ごくどきっ!
□始まりの交響曲
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※『ごくどきっ!』番外編で獄父×獄母の話です。
※獄父の名前はオリジナルです。
※原作ではラヴィーナさんがハーフですが、この作品では獄父がハーフです。ラヴィーナさんは生粋のイタリア人。
※獄父とシャマルが従兄弟です。
※シャマルの出番が無駄に多い(管理人がシャマル欠乏症につき)
※年は24歳くらいです(シャマルは20歳くらい)
※二人の出会いの話なので獄寺兄弟はラストしか出てきません。
以上をふまえてご覧下さい!
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特別裕福な暮らしではなかった。
早くに両親を亡くした私にとって、その日一日を生きるのが精一杯で。
辛くなかったと言えば嘘になるけど、自分が不幸だなんて思わない。
大好きなピアノを仕事に出来て、寧ろ幸せだった。
そんな、ある日の事。
大企業が開いたパーティーにピアニストとして呼ばれたあの日。
私は、彼と出会ったの。
-始まりの交響曲-
「あのっ……困ります!」
「いいじゃないか。僕とお近づきになれば、君の将来も安泰だよ?」
生まれながらに持つ私の銀色の髪は、どうやら凄く目立つらしい。
こうして男の人に声をかけられる事はよくあるのに、未だに慣れることはない。
「もうピアニストとしての仕事は終わったんだろ?だったら、この後二人で…」
「サフォード卿。こういった席で女性をナンパとは、少々いただけませんね」
「っ…!あ、貴方は!これは失礼しました…!」
そう言って今までしつこく付き纏っていた男性が一目散に去って行った。
状況についていけない私は、助けてくれた男性に目を向けた。
すると、その人は優しそうな笑顔を私に向け、ドキリと鼓動が早くなった。
「あ、あのっ、ありがとうございました。正直ちょっと、困っていたので…」
「いえ、彼は手が早いと有名な方で……貴女に何もなくてよかったです」
そういって微笑む姿に、私の鼓動がどんどん早くなる。
身なりも綺麗だし、こんなパーティーに出席しているということは、この人もかなり身分の高い方なんだろうか。
「先程の演奏をしていたのは貴女ですよね?」
「あ、はい」
「素晴らしい演奏でしたよ。思わず、お偉いさんとの会話を中断させてしまったくらい」
「そ、そんな…。私なんてまだまだですわ」
お世辞だとは分かっていても、私のピアノを褒めて貰えるのは嬉しい。
こういったパーティーで演奏すると、決まって演奏よりも容姿ばかりを褒められていたから…。
「リヒトさーん、向こうでご婦人が呼んで………って、うぉ!すげぇ美人!」
「シャマル……手を出すなよ」
「分かってますって。リヒトさん怒らせるほど怖いもんねーですもん」
リヒト…?
それがこの人の、名前?
「お話の途中だったのにすみません…。僕は行かないといけないので、またいつか貴女のピアノを聴かせて下さいね」
「あっ、はい!」
そう言って去って行くリヒトさんの後ろ姿を、私は呆然と見送った。
すると、リヒトさんを呼びに来た男性……たしかシャマルさんと呼ばれていた人が私に問いた。
「もしかして、リヒトさんに惚れちゃった?」
「えぇ!?あ、あのっ…私は!」
「隠すことないぜ?あの人に惚れない女の方が珍しいからな」
恐らく年下だろう彼は、大人びた笑みを見せた。
「だが、本気にはなるなよ」
「え…?」
「美人が泣くのは、見たくないからな」
それはどういう意味なのか?それを問うまえにシャマルさんは去って行った。
(本気になるなと…言われても)
なれる訳ないじゃないか。
きっと彼は、どこかの金持ちのご子息で、あんなに素敵な人…。
私とは、住む世界が違うのだから。
もう二度と、逢うことだって叶わないのだから…。
そう、もう二度と逢うことのない、淡い恋心で終わるはずの恋だった。
だけど、運命の悪戯か……私達は再び、巡り逢う――
「貴女は…!」
「リ、リヒトさん!?」
友人が出演しているコンサートのロビーで、私は再びリヒトさんと出会った。
「貴女もこのコンサートに?」
「いえ、友人が…」
「それは残念です。もう一度貴女のピアノを聴きたかったんですが」
「そう言って頂けると嬉しいですわ。それにしても、こんな所でまた逢うなんて、凄い偶然ですね」
「偶然ってわけでも、ないんですか…」
「え?」
そう言って苦笑いするリヒトさんに、私は首を傾げた。
「もう一度貴女に逢いたくて、あれ以来こういったコンサートには頻繁に来ていましたから」
「え…――」
貴方も私に逢いたいと思って下さったんですか?
また逢いたいと願っても、いいんですか?
「あの時名前を聞かなかったこと、凄く後悔したんです。
よかったら名前を教えて頂いてもいいですか?」
こうして私とリヒトさんの関係が始まった。
互いの想いを告げ、恋人という関係になるのにも時間はかからなかった。
リヒトさんはあまり自分の事を話さない人だったけど、不満も不安もなかった。
園芸が趣味、なんて意外と庶民くさいその人柄に、私はすっかり失念していたのだ。
私と彼は、住む世界が違うということを…――
「お前さんもよくやるよな。人のせっかくの忠告も聞かないで」
「フフッ。その話をリヒトさんにしたら、シャマルはそうやって僕から女性を遠ざけようとしてるって怒ってましたよ?」
「そりゃ、リヒトさんといると俺に可愛こちゃんが寄り付かなくなるからなー」
「シャマルらしいわ」
リヒトさんの従兄弟であるシャマルとは、友好な関係を築いていた。
シャマルの人柄なのか、医師を目指しているからなのか、シャマルに相談をすると凄く心が軽くなる。
「それよりシャマル。貴方いつも違う女性連れてるのね。女遊びも程々にしないと…」
「あー、あいつらは妹だ」
「え!?やだ、ごめんなさい…。随分とたくさん妹さんがいたのね」
まさか、全員妹だったなんて…
「プッ…お前さぁ、悪い男に騙されないか俺は心配だぜ」
「え?」
「あぁ、もう手遅れか。リヒトさんに捕まってる時点で」
「シャマル…?」
なんだかいつもと様子の違うシャマルに、私は首を傾けた。
「まぁ、泣かされたら俺んとこ来いよ。慰めてやるから」
「え、ちょっとシャマル!?」
シャマルはヒラヒラと手を振って去っていく。
この時の私はシャマルの言葉の意味が全く理解出来なかった。
でも、今思うと、この時すでにシャマルは知っていたのだろう。
私とリヒトさんの、別れが近づいている事を…――