ごくどきっ!

□血に染まる記憶
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「と、いうわけで。今日からこのクラスの副担を勤める事になったディーノだ。
みんな、よろしくな!」



突如、副担任として現れた絶世の美形に、女子生徒は悲鳴のような叫び声をあげた。



「カッコイイ人なのなー」

「つか、教師なんか辞めてモデルにでもなれよ…」



正直、そんじょそこらの芸能人よりカッコイイと思う。

というか、あの金髪……どっかで見たことあるような…。



「あ、……隼人!!!」

「へ?」



そんな事を考えていると、ディーノと目が合った。

何故俺の名前を知っているのか、ディーノは俺の名を呼ぶと満面の笑みで駆け寄ってきた。

そして…。




「大きくなったなー。逢いたかったぜ!」

「なっ…」



あろう事かディーノは、クラスメート達が見守る教室の中で俺を力強く抱きしめたのだ。




「な、な、な……何するのなー!!!俺の獄寺から離れろー!!!」

「お前んじゃねーよっ!!!つか、離れろよ!?」

「あ、悪い悪い!つい懐かしくて…」

「懐かしい…?」



俺、コイツとどっかで会ったことあるのか…?



「ディーノ先生、気持ちは分かりますが今はHR中です。私情は挟まないで下さい」

「ああ、悪いツナ……じゃなくて沢田先生」



ディーノは俺に人懐っこい笑みを見せると、教卓の前に戻りHRが再会された。




「獄寺、あの人と知り合いなのか?」

「いや…」




でも、沢田先生とは昔馴染みっぽい…。

兄貴と沢田先生は10年前からの付き合いだし、もしかしたら俺が忘れてるだけで、会ったこと……あんのかも…。







『俺……が…れば、……も………ない』




ズキン、と頭が痛む。



今、頭に過ぎったのは……夢の中の……兄貴の声?




「お、おい!大丈夫かよ獄寺!?」

「え?」

「顔、真っ青なのな!」



山本に言われて全身冷や汗をかいている事に初めて気づく。


俺、どうしちまったんだ…?


















***



「はぁ…」



喫煙室でタバコを片手に、勇人はため息をついた。


ディーノが帰ってきた。

もう二度と逢わないと、決めていたのに…。




「骸に返事するって決めたのに…」

「骸って、さっき勇人の隣に居た奴か?」

「っ…ディーノ、どうして…」

「ツナに聞いた。多分此処にいるだろうって」

「っ……」



ちゃんと向き合えって事ですか、沢田さん…?



