が痛んだ。


















「勇人、勇人!起きて下さい!」

「う〜……」

「全く…流石に飲み過ぎですよ」



比較的に酒に強いはずの勇人がここまで酔うなんて…。




「勇人……」



無防備に眠る勇人の髪に、そっと触れる。

ずっとこうして触れていたい。そう思った瞬間、勇人の口がゆっくりと開いた。




「っん………でぃ…の、」

「っ!?」

「……ディーノっ」



勇人の頬に、涙が流れる。

あれからもう、10年が経ったのに……それでも貴方は、彼を想って泣くんですね。


貴方に触れているのは私なのに…。
この手すら、彼のものだと思っているのですか?




「それでも、私は…」




構わない。

勇人、私は貴方が欲しいです。



そうして、ゆっくりと顔を近づける。

こんなの卑怯だとは分かっているけれど、この衝動を止める事は出来なかった。



あと数センチ……という所で肩に別の力を感じ、勇人から引き離された。





「寝込み襲うというのは、感心しませんね」

「っ……六道さん!どうして此処が…?」

「隼人君に連絡を貰ったんですよ」



隼人が?どうして六道さんに?

もしかして隼人は私よりも、六道さんの方が勇人に相応しいと判断したのか?






「獄寺先生、帰りますよ。起きて下さい」

「うー…」

「うー、じゃありません。起きなさい、勇人」

「ん?……む、くろ?」




寝ぼけながらも勇人は、六道さんの名前を呼んだ。

あの人の名でも、私の名でもなく……骸、と。




「っ……」




どうやら私の……負けみたいですね…。





「僕はこのまま獄寺先生を送って帰ります。貴方は…」

「一人で大丈夫ですよ。少し頭を冷やします…」

「……そうですか」




六道さんは勇人を抱き抱えて、私に背中を向けた。

その背中に向けて、私は小さく口を開く。






「勇人を……よろしくお願いします」



返事はなかったが、恐らくちゃんと聞こえていたのだろう。

私にはあの人を越えることは出来なかった。

だから六道さん、貴方があの人を越えて下さい。
















「………ディーノ、ですか」



骸は車を運転しながら、助手席で眠る勇人に目を向けた。


風の前で寝ぼけながら呟いた、ディーノという名。
彼が恐らく、あのエアメールの差出人。


獄寺先生にとって……大切な人…。




「貴方は今……誰の夢を見ているのですか…?」




そう呟きながら、骸は気持ち良さそうに眠る勇人の髪を、優しく撫でた。
























翌日。




「本当に空港まで見送りに行かなくてもいいのかよ?」

「えぇ、もう子供じゃありませんから」



荷物をタクシーに積み込み、風は恭弥へと視線を向けた。



「また暫く家を空けます。よろしくお願いしますね」

「ふん。もう一生帰ってこなくていいよ」

「雲雀!お前なぁ!」

「いいのですよ、隼人。恭弥のこと、頼みます」

「風……元気でな。それと、ごめん…。協力するどころか、邪魔しか出来なくて…」

「気にしてません。隼人が彼を選ぶ理由は分かりましたから…」

「風…」



隼人と風の会話に、勇人は首を傾げる。



「お前らなんの話してんだ?」

「内緒です。ね、隼人」

「おぉ!内緒だ!」



そう言って二人は笑い合った。
事情の分からない勇人は再び首を傾け、恭弥は不機嫌そうに顔を歪めた。





「じゃあ、そろそろ行きますね」

「ああ、気をつけてな」

「……勇人、」

「ん?」



すると風は勇人の頬に唇を寄せ、優しくキスをした。




「失恋記念と言うことで、これくらいはいいですよね?」

「へ?」

「ちょっと!?勇人さんに何するのさ!!!」



突然の事で目を丸くする勇人に、風はクスッと微笑み、タクシーへと乗り込んだ。




「それでは、お元気で」




そう言い残して風は去って行った。






「な、なんなのあの人!?次会ったら絶対咬み殺すっ!!!」

「いいんじゃねぇーか?ほっぺにちゅーくらい」

「よくないよっ!!!」

「ふーん」

「え?ちょっと隼人、別にヤキモチ妬いたとかそういうんじゃなくて…」

「……もう知らねぇ。そんなに兄貴が好きなら雲雀もすればいいだろ」

「だから誤解だって…!」

「なぁ、隼人、恭弥…」



イマイチ状況についていけない勇人が、ゆっくりと口を開く。




「中国にも挨拶でキスする習慣なんかあったのか?」

「は、勇人さん…」

「なんか、風が不敏になってきた…」



















タクシーの窓から並盛の風景を眺めていた風は、見知った人物を見つけ、目を見開く。

その人物と目が合うと、風は笑みを見せ、聞こえないと分かっていながら口を開いた。





「本当に大変なのはこれからですよ。頑張って下さいね、六道さん」






歯車はもう、動き出している―――




Next...



***
骸VS風編、完結。VSってほどやりあってないですが←
恭隼の影が薄くてすみません;;

次回、ついにあの人(もはや伏せ字にする必要ないw)が登場!
物語はクライマックスへ!!!

早く獄寺兄弟の過去編が書きたいです…。

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