ごくどきっ!

□父の面影
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――――隼人




誰かが、俺の名前を呼んでいる

…兄貴?

いや、違う。兄貴にもちょっと似てるけど、もっと…懐かしくて

温かくて…





―――ただいま、隼人。いい子にしていましたか?




ああ、そうか…お父さんだ


子供の頃、帰りが遅いお父さんを睡魔と戦いながら待ってた


お帰りなさい、って言うと、優しく頭を撫でてくれた

俺はその大きな手が大好きだったんだ



お父さんの笑顔が、大好きだった









「……とう……さん、」

「おや?起きたんですか?」

「え…?」




目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋だった

そして、ベッドの脇に座って微笑む、骸の姿



「え…な、骸?」

「おはようございます。といっても、もう夕方なんですけど…。隼人君、3日も眠っていたんですよ?」

「3日!?」



そんなに!?

あの桜の下で兄貴と話てて……それからの記憶がない


あれからずっと眠っていたのか




「兄貴と……恭弥は?」

「雲雀君はさっきまでつきっきりで隼人君の看病をしていたんですが、流石に一睡もしない雲雀君を心配した獄寺先生が睡眠薬で眠らせました。
今は隣の部屋で寝てますよ」

「……そっか、」



恭弥にも、心配かけちまったんだな…

今度は俺が恭弥が起きるまで側に居てやろう




「獄寺先生は今……ディーノ先生が来ているので、」

「っ…!」

「話があるからと、僕は追い出されてしまいました」



そう言って骸は、少し寂しそうな笑みを見せた



「お、れ……俺もディーノに、謝らなきゃ…」



俺のせいで、ディーノの人生をめちゃくちゃにしちまった



「謝る?隼人君が謝る必要はないでしょう?」

「でも…!」

「寧ろ、隼人君に謝りたいと思ってるのはディーノ先生の方だと思いますよ。隼人君を守れなかったこと、相当後悔してるみたいですから…」

「で、も…」



記憶を取り戻して、思い出したんだ

ディーノが俺に優しくしてくれた事も、可愛がってくれた思い出を


だって俺も、ディーノが大好きだったのだから



「目を覚ましたばかりで頭が混乱してるでしょう?今はもう少し休んで下さい。ディーノ先生と話す機会は、まだたくさんあるんですから」



そう言って骸が俺の頭を優しく撫でた



(あれ…?)



この感覚

夢と、同じ温もり…




「骸……俺が寝てる間にも、頭撫でたか?」

「え?あ……すみません。嫌でしたか?」

「あ、いや……そうじゃなくて」



 
骸の手の温もりを父さんと勘違いして、あんな夢を見たのか?



「隼人君?」

「骸って、なんか…」



初めて骸に会った時から感じていた違和感


骸の側に居ると、凄く落ち着いて、懐かしい気分になる


その理由が、ようやく分かった気がする




「父さんに、似てる」

「え?」




記憶の片隅にあった父親の面影を、無意識のうちに骸と重ねていたんだ

だからこんなにも、骸の側は心地よかったんだ




「僕が……隼人君のお父様にですか?」

「ああ。見た目が、っていう訳じゃないんだけど、雰囲気とか話し方とか。そういえば、父さんも園芸とか好きだったな…」




記憶が戻った今なら、鮮明に思い出せる

父さんと母さんの笑顔


楽しかった、あの日々を…





「ははっ、俺って結構ファザコンだったのかも!」



涙腺が弱くなったのをごまかすように笑顔を見せると、骸が再び俺の頭を優しく撫でた



「無理して、笑わなくてもいいんですよ」

「え…」

「泣きたい時は泣きなさい。今だけ僕が、隼人君のお父さんになってあげます」



そう言って骸が、俺を優しく抱きしめた




「よく頑張りましたね、隼人」

「っ…」



その言葉に、弱くなっていた涙腺が崩壊した

とめどなく溢れるその涙を止める術など、ありはしなかった




「っ……お父、さん!!お母さんっ…!!!」




もう一度逢いたいよ

叶わぬ願いだとは、分かっているけど



それでも…――――




















「入らなくていいのか?」

「今はいい。骸に任せる」



リビングから隼人の声が聞こえ、目覚めたのかと慌てて部屋の前に来たが、とても入れる雰囲気ではなかった


4才で両親を失った隼人は、親に甘える事を知らない

あのシャマルにだって、どこか遠慮してる節があったくらいだ


その隼人が、ようやく親に甘える事を覚えたんだ




「凄いな、六道骸って」

「え?」



リビングに戻ると、ディーノが口を開いた



「俺に出来なかった事、全部やってのけちゃうんだもんなー。流石にちょっと悔しいかな、」

「……そんな事はねぇだろ。ディーノにはディーノにしか出来ない事があるんだから。
実際俺は…ディーノの存在に救われた。ディーノが居なかったらもっと隼人を傷つけてたかもしれないしな」

「勇人………そう言ってくれると救われるぜ」



嘘じゃない

ディーノがいたから、今の俺がいる


誰かを恋する気持ちを教えてくれたのはディーノだった

この気持ちに変わりはない、けど……




「ディーノ。大事な話があるんだ」

「ああ、俺も」



でも、ごめんな

それ以上に俺は、骸が大切なんだ





「今まで、ありがとう」




それが俺に言える、精一杯の別れの言葉だった

















「おはよ、恭弥」

「え……は、隼人?」



雲雀が目を覚ますと、目の前に隼人の姿があった



「あれ?僕、寝ちゃって……っていうか隼人!?目が赤いけどどうしたの!?」

「あー、ちょっと寝過ぎたのかな…」



流石に骸に泣きついてたのは秘密にしよう

後が怖い



「3日も眠ってたんだってな。心配かけて悪かったな…」

「僕こそごめんね……隼人が目を覚ました時、側にいたかったんだけど」



そう言って雲雀が隼人を抱きしめると、鼻をピクリとさせた



「…六道骸臭い」

「えぇ!?」

「もしかして一緒にいたの?」

「あ、いや……さっき見舞いにきてくれてたけど、」

「ふーん」



疑うような瞳を向ける雲雀に、隼人は必死に
会話を探した



「きょ、恭弥って本当骸が嫌いだよな!」

「なんかあの人、隼人の父親に似てて嫌なんだよね」

「は?」

「昔牽制されか事あったから」

「は…?だって、父さんが生きてた頃は恭弥と殆ど話した事なかったはずだけど…?」

「だから牽制されてたんだって。君の父親に。だからなかなか話しかけられなかったんだよ」



え?父さんが恭弥を牽制?

なんで…




「あー、親父って勘がよかったからなー。隼人が取られるって分かってたのかもなー」

「兄貴!?」

「勇人さん!」



突如会話に入り込んだ勇人に、恭弥と隼人は目を見開く



「よー、恭弥。勝手に眠らせて悪かったな。お詫びに晩飯は恭弥の大好物のハンバーグにしたから。食ってくだろ?」

「あ、うん」

「兄貴…ディーノは?それに骸も…」

「もう帰ったぜ。隼人も、おはよう」



そういつもと変わらぬ笑顔を向ける勇人に、隼人も笑顔を返した




「おはよう…兄貴」





父さんも母さんももう居ないけど、寂しくはない



だって俺には恭弥や骸………それに、兄貴がいるんだから―――




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