ごくどきっ!
□再会
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仕事から帰って来てからの兄貴の様子は、あからさまに変だった。
「はぁ…」
ため息は多いし、弟の俺が言うのも変だが、色っぽいオーラが出てる気がする。
「骸となんかあったのか?」
「!!!???」
唐突な俺の問い掛けに、兄貴は過剰なほど反応し、目を見開いた。
今日は骸に送ってもらったみたいだから骸の名前を出しただけだったんだけど、これは間違いなく図星だ。
まさか骸の奴、ついに告白を!?
応援していたとはいえ、弟としてはちょっと複雑だ。
でも、やっぱり兄貴には幸せになって欲しい。
「隼人には……関係ないことだ」
「ふーん」
これは間違いなく告白されたな。
そして恐らく、兄貴はまだ返事をしてないのだろう。
「昔さ、俺が欲しい物があるって言ったら、兄貴は自分の欲しい物を我慢してまで買ってくれた事あったよな」
「な、なんだよいきなり…?」
「俺、凄く嬉しかったぜ?でも、兄貴に欲しい物を我慢して欲しくはなかったな…」
「隼人…?」
「俺の為にって思ってくれるのは嬉しいけど、欲しい物を欲しいってちゃんと言わないと、いつか……絶対後悔すると思う」
「っ……」
「それにな、誰かを想いやるのは凄い事だけど、自分を犠牲にするのはダメだ」
「隼人?」
「これ、骸の受け売り。俺はこの言葉にすげぇ救われたから、兄貴も…逃げるなよ」
兄貴は多分、骸の事が好きだ。
今までだって兄貴は男にだってマジ告白された事があるんだし、男同士の関係に抵抗がある訳でもない。
そんな兄貴が悩むなんて、好きだけど…それに応えられない理由がある。
それしか、考えられないから。
兄貴のことだから、その理由も十中八九……俺の為、なんだろうな…。
「なんで…いきなりそんな事…?」
「うーん、なんとなく?ご馳走さん!俺は部屋に戻るな。瓜も今日は一緒に寝ようぜ?」
「にょ〜ぉ?」
「嫌そうな顔すんなっ!!!」
瓜とじゃれあいながらリビングを出ていく隼人の背中を見送ると、勇人は再びため息をついた。
思い出すのは、骸の言葉。
『出会ったあの日から、ずっと貴方だけを想っていました』
俺は………俺も、骸が好きだ。
そんなのとっくに自覚していた。
でも俺はアイツに……ディーノに、二度と恋はしないと誓ったんだ。
ここで骸の気持ちを受け入れたら………ディーノの想いを、裏切る事になる。
でも…
「っ……ごめん、ディーノ…」
明日、骸に逢ったら伝えよう。
ありのままの俺の想い。
俺も骸が、好きだ―――
翌朝
「おはようございます、獄寺先生」
「あ、お…はよ」
職員室で顔を合わせた骸は、いつもと変わらぬ表情をしていた。
「よかったです」
「え?」
「避けられたらどうしようかと思っていたので…」
「っ……」
変わらないようで、やっぱり俺と骸の関係は変化している。
俺は、この変化を受け入れると決めたんだ。
「あの、骸…。その事で後で話が、あん、だけど、」
必死に出した言葉は途切れ途切れで、耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかったくらいだった。
そんな俺を見て、骸がクスッと笑みを見せた。
恐らく、俺の話がなんなのかなんて、骸にはバレバレなんだろうな。
「分かりました。でしたら職員会議が終わったら中庭に…」
「獄寺君っ!!!」
骸の言葉を遮ったのは沢田さんで…。
驚いて振り返ると、酷く慌てた表情をしていた。
「沢田…先生?どうかしたんですか…?」
「あのね、獄寺君……落ち着いて聞いてね」
「は、はい」
学校では呼ばれないプライベートな『獄寺君』という呼び名に、俺は首を傾げた。
「あのね、実は…」
「みんなー、ちょっといいかー」
そう言いながら職員室に入ってきた教頭に目を向けると、その後ろから続くように入って来た男。
その男を見た瞬間、俺の思考が一気に停止した。
「産休に入る斎藤先生の変わりに臨時で英語のリスニング教師をしてもらうことになったディーノ先生だ。
昔、教育実習生として並中に居たこともあるから知ってる奴もいると思うが、よろしくな」
「ディーノ…?」
教頭の言葉に骸も反応し、勇人へと目を向ける。
しかし勇人は、そんな骸の視線にも気づかずに真っ直ぐディーノを見つめていた。
「久しぶり、だな。勇人」
これが、俺とディーノの………10年振りの再会だった――
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