ごくどきっ!

□幸福の法則
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月日は流れ、桜が咲き始めた3月中旬


今日は、並盛中学の卒業式だった





「転勤!?」

「うん、父さんが仕事の都合で秋田にね」



恭弥が卒業してしまうのは寂しかったけど、家は隣同士だし大丈夫だと思っていたのに…

学校からの帰り道に恭弥に言われた一言に、俺は絶望した



「それってやっぱり……恭弥も一緒に行くのか?」

「うん、一緒に来いって言われてる」

「っ…」



そんな……じゃあもう、恭弥と…



「でも、行かないよ」

「え?」

「まぁ、両親は反対するだろうけど、僕だってもう高校生になるわけだし。今までだって一人暮らししてたようなものだったからね」

「いいの…か?」

「隼人と離れたくないから。いざとなったら家出でもするよ」

「恭弥…」



今までの恭弥は、親に逆らったりはしなかったのに…

それも全部、俺の為?



「そんな顔しないでよ。義務教育が終わったら親元離れようってのはずっと考えてたことだから」

「一人暮らしって…アパートでも探すのか?」

「そのつもり」

「あ、あのさ……なんなら家に来ても、」



兄貴だって恭弥なら反対しないだろうし

恭弥が並盛に残るにしたって、学校が違ううえに家が隣じゃなくなるのは……嫌だ




「ごめん、それは遠慮しておく」

「なっ…なんで!」

「隼人と一つ屋根の下なんて、勇人さんもいるのに自分抑え切れる自信ないから」

「え………なっ///」



自分を抑えるって……つまり、そういう意味、だよな?



「だから、一人暮らししたら遊びにきてよ。そしたらいっぱいイチャイチャしよ?」

「!!!???」



きっと今の俺は茹蛸みたいに真っ赤になっているんだろう

いつも恭弥のペースにのまれてるのが、ちょっと悔しい



「そうだ、今日は勇人さん残業なんでしょ?家に寄っていってよ」

「う………行、く」



まだ赤い顔を隠すように俯きながらそう告げると、恭弥は嬉しそうに微笑んだ

そして家が近づくと恭弥のその笑顔が消え、不機嫌そうに歪む



「恭弥?」

「なんでいるの…」

「は?」



恭弥の視線の先を追うと、そこには大人びた恭弥の笑顔……もとい、風が笑顔を向けていた



「お帰りなさい、恭弥、隼人」

「風!?」



どうして風が日本に?

前回日本に帰ってきてからはまだ半年も経っていないのに…



「母さんから聞きましたよ、引っ越す事になったんでしょう?」

「だから何?貴方には関係ない」

「つれないこと言わないで下さいよ。私が家に戻る事を条件に、恭弥と私はこの家に残れる事になったんですから」

「は?」

「えっ……それじゃあ!」



恭弥は引っ越さなくて済むって事か?



「これから兄弟水入らず、仲良くしましょうね、恭弥」



そう言って微笑む風に、恭弥は拳を握り締めた



「っ〜〜〜咬み殺すっ!!!」

「何をそんなに怒ってるんですか?」

「せっかく隼人と二人っきりになれると思ったのに!前回といい、貴方は帰ってくるタイミングが悪いんだよ!!!」

「フフフ…」

「ちょっ、まさかわざとなの!?」

「さぁ、それはどうでしょう?」

「咬み殺すっ!!!!」



 
俺は純粋に恭弥が引っ越さなくて済むのが嬉しいけど、確かに風がいたら二人っきりになれる機会は減りそうだよな…

でも…



「貴方と二人暮らしなんて冗談じゃないから!!!」

「短気は損気ですよ、恭弥」

「うるさいっ!!!」



恭弥があの広い家で一人ぼっちじゃなくなるのは……いいことかもな




















「獄寺ぁ…なんで雲雀なんかとっ」

「勇人……諦めるって決めたけど、骸と一緒にいるのを見るのはやっぱ辛い」

「あのさ、二人とも。いい加減俺に愚痴るの辞めてくれない?」



放課後の教室でぐだぐだと愚痴り合う副担のディーノと生徒の山本

最近は、この二人の愚痴を聞く事が綱吉の仕事の一貫になっていた



「なんだよツナ!ツナだって勇人のこと好きだったんじゃないのか?」

「えぇ!?」

「やっぱりツナ、そうだったのな…。獄寺にだけ異様に優しいのも獄寺先生の弟だからだったのな」

「なっ…俺と獄寺君はそんな関係じゃないってば!!それと、隼人君をえこ贔屓してるつもりもありません!!!」



ジーッと疑うような二人の視線に、綱吉は顔を引き攣らせた



「そ、そりゃ……10年前は多少……そういう感情もあったけど」



ディーノさんと付き合い出した時点で諦めたダメツナですけど!



