ごくどきっ!

□過去の大罪―転―
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「勇人、朝だぜー」

「ん……ぅん………」



ディーノの声に寝ぼけながら目を開くと、一気に目を覚ました



「って、顔近すぎだってーの!!!」

「いい加減慣れろよなー」

「ちょっ、ここ家っ!」

「家でイチャつけないなら何処でイチャつけばいいんだ?」

「そ、れは…」



確かに、実習生とは言え教師と生徒が学校や道端でベタベタするわけにはいかない。

かと言って、家族にバレるのもマズイんだが…




「ちょっと……だけだかんな」

「おぅ!」



満面の笑みでぎゅうっと俺を抱きしめるディーノに、俺の頬も緩んだ

結局俺も、ディーノには甘いよな

これが惚れた弱みというやつなんだろうか?



「さ、起きようぜ」

「ああ」



人生で一番幸せな時間だった

だけど、時間は無情にも過ぎて行き……ディーノと過ごす時間も、残り僅かとなった







「ディーノ君も月曜日にはイタリアに帰っちゃうのね…。寂しくなるわ」

「え…ディーノ帰っちゃうの?」

「ああ、教育実習は10月で終わりなんだ」

「嫌だ!ディーノともって遊ぶ!」

「隼人……あーもう本当隼人は可愛いなぁ!大好きだぜ!」

「隼人もディーノ好き!」



ぎゅーっと隼人を抱きしめるディーノに、俺はムッと眉を寄せた

どいつもこいつも隼人と隼人って!どこがそんなに可愛いんだよ!?




「日曜はご馳走作らなきゃ!デパートにでも行こうかしら?」

「買い物!?隼人も行くー!」

「なら、僕が車を出しますよ」

「お父さんも一緒!」

「よかったわね、隼人。だったら勇人もディーノ君も一緒行きましょう」

「え?」



ニッコリと母にそう言われたが、正直行きたくない

この歳になって親と買い物なんて恥ずかしいし、日曜はディーノと過ごす最後の日なのだ。
母さん達が出掛けるというのならディーノと二人っきりで過ごしたい




「やめなさい、ラヴィーナ。ディーノ君は僕達以外にも別れをしなきゃいけない人がたくさんいるんですから」

「あ、そうだったわね……ごめんなさいね、ディーノ君」

「い、いえ!ご馳走楽しみにしてますね」



父さんのおかげで助かった……と安心していると、父さんと目が合う。
そして、意味深な笑みを俺に向けた。




これってもしかして………俺達の関係、バレてる?
















