Melodia-女神の旋律-

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『貴女の音色に惚れました!』




そう言われたのは、まだピアノを始めたばかりの5歳の時。

小さなホールのコンサートでピアノを弾いた後、ロビーで同い年くらいの少年に呼び止められ、そう言われた。



名前なんて聞いてないし、顔も全然覚えてないんだけど、その言葉だけは今でも覚えている。

だってその言葉は、ピアノを好きだと思えたきっかけだったから。



多分俺の、初恋だったから。



何処の誰だか分からないけど、ピアノを続けていればまた出会える気がしていた。


だけど…。






もう俺は、ピアノなんて…………音楽なんて、しない。




音楽は俺から、大切なモノを奪うものだから―――






ACT.1『貴女の音色に惚れました』












「隼人!」

「あ、雲雀…」



ボンゴレ学園高等部。
俺は1週間前にここに入学した。



「どう?学校には慣れた?」

「んー、この髪のせいで上級生にいちゃもんつけられる事が多いけど、雲雀の名前出した途端逃げてったぜ?」

「ふーん、その上級生のクラスと名前は?」

「言わねー。相手は女だぜ?お前に言ったら大変だろ…」

「隼人が心配なんだよ」

「過保護だなー相変わらず」



雲雀は俺の一つ年上の幼なじみで、俺にとっては頼りになる兄貴…みたいな感じかな。
ボンゴレ学園の風紀委員長をしていて、俺を無理矢理この学校に進学させた張本人だ。




「隼人、部活は入らないの?」

「帰宅部」

「あのね…。吹奏楽部なんてどう?この学校、結構有名なんだよ?」

「お前、群れるの嫌いなくせになんでそんな群れてる部活にいれようとすんだよ…」

「……どんな形でもいいから、隼人には音楽続けて欲しいから、」

「っ…」



音楽。

俺にとって音楽は、かけがえのないモノだった。


だけど、今は…――





「興味ねぇ。音楽はもうやめたんだ」

「隼人…」

「ありがとな、雲雀。気を使わせちまったみたいで悪いな、」

「そんな事ないよ。あ、そうだ隼人。この学校で六道骸にだけは近づかないでね」

「六道骸?誰だ、それ?」

「僕の天敵。じゃあ、僕は仕事があるから、寄り道しないで帰るんだよ」

「あ、ああ…」



天敵?向かうところ敵なしの雲雀に?


六道骸、か…。

どんな奴なんだろ――?


















「はぁ…あと一人なんですけどね…」



西校舎の3階にある音楽準備室で、六道骸はため息をついた。



「去年の3年生が卒業してから軽音部は僕一人に…。今年入部した新入生はまるで音楽の知識はなく使えない…」

「おい骸…。こっちは泣いて縋るから入部してやったのになんだその言い草!?」

「あんなの演技ですよ、綱吉君。第一、君は元々軽音部に興味があったんじゃないんですか?」

「そ、それは…去年までいたベースのディーノさんに憧れてただけで…。つか俺はともかく山本まで巻き込むなよ!?」

「いいって、ツナ!ドラムも結構楽しいし、野球部と掛け持ちでいいんだろ?」

「あまりよくありませんが、このままだと廃部になってしまいますからね」

「廃部って…どのみちあと1人集めないと…」

「骸がギターで、ツナがベース。俺がドラムだから、残るはキーボードか」

「キーボードならピアノが上手い人探せばいいだろ?女の子ならたくさんいるんじゃない?」

「女の子を入部させる、というのは賛成ですが、そうやって募集をかけるとミーハーな人が集まるので嫌です」

「ミーハー?」

「僕のファンクラブの会員ですよ。骸様骸様って練習中にも話かけてきて正直ウザいんです」

「うわー、それって何気に自分はモテるんだってアピール?」

「ははっ!あ、俺そろそろ野球部の方に顔出すわ。また明日な、ツナ、骸!」

「え!?ちょっ、山本!?」



骸と二人っきりにしないでよー!!!



「あー…俺も、ディーノさんにベース教えてもらう約束してるから…。また明日!」



バタンッ、と慌てて音楽準備室を出ていく綱吉を見送った骸は、小さくため息をついた。





「どこかにいませんかね…。僕の理想の女神は」



















(吹奏楽部、かぁ)



雲雀に寄り道せずに帰れと言われたものの、誰もいない家に帰る気にもなれず、獄寺は校舎の中をブラブラしていた。

すると、無意識に音楽室のある階に訪れていた。



(やけに静かだな…)



今日は練習ないのだろうか?

いや、入部するきなんてないから、どっちでもいいんだけど…。


そんなことを思いながらも、気になって音楽室の扉をゆっくりと開いた。

案の定そこには誰も居なくて、グランドピアノだけがやたらとその存在を主張していた。



(ピアノ…、)



ピアノを見るのは、久しぶりだ。

母が亡くなって以来、音楽の授業はサボっていたし、家にもピアノはあるけど、そこは今では開かずの間と化している。


俺はそうやって、ピアノからわざと遠ざかっていた。

そうでもしないと、またピアノに触れてしまいそうで……怖かったから。




「ちょっと、だけなら…」




こうしてピアノを目の前にしたら、弾きたくなってしまいそうで………怖かったから。



ピアノなんて…音楽なんて嫌いだ。

だけど音楽は、自分らしくいられる、唯一の手段だった。





ポーン、っと指で鍵盤を押す。

それだけでもう、指が止まらなくなってしまった。
















「ピアノの……音色?」



隣の音楽室からだ。

誰だ?今日は吹奏楽の練習はなかったはず…。




「綺麗な……音色ですね」



だけど凄く、悲しい音。

まるで己の感情を全て、音色で奏でているような……そんな、音。




「…これです」



僕が求めていたもの。

僕が欲しかった音色。




ゆっくりと腰を上げ、音楽室へ繋がる扉を静かに開く。



そこには夕日に照らされた銀髪の天使………いや、女神が、いた。

















「やっぱ…指が鈍ってんな」



一曲弾き終え鍵盤から指を離すと、パチパチと拍手が聞こえてきた。





「素晴らしい演奏でしたね」

「なっ…!?」



いつから聴いていたのか、そこには特徴的な髪型をした長身の男。

どこの誰だか分からないが、関わらない方がいいだろうと、俺は慌てて音楽室を飛び出そうとしたが、その男に腕を捕まれそれも叶わなかった。




「放せよ!」

「嫌です。僕は貴女が欲しい」

「はぁ!?」



なんだ?ただのナンパか?

面倒臭いが、こういう時は雲雀の幼なじみだと言えば大抵の男は引き下がる。

そう思って雲雀の名を出そうとした、瞬間――





「貴女の音色に、惚れました!」

「え…――」




その言葉は、俺の心を大きく揺さぶる。


ピアノを続けていればいつかは出会えると信じていた初恋の少年。

その少年と同じ台詞を、目の前の男は言った。






これが、俺の運命を変えた


六道骸との、出会いだった――





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