ごくどきっ!

□記憶の欠片
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『俺、…………れば、…………い』




夢を、見る

子供の頃からずっと、同じ夢を…。




あんまり、覚えてないんだけど、その夢の中の俺はまだガキで。

兄貴の背中ばっかり見つめて。


でも兄貴は、決して俺の方を振り返ってくれない。

兄貴の隣には、いつも誰かが居て………その誰かの顔が、どうしても思い出せない。

否、思い出したく…ない―――








ピピピッ、ピピピッ





「また、あの夢…」



最近、よく見るな…。

夢の中の兄貴は、いつも同じ台詞を言っている。

その言葉は途切れ途切れしか聞こえないけど、俺はその言葉を知っている。


俺が忘れた、記憶の片隅に存在している。



なんで俺は忘れてしまっているんだ?

そういえば俺、3才までイタリアに居た頃の記憶は微かにあるのに、日本に来たばかりの頃の記憶って、ほとんどねぇな。




「気が付けば、雲雀が隣にいたんだよな…」

「僕がなに?」

「ひ、雲雀!?いつの間に!?」

「隼人を起こしに来たんだけど、自分で起きるなんて珍しいね?」



突然現れた雲雀には驚いたが、この夢を見た後は無性に雲雀に逢いたくなるから、正直嬉しかった。




「なんか、変な夢見て…」

「夢?怖い夢だったの?」

「怖い…のかな?よくわかんねぇけど、出来ればもう……見たくないな」



でもきっと、俺はまたこの夢を見る。

それはまるで、失った記憶の欠片を拾い集めるかのように…。




「大丈夫だよ、隼人」

「え…?」



すると雲雀は、俺の身体を優しく抱きしめた。



「どんなに怖い夢でも、僕が隼人を守るから」

「っ……夢の中でもか?」

「もちろんだよ」



その言葉に、スッと俺の心が軽くなった。

俺はいつだってこの言葉に救われてきた気がする。


大丈夫だ。

雲雀が居れば、もう何も怖くない――














***********************




「あ、もうこんな時間だったのか!?」



放課後になり、仕事を終わらせた勇人は、時計を見るなり驚愕した。


晩飯の用意もしてないし、早く帰らないと。
そう思いながら慌てて片付けをすると、誰も居ないはずの職員室の扉が開いた。




「獄寺先生、まだ残っていたんですか?」

「骸……お前こそ、また花壇の世話か?」

「えぇ。最近は日が長いので時間を忘れてしまうんですよね」

「そっか。俺も今帰る所だ。早くしねぇと、隼人が腹すかせてるだろうからな」

「それは大変ですね。なんなら送って行きますよ」

「え…」



骸は職員室に置きっぱなしだった自分の荷物を取ると、再び扉へと手をかける。




「校門に車回しているので、早くして下さいね」

「あ、ああ…」



そう言って去っていく骸の背中を見ながら、俺は手を止めた。




「なんか最近、骸に貸しばっか作ってるな…」



隼人の時もだが、こないだ風と飲みに行って酔った俺を送ってくれたのも骸らしいし…。
全然覚えてないんだけど…。




「なんか、俺が骸の為に出来る事ってねぇかな…」



とは言っても、骸の好きな奴が隼人である以上は協力なんか出来ない。

寧ろ、邪魔ばっかしてるしな…。



骸が隼人と植物以外に興味あることなんて分からないし…。

俺、骸のこと何も知らねぇんだな……。

















「悪い!遅くなった!」

「いえ、大丈夫ですよ」



俺は車に乗り込むと、チラリと骸の横顔の覗き見た。
すると、偶然なのか俺の視線に気づいたのか、骸が俺の方を見た。




「僕の顔に何かついてますか?」

「あ、いや!その……サンキューな、こないだも送ってくれたんだろ?」

「ああ、別に構いませんよ。たまたま通り掛かっただけですから」

「そういえばお前、さ。最近は隼人君、隼人君って言わなくなったよな?流石にもう諦めたのか?」

「……」



俺の問い掛けに、骸は突然無言になった。

あれ?俺なんか…変な事でも言ったか?




「獄寺先生は、未だに僕が本気で隼人君を好きだと思ってるんですね」

「え…?」



骸が好きなのって隼人じゃないのか?

じゃあなんで、あんなに隼人に構ったりしてたんだ?



もしかして、骸って…。





「恭弥の事が好きだったのか!?」



ブーッ、と大きくクラクションが鳴った。
骸が顔面ごと突っ込んだからだ。




「あの……どうしてそういう発想に…?」

「いや、だって隼人に近づけば必ず恭弥が出てくるだろ?
好きな人ほど虐めたくなるってやつじゃ…」

「違いますっ!!!」

「じゃあ風か?恭弥とそっくりだから重ねて見てたとか…」

「だから貴方はどうしてそういう発想にしかならないんですか!?
少しは自分の事かもとか自惚れたりしないんですか!?」

「え…?」



俺の………事?




「あ……すみません…。こんな勢いで言うつもりじゃなかったんですが…」



骸の顔が赤く染まる。

こんな取り乱した骸なんて、初めて見た。



嘘だろ…?

骸の好きな人って、もしかして…。




「僕が好きなのは貴方ですよ、獄寺先生。
出会ったあの日から……ずっと、貴方だけを想っていました」

「む…くろ…?」




嘘だろ?

だって、こんなこと有り得ない。




骸が俺を………好き―――?






















ピンポーン



「はーい」



チャイムの音に導かれて綱吉は玄関の扉を開けた。

そして、瞳に飛び込んできた金色に目を見開く。




「よっ!久しぶりだな、ツナ」

「っ……ディーノ……さん?」





過去を失った少年と、過去に縛られる青年。


絡み合った運命の赤い糸の行方は、もう誰にも分からない―――





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