ごくどきっ!

□伝えたい想い
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記憶が戻り、最初は戸惑っていた隼人もようやく落ち着きを取り戻し、いつもの日常を送っている


そして俺も、ディーノに今の気持ちをはっきり伝えた

後は、骸に返事をするだけだ



(今日こそ、言うぞ)



そう意を決して校門を潜り、校舎へと足を運ぶ

すると、早速廊下で骸の姿を発見した




「む、骸!」

「おや、獄寺先生。おはようございます」

「お、はよ…」



ドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら、言葉を続ける



「あ、のさ……話が…」

「ああ、六道先生。ちょうどいい所に。今大丈夫ですか?」

「ええ。すみません、獄寺先生。また後ほど…」



そう言って骸は声をかけてきた教頭と共に職員室へと入っていった




(こ、このぉ、ハゲ教頭がぁ!!!)



何が今大丈夫ですか?だ!!!

どう見ても話し中だろーが!!!空気読めこのKY!!!



と、自分のタイミングの悪さを人に当たっても仕方ない

昼休みや放課後にもまだチャンスはあるんだもんな…




と、思っていたのに…


この日は二人っきりになるどころか、まともに会話も出来ずに一日を終えた












(もしかして、避けられてる?)



それから一週間

未だに骸に返事が出来ずにいる


何かがおかしい

昼休みに中庭に行けば大抵会えるのに、ここ最近は骸は中庭に居ない

花壇の水やりはきちんとされている所を見ると、いつもと時間をずらしている


つまり、俺と会わないようにしている?



俺の返事を聞きたくない、とかだろうか?

でも、骸のことだから俺の気持ちなんてバレバレだろうし…




ま、まさか…骸に、嫌われた?




思い当たる節がないわけじゃない

元カレの事を10年も引きずってたり、隼人の事だってずっとうじうじ悩んでたし…


俺だったらそんな奴…愛想尽かすに決まっている



「っ……」



ヤバい。自業自得なのに涙が出そうになってきた


でももし、本当に骸に嫌われてしまったんだとしたら

その時、俺は―――















「骸さぁ、最近兄貴のこと避けてるだろ?」

「どうしたんですか、急に?」



昼休みが終わったばかりの授業中

かったるい授業をサボって屋上で昼寝をしていたら骸が現れた


と言ってもあまり珍しい事ではないのだけれど




「最近、兄貴の元気がない」

「それはそれは…」

「お前、何考えてんだよ?兄貴に告白したのにまだ返事貰ってないんだろ?」

「貰ってませんけど…彼の返事はもう分かってますし」



そう言って余裕の表情を見せる骸に、隼人は首を傾げた


確かに、兄貴が骸を好きなのは明白だ

だったら避けることなんかしないで、とっととくっついて欲しい




「何がしたいんだよ…お前」

「何がしたい、というか、不公平だなと思いまして…」

「不公平?」

「僕は10年もの間獄寺先生に片想いをしてました。それはもう、切なかったんですよ?
再会しても僕のこと覚えてないし、寧ろ嫌われてたようでしたからね」

「はぁ…、だから?」

「だから、獄寺先生にもこの切なさを味わって頂こうかと思いまして」



そう言ってニッコリと笑う骸に、隼人は顔を引き攣らせた


結論から言うと、骸の性格は最悪だ

ドMかと思いきやドSだったのか…




(なんで俺、骸と父さんを重ねてしまってたんだろ…)



父さんはこんな性格悪くなかった………と信じたい




「あんま兄貴をいじめんなよ」

「分かってますよ」

「泣かせたら承知しねぇからな」

「それはどうでしょう。いつもつんけんしている獄寺先生を泣かすというのも楽しそうですから」

「……変態」

「クフフ。褒め言葉です」



でも、どんなに泣かせたとしても、骸だったらきっと……兄貴を幸せにしてくれる

そんな確証がある




バタンッ!!!



「へ…?恭弥?」



突然大きな音を立てて屋上に現れたのは、息を切らした雲雀だった



「嫌な予感がして来てみれば……教師がサボって何してるの?」

「人聞き悪いですね。今は受け持ち授業もなくて、暇なんですよ?」

「だからと言って隼人に近づくな、このロリコン教師!!!」

「僕が誰と居ようと雲雀君には関係ないはずですが?」

「咬み殺すっ!!!」



あー、また始まった

こうなると長いんだよな……骸もいい加減、大人気なく恭弥をからかうの辞めればいいのに



「あーもういい加減にしろ!!!恭弥、今から応接室行くからそれでいいだろ?」

「隼人…」

「それから骸!俺や恭弥なんかに構ってないで、本当に構うべき相手を構ってこい!!!それまで口利いてやらないからな!」



それだけ告げて、隼人は恭弥の手を引いて屋上を出ていった


それを見送った骸は、クスリと笑う



「隼人君が口を利いてくれないのは、ちょっと悲しいですねぇ」



まぁ、僕だってずっとこのままでいようだなんて思ってませんけど

一週間まともに会話をしてないだけで禁断症状が出そうです



そして骸は徐に中庭へと目を向けた

そこに予想通りの銀色を見つけ、笑みを漏らした


















「はぁ…」



中庭の花壇に咲く千日紅の花を眺めながら、勇人はため息をついた

そういえば去年の誕生日にこの千日紅の花を骸に貰って……それからだったよな、骸を意識し始めたのは



俺にとっての……思い出の花なんだよな




「獄寺先生は、本当に千日紅が好きですよね」

「え……骸!?」



どうして骸が!?

そっか……骸もこの時間は授業ないんだっけ




「あ、あのさ!」

「獄寺先生は、千日紅の花言葉をご存知ですか?」

「へ?」



今度こそ告白しようと意を決して放った言葉は、骸によって遮られた

やっぱり……俺の返事なんか、聞きたくないのか?



「千日紅の花言葉は、"変わらぬ愛情を永遠に"というんですよ?」

「え…?」



そう言って微笑む骸に、俺の鼓動が激しく脈打った


"変わらぬ愛情を永遠に"って……骸はその花言葉を知ってて、俺に?




「変わってませんよ、僕の気持ちは。これまでも、これからも……永遠に」

「っ……骸、俺…」



お前に嫌われたらと思うと、怖かった


それでも、本当に嫌われたんだとしても……この気持ちだけは伝えたい


例え届かなくとも、これが俺の想いだから




「俺っ……骸が好きだ!」

「はい」

「本当はずっと……好きだったんだ」

「…獄寺先生」

「だから隼人に嫉妬したりもしたし、なかなか素直になれなかったけどっ…でも、」



言いかけて、俺の言葉は骸の唇により遮られた



「今は黙りなさい、勇人。もう我慢出来ません」



そう言って再び重なった唇に、勇人はゆっくりと瞳を閉じた








14歳


俺は初めて恋をした





そして、24歳になった今



俺は、愛することの本当の意味を知った――



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