Melodia-女神の旋律-

□A
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ACT.2『君の心は、僕が守る』




「どうしたの、隼人?」



朝、雲雀と獄寺は一緒に登校すると、校門を潜るなり獄寺はキョロキョロと挙動不審な行動をした。



「いや、ちょっと昨日変な奴に絡まれて…」

「また喧嘩?それともナンパ?」

「ナンパ……つか、スカウトってか」

「スカウト?」

「ああ、実は…」

「見つけましたよ!僕の女神っ!!!」

「ぎゃぁぁぁ!!!」



突如背中から抱きしめられ、獄寺は反射的にみぞおちに回し蹴りを食らわせた。



「クッフフ…良い蹴りです」

「いきなり何すんだよ変態っ!!!」

「こうでもしないと逃げるじゃないですか?」

「当たり前だろっ!!!昨日からしつこいんだよ、お前は!!!」

「ようやく見つけた女神を逃すわけないでしょう」

「女神とか言うな気色悪い!」

「そう言われましても、貴女の名前も知らな…」

「ねぇちょっと、どういうこと?」



すっかり蚊帳の外になっていた雲雀が、不機嫌そうな顔で六道を睨みつけた。



「おや、雲雀君ではないですか。おはようございます」

「君と呑気に挨拶するつもりはないよ、六道骸」

「えっ、六道骸!?コイツが!?」



雲雀が昨日言っていた天敵が、コイツ?

こんな馬鹿っぽそうな奴が!?



「今馬鹿っぽそうとか思いませんでしたか?言っておきますが成績は雲雀君より上ですよ!」

「え!?雲雀が学年トップじゃなかったのか!?」

「ちっ……一応ね」



悔しそうに顔を歪める雲雀に、天敵というのはあながち嘘ではないのだと実感する。

なんでも完璧に熟す雲雀を負かす奴がいるなんて……正直信じられない。




「で?君が隼人に何の用なの?」

「おや。隼人と言うんですね。自己紹介が遅れてしまってすみません、隼人。僕は六道骸といいます」

「質問に答えろ!それに、馴れ馴れしく呼ぶな!」

「僕が誰をどう呼ぼうと雲雀君には関係ないでしょう?そういう雲雀君は彼女の何なんです?まさか…恋人、ですか?」

「っ………幼なじみ、だけど」

「ああ、ただの幼なじみですか!」



ただの、をやたら主張しながら言う骸に、雲雀はさらに不機嫌そうなオーラを出した。

その様子に、こいつら本当に仲悪いんだなぁと獄寺は二人を人事のように眺める。



「ただの幼なじみが邪魔しないで下さい。僕は彼女を軽音部にスカウトしてるだけです」

「軽音部…?」

「雲雀君ならご存知でしょう?今軽音部が廃部の危機にあると」

「それは知ってるけど…」



軽音部が廃部の危機なのも、六道がキーボードの弾ける奴を探しているのは知っていた。

六道が部長でなかったら、吹奏楽なんて群れすぎな部活よりは軽音部の方が隼人にとっては良いかもしれないとまで思ったほどだ。



隼人のピアノの才能を知ったら、六道なら隼人をスカウトするだろうと予想はしていた。
だからこそ、隼人と六道を近づけさせたくはなかったのだから。


でも、出会ってしまったからと言って音楽を辞めた隼人の才能を見出だす事が出来るはず…




「昨日の貴女のピアノの音色、本当に素晴らしかったです!是非とも軽音部に入部して下さい!」

「え…?」



隼人がピアノを弾いた?

2年前のあの日から、触れる事すら拒んでいた隼人が…?




「隼人、どういうこと?」

「えっと……その、」



罰の悪そうな顔をする隼人に、六道の言っている事が本当なんだと確信する。




「音楽……続ける気になったの?」

「違っ……そういうんじゃなくて、」

「あれー骸じゃん。はよっす!」

「おはよ骸………って、ひぃぃ、雲雀さんも!?お、おはようございますっ」



獄寺の言葉を遮るように現れた二人組に、獄寺はピクリと反応する。



「あれ?獄寺じゃん!」

「あ、獄寺さん。お、おはよ…」



満面の笑みを見せる山本と、戸惑うように挨拶をする沢田に、獄寺は眉を潜めた。



「綱吉君達……彼女と知り合いなんですか?」

「知り合いっていうか……クラスメートだし」

「雲雀と一緒って事は幼なじみって噂本当だったのなー」



そう、獄寺は二人とクラスメートだった。
とはいえ、まともに会話をしたことはない。



「雲雀、俺教室行くから。放課後な」

「え、隼人?」

「ちょっと待って下さい!まだ話が…!」

「六道骸とか言ったな」



校舎に向かおうとした獄寺は、キッと骸を睨みつけた。




「廃部寸前なのは同情しないでもないが、俺には関係ねぇよ。俺は軽音部なんかには入らない。
俺は……音楽なんか大嫌いだ」



そう告げると、骸は何も言えなくなり、黙って獄寺を見送った。

状況が分かってない綱吉と山本は、疑問そうに骸を見つめた。



「骸……もしかして獄寺さんを軽音部に?」

「えぇ、そのつもりです」



そうハッキリ言う骸に、まだ諦めてないのかと雲雀は眉を潜めた。





「ねぇ、六道。昨日隼人がピアノ弾いたって、本当?」

「じゃなきゃ、僕がここまで本気にならないでしょう?」

「ふーん」



単なる気まぐれだったのかは分からない。

でも、これは間違いなく隼人にとっての一つの転機。

隼人がもう一度音楽と向き合う、きっかけになるかもしれない。


だけど…




「六道。隼人にはもう近づかないで」

「雲雀君に命令される謂れはありませんが?」

「君に隼人の心を開かせるのは不可能だ」



今、隼人が心を開いているのは僕だけ。

だから、本当の隼人を取り戻すのも、僕にしか出来ない。




「君に隼人は渡さない」




隼人の心は、僕が守る―――




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