Melodia-女神の旋律-

□C
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ACT.4『好きなだけじゃ、ダメかな?』




『ねぇ、隼人。貴女は音楽が好き?』




懐かしい、優しくて温かい母の言葉。

俺は、そんな母さんが大好きだった。







「おい隼人。もう昼休みだぜ?いつまでサボってるつもりだ?」

「んだよ、俺以外の女だったら喜んでベッド貸すくせに」

「仕方ねぇだろ。隼人はそういう対象にならねぇんだから」




この保健室の主であるシャマルは、母さんの従兄弟で、今の俺には唯一の身内だった。


昔は本職の医者だったシャマルが校医なんてしているのは理由がある。

シャマル本人の口から聞いた訳ではないが、シャマルは母さんが好きだったんだ。

だから2年前、一番大切な人の命を救えなかった事を悔い、医者である自分を捨てたのだ。



「ったく、俺はちょっと外出するから、5限目からはちゃんと出ろよ。いいな?」

「あー、はいはい」



保健室を出ていったシャマルを見送ると、俺はため息をつきながらベッドに顔を埋め込んだ。


雲雀とシャマルがいるからってだけでボンゴレ学園に入学したけど、変なパイナップルヘアーの奴には絡まれるし、馴れ馴れしいクラスメートはいるわで散々だ。


なんかもう、色々疲れた…。



このまま今日は一日サボろう。
そう決意してゆっくり目を閉じると、耳に届いた音。



(ギター?いや、ベース音か?)



保健室の窓の外は裏庭になっている。
おそらくそこから聴こえてきているベース音に、獄寺は耳を傾けた。



にしても…




(…下手くそ)



俺はベースは詳しくはないが、下手くそだと言うのは直ぐに分かった。

全然指がついていけてない。



でも、何故だろうか?

下手くそなだけのその音が、俺の心を癒していく…。




「痛っ…!」



突如途切れた音と、聞こえてきた声に、俺はベッドから降りて窓の外を見た。



すると、そこにいた人物に驚愕し、目を見開く。




「沢田?」

「え?…あ、獄寺さん!?」



ベースを奏でていたのは沢田綱吉で、弦で指を切ったのか、指から赤い血がながれていた。



「怪我したのか?」

「えっ…だ、大丈夫だよ!これくらい舐めとけば治るし…!」

「アホ。放置したらベース弾けなくなるぜ。ちょっと待ってろ」



そう言って俺は勝手知ったる保健室から絆創膏と消毒液を手に取り、窓から裏庭へと出た。



「ご、獄寺さん!?上履き汚れちゃうよ!?」

「気にするな。あとさん付け辞めろ。獄寺さんなんて柄じゃねぇ」

「え?あ……じゃあ、…獄寺……くん?」

「なんで君付けなんだよ?」

「ひぃ、ごめんなさい!そうだよね!女の子に変だよねっ。でもなんか、呼び捨てするのも違和感あって…」

「はぁ……別にいいけど」



挙動不審にあわあわする沢田の手を取り、傷口を見た。

すると、ただ弦で切っただけだと思っていたその傷口がマメが潰れて出来たものだった事に驚愕する。



「お前……ベース始めてどれくらいだ?」

「え?軽音部に入部してからだから……2週間くらい?」



2週間…。

たった2週間でこんなマメだらけになるなんて…どんだけ練習してんだよ。



「あ、ありがとう。獄寺君」

「別に」



治療を終えると、沢田のベースに目がいった。



「ずいぶん年期入ったベースだな」

「え?ああ、これはディーノさんのを譲って貰ったものだから」

「ディーノ?」

「うん。去年まで軽音部だった人。文化祭でディーノさんに憧れて軽音部に入ったんだ、俺」

「……なんで、ベースなんだ?」

「え?」

「ベースって…ちょっと地味だろ?バンドのメインはやっぱりギターだし、ギターやりたがる奴の方が多いだろ?」



俺の問いに沢田はキョトンと目をしばたかせた。




「カッコイイって、思ったからかな?」

「は?」

「骸を見れば分かるけど、去年の軽音部のメンバーって凄い癖のある人ばっかりだったんだ。
厳ついギタリストとか、無駄に声のでかいボーカリストとか。とにかく個性的で…。
でも、そんな個性的メンバーをディーノさんのベースが包み込むようにして……バラバラだった音が一つになって、音楽知識とか全然ない俺でも感動したんだ」



そう言ってベースを見つめる沢田の表情を見て、俺の頬に涙が伝った。



「ご、獄寺君!?お、俺なんか…気に障るようなこと…!?」

「違っ……違うんです、」



ようやく、分かった。


この人の事が気になってしまった理由。

下手くそな演奏が、心地好かった理由。



それは、この人が醸し出す雰囲気が……奏でる音色が、母さんに…似ていたからなんだ。


ひだまりのように温かい。

そんな人だったからなんだ。




「俺……音楽が好きなんですっ。でも、音楽は俺の一番大切な人を奪った…。だから憎くて憎くて…堪らないはずなのに、」



貴方の奏でた音色が頭から離れない。

憎いはずの音楽が好きだと、俺の心が叫ぶ。




「あの…事情はよくわからないんだけど、獄寺君は音楽が好きなんでしょ?」

「…はい、」

「だったら、音楽続ければ良いんじゃない?好きなだけじゃ、ダメかな?」

「っ…」






『ねぇ、隼人。貴女は音楽が好き?』

『好きだよ。音楽もピアノも大好き。でもね、お母さんみたいな綺麗な音が出せないの。才能……ないのかな?』

『そんな事ないわ。好きなだけでいいの。好きって気持ちはそれだけで、素晴らしい才能よ』





なぁ、母さん。


俺は音楽を好きでいてもいいのかな?



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