「やっぱりなのなー。よし!こうなったら三人で失恋パーティーしようぜ!」

「はぁ!?」

「おっ、いいなー」

「といっても俺はまだ獄寺のこと諦めないのな!雲雀が卒業した今、まだチャンスはある!」

「山本…!お前いいこと言うな!そうだよな!まだ諦める必要ないよな!」

「頑張りましょう、ディーノ先生!」

「ああ!」



すっかり意気投合した二人に、綱吉は乾いた笑みを浮かべた

まぁ、でも……この諦めない根性は、俺も見習った方がいいかな



獄寺君と隼人君が幸せならそれで十分だから

この秘めた想いを告げることは、一生ないだろうけど

















「お疲れ様です、獄寺先生」

「骸……待っててくれたのか?」



職員室で仕事を終わらせると、タイミングを計ったように骸が職員室の扉を開けた



「もう暗いですし、送っていきますよ、勇人」

「あ、ああ……って、やっぱ辞めないか?名前で呼ぶの…」

「いい加減慣れて下さいよ」



仕事が終わった途端に恋人モードを発揮させる骸に、俺は未だに慣れることはない

寧ろどんどん気恥ずかしくなっていく



すると、ブーブーと携帯が振動し、メールの着信を知らせる



「メールですか?」

「ああ、隼人から……って、え?」

「何かあったんですか?」

「ああ、風が帰ってきたって…」

「っ!?」



すると、それまで笑顔だった骸からどす黒いオーラが滲み出た



「む、骸?」

「また一時帰国ですか?」

「いや…完全に戻ってきたみたいだけど、」

「っ……そんなのダメです!あんなのが隣人だなんて…勇人の貞操の危機です!」

「あんなのって……風はただの幼なじみだって」

「幼なじみなんてただの他人です!」

「いや、それはそうだけど…」
 


骸ってどうしてこうも風を嫌うんだ?

あ、あれか。

同族嫌悪ってやつだな。




「こうなったら勇人、同棲しましょう!」

「はぁ!?」

「あ、間違えました。同居しましょう。僕が勇人の家に住めば安全です!」

「同じだろーが!!!つーか隼人もいるのに出来るわけねぇだろ!?」

「クフフ…隼人君も一緒なら両手に花というやつですね」

「果てろロリコン!!!」



骸に鞄を投げつけ、俺は駐車場へと向かった



「そんな怒らないで下さいよ。ちょっとした冗談じゃないですか。まぁ、同居は本気でしたが」

「俺は隼人が独り立ちするまでは隼人との生活を大事にするって決めてんだよ」

「全く…そのブラコンはなんとかならないんですか?僕と隼人君が崖から落ちそうになってたらどっちを助けるんです?」

「隼人」

「あの…分かってましたけど即答だけはやめて下さい」



そう言ってしょげる骸を見ながら、俺はクスッと笑みをもらした


どちらかしか助けられないと言うのなら、俺は間違いなく隼人を助けるだろう

でも…



「でも、そのせいでお前を死なせてしまったら、隼人を恭弥に任せた後…………俺も後を追うかもな」



骸一人で、死なせたりはしない




「勇人…。クフフ、大丈夫ですよ。僕は自力で崖なんかはい上がってみせますから」

「ははっ、確かにお前なら大丈夫そうだなー」

「そしたら勇人を、抱きしめにいきます」



そう言って微笑む骸に、俺も笑みを返した



骸はきっと、俺をおいて死んだりしないんだろうな


俺は大切な人を失う悲しみを知っているから

骸は絶対、同じ悲しみを味わらせたりしない


それが骸の、優しさだと知っているから



「家で飯食ってくだろ?」

「もちろんです」




だから俺は何度だって、お前に恋をする




















「うわぁ…満開だな」



4月になり、俺達はあの桜の元まで訪れた



「でも流石に早過ぎたんじゃないか?沢田先生達もまだ来てないみたいだし…」



皆で花見をしようと言い出したのは勇人で、勇人の誘いを断る者などおらず、群れるのを嫌う恭弥でさえも花見を了承した

しかし、他のメンバーはまだ誰ひとり来ていなかった



「いいんだよ。わざと早めに来たんだから」

「え?」

「とりあえず最初は、家族水入らずがよかったからな」



そう言って桜の木を見上げ勇人の様子につられ、隼人も視線を上げた

すると、優しい風が吹き、桜がヒラヒラと舞落ちる


まるで父さんと母さんに抱きしめられているような感覚に、隼人は微笑んだ




「綺麗だな」

「ああ。…なぁ、隼人」

「ん?」

「お前は今、幸せか?」



突然の兄の問いに、隼人は目を丸くした

そして、その真剣な眼差しに笑みを返す




「幸せだぜ。だって兄貴が……幸せそうだからな!」






幸福を満たす最大の条件



それはきっと



大切な人が幸福であることだ―――




End...

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