ごくどきっ!

□過去の大罪―結―
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「勇人……そろそろ離して貰ってもいいか?隼人の様子見に行きたいんだけど…」

「え…あっ……悪い、」



朝になり、ディーノにしがみついていた手を離すと、ディーノは俺の頭を優しく撫でて、隼人の部屋へと向かった


ダメだな、俺

俺が隼人の兄貴なんだから、もっとしっかりしないと


父さんと母さんはもう、いないのだから





「大変だっ!勇人!!!」

「どうしたんだ…?」

「隼人が……何処にも居ないんだ!!!」

「え…?」



その言葉に、俺の身体が凍りついた


そのあと隈なく家中探しても、隼人の姿は何処にもなかった

沢田さんや風の所に行ってるんじゃないかと連絡しても、消息は不明






「ふざけんなっ!!!」



ドンッ、ディーノがシャマルに殴られ吹っ飛ばされた



「どうして隼人から目を離したんだ!?俺はお前に二人を任せたんだ!!」

「っ……」

「分かってんのか!?今一番辛いのは、目の前で両親を殺された隼人なんだよ!!!」




シャマルの言葉に、俺は身体を強張らせた


そうだ……一番辛いのは俺じゃない、隼人だ

なのに、俺…




―――カタン



そうだ、あの時の物音……あれが、隼人だったんじゃないか?

だとしたら




「あっ、……あ……俺っ」

「獄寺君?」

「も、しかして…ディーノがいれは他に何もいらないって言ったの……隼人に聞かれたのかも、」

「「「っ!?」」」




隼人はいらないって意味じゃなかったのに

まだ4歳の隼人にそんなの理解出来る訳がない


俺……取り返しのつかないこと、言っちまった




「……とにかく、考えてても仕方ねぇ。手分けして隼人を探すぞ」

「そうですね、隼人の足ならそう遠くへは行けないでしょうし」

「勇人は此処に残って頭を冷やせ。隼人が帰ってくるかもしれねぇし」

「っ…嫌だ!!!俺も行く!!!」

「勇人、」

「俺の責任なんだ!俺が迎えに行かなきゃ、隼人は…」



もう一生……俺には笑いかけてくれない

そんな気がする




「分かりました。では、私が此処に残ります」

「風…!ありがとう!!!」




俺は慌てて家を飛び出した。
続いて、シャマルと沢田さんも隼人の捜索に向かう。



「待てっ、勇人!俺も…!」

「貴方には幻滅しました」

「っ…!」



残されたディーノに、風は冷たい眼差しを向ける



「勇人が幸せなら、貴方達の関係に口出しするつもりはありませんでした……でも、勇人の大切なものを何一つ守れないなら、貴方に勇人は譲りませんっ!」

「っ………必ず隼人を、見つけだす」



それだけ告げて、ディーノは家を飛び出した

それを見送った風は、拳を強く握り締める



何も出来なかった自分が……もどかしい

















「隼人!隼人!」



保育園にも公園にもいなかった。他に隼人が行きそうな場所は…?



「っ…」



わから、ない

隼人がいつも何処で遊んでるのかなんて知らない。
今まで、知ろうとも思わなかったから…


俺は隼人の事を…何も知らずにいた




「っ……諦めんなっ」



知らないなら、これから知ればいい

手を差し延べればいい


俺が隼人を……たった一人の弟を守るんだ!





ドンッ



「っ…!」

「あっ……すみません、」



同じ年頃の少年とぶつかり俺がよろけると、少年は俺の腕をガッチリ掴んだ



「大丈夫ですか?」

「ああ、悪い…」

「おや?君はもしかしてさっきの子の…」

「っ!?」



その言葉に、俺は少年の服の袖をしっかりと掴む



「隼人に会ったのか!?」

「え……いえ、君によく似た子供を見かけただけですけど」

「その子供、どこに向かってた!?隼人は俺の……大事な弟なんだよ!!!」



俺の様子に驚いたのか、少年は一瞬目を見開くと、スッと指をさした




「並盛山の方へ向かってましたよ」

「並盛山…」



確か、日本に来て初めて家族で花見に行った場所

隼人は、そこに向かってるのか?




「っ…サンキュー!この借りは必ず返すから!!!」



そう言って去って行く勇人を見送ると、少年は微笑んだ




「骸さん?どうしたんれすかー?」

「骸様?」

「犬、千種………一目惚れって本当にあるんですね」

「は…?」

「骸さん……ついに髪型だけでなく脳みそまでフルーティーに…」

「何か言いましたか、犬?」

「ぎゃん!」



骸と呼ばれた少年は、再び勇人が走り去って行った方へと目を向ける




「またいつか、逢えるといいですね。隼人君の……お兄さん?」




そしたらこの出会いを、僕は運命と呼びましょう


























両親と花見をした大きな桜の木の下に向かうと、木の根本に座る、2人の少年




「隼人っ!!!」



隼人が、いた

ちゃんと……無事だった



「はやっ…」

「ちょっと、うるさいよ。隼人が起きちゃうでしょ」



駆け寄ろうとした俺を止めたのは、隼人の隣でのんびりと本を読む、漆黒の少年

雲雀恭弥だった




「なんで……恭弥が?」



隼人は恭弥が苦手だったはず

なのにどうして2人が一緒に?