「絶対親父さんにはバレてるよなー。どうしよー」



日曜日

家族は全員出掛けて今は俺とディーノの二人っきり



「別に気にする必要ねぇんじゃね?」

「でもさ!大事な息子に悪い女どころか男がついてんだぜ!?勇人は長男だろ!?」

「父さんはそういう偏見ないし、別にに名家じゃないんだから跡取りとか関係ないだろ」

「で、でも…」

「じゃあなんだ?父さんに反対されたらディーノは俺と別れるんだ?」

「っ!?そんなわけないだろ!この先何があったって勇人とは別れない!」

「本当か?」

「当たり前だろ!!!」

「じゃ、明日から暫く逢えなくなるんだぜ?せっかく二人っきりなのに、することねぇの?」

「勇人…」



ディーノが優しく俺を抱きしめた



「毎日電話するから」

「うん」

「手紙も書く」

「…うん」

「勇人も書けよ?写真つきで」

「気が向いたらな」

「あ、隼人の写真も送って欲しいなー」

「ムッ…なんでだよ」

「いずれは弟になるんだぜ?成長過程見ておきたいじゃん」

「ばっ、バッカじゃねぇの!!!」

「あははっ」



こうしてディーノに触れられるのも、明日で最後

恋ってこんなにも、切ないものだったんだな




「…ディーノ」

「ん?」

「大好きだぜ?」

「俺も、愛してる」



そして俺達は、口づけを交わした



















「フフッ、隼人嬉しそうね」

「だって、お父さんとお母さんと買い物久しぶりなんだもん!お兄ちゃんもいれば……もっとよかったんだけど」

「じゃあ、今度は4人で来ましょうね」

「うん…!」



すると、隼人の視界にパンダの着ぐるみを着た人が、子供達に風船を配っているのが目に入る



「パンダさん!」

「あっ、隼人!走ったら危ないわよ!?」



母の言葉を聞かずに駆け出した隼人は、途中で大人の男の人にぶつかり、尻餅をつく



「ご、ごめんなさい…!」



慌てて謝罪をしようと顔を上げると、帽子を深く被った男の瞳と目が合い、隼人は背筋を奮わせた

その男は、とても冷たい目をしていたから…




「隼人!大丈夫?貴方も、どこも怪我しませんでしたか?」

「俺……子供嫌いなんだよね」

「え?」



慌てて駆け寄った母も、男の様子に違和感を覚える


それを少し離れていた所で見ていた父は、男がポケットから銀色に光る何かを取り出した瞬間、大きく声を上げた




「隼人!ラヴィーナ!逃げなさいっ!!!」

「え…?」



しかし、時は既に遅く…男はポケットから取り出したナイフを振り上げた

それに気づいた母は、慌てて隼人を庇うように抱きしめながら目を閉じた


しかし、思っていた衝撃は訪れず、代わりに聞こえた小さなうめき声

恐る恐る目を開くと、そこには愛する夫の……血に塗れた姿




「キャー!!!」



事態を把握した周りの人間が騒ぎ出す

しかし、ラヴィーナの耳にはそんなものは届かず、その瞳には夫しか写っていなかった




「あ……貴方っ!しっかりして!貴方っ!!!」

「ラ、ヴィーナ……早く、隼人を…」



その言葉に、ラヴィーナは再び隼人を力強く抱きしめた



「お父、さん?…お父さん!!!」

「ダメよ!隼人!」

「あっはは!美しい家族愛!!!……………ヘドが出るっ!!!!」

「っ…!」



再びナイフを振り上げる男に、ラヴィーナは隼人を守るように背を向けた




「かはっ…!」

「お母さん!!!」



何が起こっているのか分からない

何故父が血だらけになって倒れている?

何故母が……男にナイフで突き刺されている?




「お母さんっ!お母さんっ!」

「は……やと、」

「お母さん!しっかりして」

「は、隼人…。貴方だけは私が必ず守るから」

「お母さん!」

「だから……貴方は生きて―――」




男のナイフが再び母を貫いた

そして母は、完全に息を止めた




「お、父さん……お母さん、」




どうして?どうして二人は動かないの?

いつも暖かい母が……どうしてこんなにも冷たいの?




「安心しろ……お前もパパとママと同じ所に連れてってやっから」



男のナイフが再び光る

ああ、俺も死ぬのかな…と諦めた瞬間、生きろと言った母の言葉を思い出した



死にたくない


生きたい。生きなきゃダメだ



誰か助けて………誰か、誰かっ!!!!





「……お兄…ちゃん」

























「っ…!」

「どうしたんだ、勇人?」

「あ……いや、」




今…誰かに呼ばれたような気がした…。

気のせい……だったのか?




その時、家の電話のベルが鳴り響く

誰だ?と疑問に思いながらも勇人は受話器をとった




「はい、獄寺……って、シャマルかよ。何の用だ?下らないことだったら果たす……………え?」



一気に青ざめていく勇人の表情に、ディーノは心配そうに歩み寄った



「勇人?シャマル先生からなんだろ?どうした…」

「父さんと、母さんが…」

「親父さん達が?」

「通り魔に……殺された?」
















俺が病院に駆け付けた時、父さんと母さんは眠るように死んでいた



その時の事は……あまり覚えていない

ただ、泣き叫ぶ事しか出来なくて。すぐ側に隼人が居たような気がするが…言葉を交わしたのかどうかも分からない


ただ、自分の事で精一杯で、気がついた時には自宅の自分の部屋でディーノに抱きしめられていた




「ディ、ーノ…?」

「勇人、目が覚めたのか?」

「う、ん……あ、隼人は……無事なのか?」

「ああ、間一髪警備員が飛び込んで救出されたらしい。今は隣の部屋で泣き疲れて寝てるよ」

「そっか……よかった、」



俺は家族を全員……失った訳じゃなかったのか



「なぁ、勇人。一緒にイタリアに行かないか?」

「え…?」

「今の勇人を残して…イタリアには帰れねぇよ。まだ暫く日本に残るから、ゆっくり考えてくれればいい」

「イタリアに…」




そう……だよな

このまま日本に残る理由はないんだ


俺にとっての両親の思い出は、ほとんどイタリアにあるんだ

中学生の俺一人じゃ、隼人を養えるはずもない

下手をすれば俺達二人とも……施設行きになるかもしれない


それに、イタリアなら…ディーノと、これからもずっと…――





「……いく、」

「勇人?」

「一緒に……イタリアに行く。連れてってくれ、」

「勇人…。ああ、これからは俺が、勇人を守る」




暖かい

ディーノの温もりに、再び涙が溢れた



ディーノがいれば怖くない



ディーノが、いれば…





「ディーノ、俺な…」

「ん?」

「俺……ディーノが居れば、他に何にもいらない」






カタン、と廊下で何か物音がした


けど、今の俺にそんなもの気にとめる余裕はなくて…

ディーノに甘える事でしか、自分を保つ事が出来なくて





まさか、この言葉を隼人に聞かれていたなんて、思いもしなかったんだ―――





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