「…勇人の隣に、ツナと風以外が居るなんて思わなかった」

「同僚だし……あれから10年経ってるんだ。不思議じゃねぇだろ、」

「それも、そうだな…」




沈黙が痛い…。

昔はディーノと一緒に居て、会話に詰まる事なんかなかったのに。




「元気だったか?」

「ああ…。お前、は?」

「元気だったぜ。まぁ、勇人が隣に居なくて物足りなかったけどな」

「っ…」



やめろ。

やめてくれ。


これ以上俺の心を掻き乱すな。

俺は、もう…





『ディーノ、俺な…』



ディーノに甘えたくない。



『俺、ディーノが居れば…――』





隼人を守ると決めたんだ。


もう二度と、あんな残酷な言葉を言わない為に。






「隼人も大きくなったな」

「……会ったのか?」

「ああ、ツナんとこの副担だからな。久しぶり、って抱き着いたら拒絶されちまったけどな」

「っ!?お前、隼人は記憶を…!!!」

「そんなこと分かってるさ。けど、俺は隼人に記憶を取り戻して欲しいと思ってる」

「ふざけんなっ!!!記憶が戻ったら隼人は…!」

「それって、本当に隼人の為か?」

「え…?」



真剣なディーノの瞳に、俺は言葉を詰まらせる。



「勇人が思い出して欲しくないだけだろ?自分の犯した罪を…」

「っ!?」

「そんなの、隼人の為じゃない。逃げてるだけだ」

「違うっ!!!」



俺は、隼人を守ると決めたんだ。
決して泣かせないと。

独りに、しないと……。





「隼人の事は、ツナとの手紙のやり取りで聞いてるよ。風の弟……恭弥って言ったっけ?そいつと付き合い始めたんだろ?」

「………」

「だったらもういいだろ?勇人一人で隼人を守ってる訳じゃないんだ。
隼人はもう、あの頃のような子供じゃない。記憶が戻っても……全部受け入れられる」

「…そんなの、分かってる」




隼人を守るのは、もう俺の役目じゃない。

一番側に居るのは、もう……俺じゃないんだ。



ディーノの言う通りなんだ。

俺は隼人を守ってたんじゃない。
自分の犯した罪から、目を反らしたかっただけなんだ。




「勇人、俺は今でも勇人が好きだ」

「っ……ディーノ、」

「これからは俺が勇人を守るから。勇人の罪は、勇人だけのモノじゃない。これからは俺も一緒に、背負わせて欲しい」

「や……め、」



嫌だ。それ以上は聞きたくない。



「勇人、もう一度俺と…」



聞いてしまったらきっと…


またお前に、甘えてしまう―――








「お取り込み中で申し訳ないのですが、此処は一応学校ですよ?」



ディーノの言葉を遮ったのは、不機嫌そうに顔を歪めた骸だった。

その姿に、俺は我に返る。



「お前っ」

「ディーノ先生、教頭先生が呼んでましたよ?」

「っ……勇人、また後でな。しばらくはツナん家に世話になってるから、今日は一緒に帰ろう」

「……ああ、」




そう言って去って行ったディーノは、すれ違い様に骸に鋭い視線を送った。

骸も、それに応えるかのように視線を送ると、俺へと視線を戻す。




「あの人と、お知り合いなんですね」

「……ああ、」

「ずいぶん親密そうでしたが、どういった関係だったんですか?」

「っ……」



きっと骸は気付いている。

俺と、ディーノの関係に…。



「…元カレだ。短い間だったけどな」

「……そうですか」



俺が間違っていた。

骸の気持ちに応えようだなんて…。



「骸、俺…」



俺は罪人。

幸せを求めていいわけがない。



「俺は…――」

「聞きたくありません」

「え?」

「今朝、話があると言った時と違う応えが返ってくるなら、聞きたくはありません」

「っ…」



見透かされている。骸には全て…。



「まだ、彼に未練があるのですか?」

「…違う、違うけど!俺は…」



俺はもう自分の罪から目を反らせない。

反らしたら、いけないんだ。




「なぁ、骸。少しだけ話を聞いてくれないか?」




俺の犯した罪。

それを知ったらお前は、俺を拒絶するかな?


















「ごめんね、獄寺君。資料片付けるの手伝って貰っちゃって」

「いいえ!これくらいお安いご用です!」

「ありがと。それじゃあそっちの棚をお願い出来るかな?」

「はい!」



綱吉に言われた通り、隼人が資料を棚に戻していると、ヒソヒソと話し声が聞こえた。



「やべぇ!これモロじゃん!?お前、これ自分で買ったのか!?」

「バーカ、中学生が買えるかよ。兄貴の部屋からくすねてきた」

「お前の兄貴エロいなー。うわぁ、この子激可愛っ!!巨乳だし!!」



そんな会話に、隼人は眉をひそめる。



(エロ本か?んなもん学校に持ってくんじゃねーよ)



雲雀に言って没収させるか…。
いや、なんかチクってるみたいで嫌だな……放っておくか…。




「獄寺君、そっちの片付け終わった?」

「やべ!?ダメツナじゃん!!早くそれ隠せよ!?」

「ちょっ、押すなって!?」



ドンッ!!!!




その瞬間、辺りがスローモーションのようになった。


資料室の棚が俺の方に倒れて来て……だけど、俺は一歩も動く事が出来なくて…。




「獄寺君っ!!!!」



バタンッ!!!!



身体中に、強い圧迫感。

でも、思っていた程の痛みがなくて恐る恐る目を開けると、沢田先生が俺を庇うように下敷きになっていた。





「沢田…先生?」



手を伸ばして、頭に触れる。

ヌメッとした感触に驚いて手を見ると、赤く染まった……俺の手の平。




「あっ……あ、」



知っている。俺はこの感覚を…。

昔もこうして……誰かに守られたんだ。



誰に…?





『隼人!ラヴィーナ!逃げなさいっ!!!』




父…さん?




『隼人…。貴方だけは私が必ず守るから』




………母さんっ







「あ、あぁっ……いや、嫌だっ!!!」



思い出したくない。思い出したくないんだっ!




「痛っ……うわ、血だらけ…。獄寺君、怪我ない?」

「嫌っ……父さんっ、母さん!!!」

「獄寺君?…っ……もしかして記憶が!?」

「助けてっ……お願い、俺をっ……独りに、しないでっ!!!」

「落ち着いて隼人君っ!!!俺の怪我はたいしたことないから!君はもう、独りじゃないから!!!」

「あっ……沢田っ…さん!」




どうして俺は、忘れていたのだろう。




『君が隼人君?俺はお兄さんの友達の沢田綱吉。よろしくね』

『…沢田さん?』



悲しい記憶だけじゃ、なかったのに。

日本に来てからの父さんと母さんの思い出を、楽しかった……あの日々までも―――







『ディーノ、俺な…』




嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!!


あの、言葉は…あの言葉だけは………思い出したく、ないっ







『俺……ディーノが居れば、他に何にもいらない――』






なぁ、兄貴



兄貴に俺は、必要ない――?




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