「此処は僕のお気に入りの場所なの。隼人が勝手に僕のテリトリーに入ってきただけだよ」



そういう恭弥は、テリトリーに侵入されたにも関わらず、全く嫌そうな顔はしていなかった

寧ろ、眠る隼人の頭を優しく撫でながら、ゆっくりと今の状況を説明してくれた










『君、何しに来たの?』



恭弥が桜の木の下で本を読んでいると、隼人は現れた



『お父さんと、お母さんを探してるの…』

『お父さんとお母さん?』



その言葉に、恭弥は首を傾げる

確か兄が、彼らの両親は死んだと言っていたから




『ここにも、居ない…隼人、ひとりぼっちになっちゃった』

『ひとりぼっち?君にはまだお兄さんがいるでしょ?』

『お兄ちゃんに隼人は……必要ないもん。ディーノがいれば、隼人はいらないから』



そう言って隼人の瞳に、大粒の涙が溜まった

それを見た恭弥は、せっかく綺麗な色なのに…もったいないと思った

どうしたら泣き止んでくれるんだろうか?


どうしたらその瞳が、輝くんだろうか?




『なら、僕が君の側に居てあげるよ』

『え?』

『僕が君を守ってあげる。それなら、ひとりぼっちじゃないでしょ?』

『本当…?』

『うん。君、名前は?』

『…隼人、』

『隼人ね。僕は恭弥だよ』

『きょー、ちゃん?』

『恭弥だってば。まぁ、いいけど』



そう言って恭弥が隼人の頭を優しく撫でると、隼人の瞳に涙が消えた

うん、やっぱり。この子に涙は似合わない



『…きょーちゃん』

『隼人?』

『ずっと、一緒?』

『うん、ずっと一緒だよ』

『じゃあ隼人、寂しくない!』



そう言って隼人は、初めて恭弥に笑顔を見せた











「…そしたら歩き疲れたのか眠っちゃったんだよ」

「隼人、」



俺の何気ない一言で、そんなに傷つけていたなんて…



「ごめんっ……ごめんな、隼人っ」



これからは俺が隼人を守るから

ひとりぼっちになんか、しないから


なぁ、隼人はお兄ちゃんを許してくれるか?




「もったいないよ」

「え?」

「貴方の瞳も、隼人と同じで凄く綺麗な色してるのに、泣いたらもったいない」

「恭弥…」

「さっき見た隼人の笑顔、凄く綺麗だった。だから貴方のも見てみたい」

「……お前、」



俺は服の袖で涙を拭って恭弥に笑顔を向けた



「ありがとな、恭弥」



闇の中にいた隼人をつなぎ止めてくれて

こんな汚れた俺まで、綺麗だと言ってくれて……ありがとう





「っ…ん、」

「隼人!?目が覚めたのか!?」

「お兄、ちゃん?」

「ごめんな、隼人!俺、隼人を置いて何処にも行ったりしないから!ずっと側にいるから!」

「お兄ちゃん………………………何、言ってるの?」

「え…?」

「それより隼人お腹すいた!早く帰ってお母さんのご飯食べよ?」

「隼人……まさか、記憶が?」





目を覚ました隼人は、日本で過ごした日々のほとんどを忘れていた


沢田さんやディーノの事も、両親の死も…

恭弥に関する事以外の全てを……隼人は失ってしまっていたんだ―――



















数日後



「本当に……一緒にイタリアへは行かないのか?」

「ああ、今の隼人には恭弥が必要だから」



今日、ディーノはイタリアへと帰る

記憶を失った隼人は、今は凄く不安定で…ディーノに会わせるわけにはいかなかった


目の前で両親が殺された記憶なんて、ないほうがいいから




「ごめん、勇人。俺は結局…なんも出来なかった」

「そんなことねぇよ。少なくとも俺は、お前に救われたから…」

「勇人、」



ディーノを好きだという気持ちに変わりはない

本音を言うと、このまま一緒にイタリアへ行きたい



だけど俺は大きな罪を犯した

記憶を手放すほど、隼人の心に深い傷を残してしまった


俺はその罪を、償わなきゃいけない




「ディーノ、俺さ……もう二度と恋はしない」

「え……なに、言って」

「お前とも、二度と会わない。お前に甘えるのは…もう嫌なんだ」

「っ…」





ごめん、ディーノ

わがままなのは分かってる

でも、今の俺には…隼人が一番大切なんだ


隼人の笑顔を守り続ける事が、俺の幸せなんだ




「気持ちは……変わらないみたいだな」

「あぁ、さよなら……ディーノ」




さよなら、俺に恋する気持ちを教えてくれた人―――













空港からの帰り道、俺は一人…涙を流した


でも、泣くのはこれが最後だ



俺はもう泣かない

恋もしない


父さんと母さんの分まで隼人を守って生きていく







「あ!お兄ちゃん、お帰りなさい!」

「ただいま、隼人。ちゃんといい子にしてたか?」

「うん!」

「嘘はダメだよ隼人。さっきまで勇人さんが帰って来ないって駄々こねてたじゃない」

「きょーちゃんっ!!!」

「ははっ。大丈夫だぜ、隼人。俺の帰る所はいつだって隼人のところなんだからな」




隼人の記憶は消えても、俺の犯した罪は消えない



だから俺は、隼人の為だけに生きていく


それが俺に出来る、唯一の罪滅ぼしだから――




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