ごくどきっ!

□過去の大罪―起―
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始まりは10年前の夏休みの終わり

俺は運命の出会いを果たした




「あ、母さん。俺今日は昼メシいらないから」

「あら、どこか出かけるの?」

「沢田さんとこ。一緒に夏休みの宿題する約束してんだ。そしたらお母様が昼食べてけって」

「まぁ…奈々さんにお礼言わなきゃ」

「お兄ちゃん、沢田さんの所行くの!?隼人も!隼人も行く!」

「はぁ?ざけんな、遊びに行くんじゃねぇんだよ。ガキなんか連れて行けるか!」




この頃の俺は、所謂思春期というやつで……いっつも俺の後について来る弟の存在がちょっとウザったかった。




「勇人、そういう言い方はいけませんよ」

「お父さんの言う通りよ、勇人はお兄ちゃんなんだから…」

「あー、うぜえ。ごちそうさん!」



俺は朝飯を済ますと、不機嫌そうに出かける準備を始めた



父さんも母さんも隼人隼人って!

歳が離れてるせいか、両親は隼人を凄く可愛がっている

まるで俺より隼人が大切だとでも言われているようで、悔しかった


もちろんそんなことはないのだと頭では分かっているが…




「勇人、夕方までには帰って来るのよ」

「え?ああ、イタリアからホームステイが来るんだっけ…。分かってるって。行ってきまーす」




俺達家族は今年の4月に日本に来たばかりで、それまではイタリアに住んでいた

故にイタリアから教育実習として来日する男のホームステイ先に選ばれたのだ

日本語はペラペラらしいが、やっぱり日本とイタリアでは生活習慣が違うから不便だろうということらしい



しかも、俺のクラスが担当になると言うのだから面倒臭いことこの上ない。
ただでさえ俺は人と馴れ合うのが苦手なのだから…




そんなこと考えながら家を出ると、同時隣の家の門が開いた。
目を向けるとそこにいたのは漆黒の少年。名を雲雀恭弥と言う。




「あ………よ、よぉ」

「……」

「……」



正直に言うと、俺は恭弥が苦手だ

兄である風と顔はそっくりだが、性格はまるで正反対な無愛想で小生意気なガキ


そしてなにより…





「お兄ちゃん!お母さんが帽子被ってけって……っ!?」



帽子を持って玄関を飛び出してきた隼人は、恭弥を見るなり怯えたように俺の後ろに身を隠した


これが、俺が恭弥が苦手だと思う一番の理由だ

人見知りが激しい隼人は、どうやら俺以上に恭弥が苦手らしく、こうして恭弥が側にいると俺の側を離れようとしない

家も隣同士で、歳もそう変わらないのだから仲良くすればいいのにと心底思う



そんな隼人の様子を見た恭弥は、顔色ひとつ変えずに無言でその場を去って行った

隼人も隼人なら、恭弥も恭弥だよな


そう思い、俺はため息をついた
















「なんだ、隼人君連れて来ても全然構わなかったのに…。ランボ達も喜ぶだろうし」

「ランボと隼人が揃ったら騒がしいだけじゃないスか!」

「まぁ、そうなんだけど…でも、隼人君って夏休みの間ずっと家で遊んでるんでしょ?寂しいんじゃないかな…」

「それは保育園で友達作らない隼人が悪いんですよ。自業自得です」

「獄寺君だって学校で俺以外友達作らないじゃん」

「俺は沢田さんが居れば十分ですから」

「ちょっ、そういう恥ずかしいこと真顔で言わないでよ!」




沢田さんと過ごすのは、凄く楽しかった

上っ面の笑顔じゃない、本当の笑顔を向けてくれたのは家族を除けは沢田さんが初めてだったから



正直に言うと、俺は友達なんていらないと思っていた

日本に来てからというもの、この目立つ髪と瞳のせいで、まるでパンダでも見るかのような瞳を向けられていたから

興味本位で近付いてくる奴らはウザったかったし、一人で居ることは嫌いじゃない

だから、沢田さんと出会わなかったら今でも1人で居たと思う


別にそれが孤独だとか、寂しいとか思わない





「それじゃあね、獄寺君。勉強教えてくれてありがとう」

「いえ、お役に立てて光栄です!お邪魔しました!」

「うん、また新学期にね」




沢田家を後にして、俺は足速に自宅へと戻った


沢田さんの家は居心地がよくてついつい長居してしまう

気がつけばもう、ホームステイが来ている頃だった


来客が来るというのに出迎えもしなかったとなると、母さんはともかく親父が煩い

怒鳴られるならまだしも、笑顔のまま静かに怒るから質が悪い



そう思いながら慌てて帰路に向かう途中、歩道橋の階段で何者かに呼び止められた




「あっ、ちょっと待ってくれ!お前もしかして…!」

「え?」



振り返って階段の上を見上げると、逆光で顔はよく見えないが金髪の男が立っていた




「お前、もしかして獄寺勇人か!?」

「は…?なんで俺の名前…」

「迷子になっちまって困ってたんだー。特徴聞いといてよかったぜ」

「いや、だからお前なんなんだ………っ!?」



言いかけて、俺は言葉を止めた。
否、止めざるをえなかった。

なぜなら、金髪の男が足を滑らせて俺の方へと落ちてきたから



「なっ!!??」

「うわぁ!ミスった!どいてくれ!」



どけと言われても狭い歩道橋で逃げ道などなく、俺は金髪の男に押し倒されながら階段をずり落ちた




「っ…て、悪い勇人!大丈夫か!?」

「だ……大丈夫じゃねぇーよ!!!なんなんだよお前は!?」



そう怒鳴りつけるように男の顔を見ると、俺は一瞬……怒りを忘れた

至近距離で見たその男の顔があまりに綺麗だったから




「あ、悪い悪い!自己紹介が遅れたな。俺の名前はディーノだ」

「ディーノ?」



どこかで聞いた名前だな…………って、もしかして!



「お前っ…ホームステイの!」

「ああ、今日から二ヶ月……よろしくな、勇人」




それが、俺とディーノの出会いで



俺の運命の歯車が狂いだした瞬間だった―――





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