Melodia-女神の旋律-

□F
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ACT.7



「貴方……こんな所で何してるの?」



ディーノと共に音楽室に向かう途中、不機嫌そうなオーラを出す雲雀と出くわした。



「おー恭弥!久しぶりだな!」

「隼人の声が聞こえたと思ったら…部外者がこの学園に何の用?今すぐ出てけ」

「部外者って……相変わらずだな、恭弥は」



苦笑いするディーノの隣で、獄寺はため息をついた。


雲雀はなんというか…凄く過保護だと思う。

母が亡くなってから、お前は俺の父親かと言いたくなるほど、俺に近づく男を問答無用で咬み殺してきた。


まぁ、それが男避けになってちょうどよかったんだが。



「雲雀、ディーノは沢田さんの勉強見に来てくれただけだ」

「そんなの関係ないよ。部外者は部外者だ」

「卒業生だろうが…。つか、今日は放課後に大事な会議があるって言ってなかったか?時間大丈夫なのか?」

「うっ…」



どうやら図星だったらしく、雲雀は握り締めていたトンファーを下ろした。




「いい、隼人。コイツは天然のタラシだから気をつけてね!」

「は?まぁ、確かにタラされたかもだけど…」

「えぇ!?俺はそんなつもり全然…!」

「だから天然なんだろ?」

「んな心配しなくても俺は恭弥の恋人に手出したりしないって!」

「………………は?」



予想外のディーノの言葉に俺は目を丸くし、流石の雲雀も固まった。



「あれ?お前ら付き合ってたんじゃないのか?」

「なっ………んなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!」

「………そこまで否定することないでしょ?」

「ある!今までも散々誤解されてきたんだぞ!?雲雀が肯定も否定もしないせいで!」

「いちいち面倒だったから」

「へ…?付き合ってなかったのか?でも前に恭弥が言ってた…」



言いかけたディーノの言葉を遮るように、雲雀が素早く口を塞いだ。



「それ以上言ったら……咬み殺すっ!!!」

「…ふぁい、すみませんでした…」



本当に咬み殺されそうな程の雲雀の殺気に、ディーノは素直に謝罪を述べた。

そして雲雀は不機嫌そうなまま去って行った。




「なんだったんだ?」

「あはは…」



やっぱりあれは獄寺の事なんだな、とディーノは確信した。


それはまだ雲雀が中学3年生で、ディーノが家庭教師をしていた時に何気なく聞いた事だった。








『恭弥って誰にでもそんなに素っ気ないのか?』

『なに、いきなり?貴方に関係ない』

『でもさ、人間って一人じゃ生きていけないんだぜ?恋愛とか、一度はしてみるべきだと思うぜ?』

『………そんな心配無用だよ』

『え?』

『恋愛ならしてる。あの子以外誰かを好きになったりしない……この世界で唯一、僕が守りたいものだから―――』











(てっきり、恋人がいるんだと思ってたんだけどな…)



どうやら現在進行形で恭弥の片想いらしい。

元カテ教としては何か協力してやりたい所だな…。





「なぁ、はや…」

「しっ!」

「え?」



突然どうしたんだ、とディーノが首を傾げると、獄寺はゆっくりと目を閉じた。

そして静まり返った廊下に響く、ギターの音色。




(骸か?)




どうやら獄寺は骸の音色に耳を澄ませているらしい。

その表情はどこか、切なそうに見える。





「不思議……だよな、骸の音って」

「え?」



音色が途切れると、それまで黙っていた獄寺がゆっくりと口を開く。




「初めて聴いた時も思ったけど、テクニックもあるし凄く楽しそうに演奏してるのに……音色はどこか、哀しい音がするんだ」



俺とよく似ている。

恐らく骸も、幼い頃に失った母親の事を忘れられずにいるんだろうな…。




「そう…か?」

「え?」

「哀しい音っていうより、音楽を心から愛してるって音に聴こえるけどな、俺は」




ディーノの言葉の後に、再びギターの音が響き渡った。




「去年までの軽音部ではさ、骸はリードギターじゃなかったんだ。なのにライブをする度に頭に残るのは、いつだって骸の音色だった」



リードギターをしていたザンザスの方がテクニックも迫力もあったのに、骸の音色はいつだって観客の心に残るものだった。


哀しい音、と言われれば確かに骸の音色はどこか切なさを感じる。

だけどそれは、そう……まるで…。




「片想い……みたいな感じだな」

「片想い?」

「片想いって切ないだろ?だけど、片想いしてる時が一番好きって気持ちが大きいんだと思うんだ。骸の音はまさにそれなんだと思う」

「音楽に……片想いしてるってことか?」

「まぁ、そんな感じかな」



音楽に片想い、なんて現実的には有り得ない表現だ。

だけど、哀しさも切なさも…愛しさも、骸の音は本当に音楽に恋してる、そんな感じだった。




「確かに、そうかもな」




そう言って微笑んだ獄寺を見て、ディーノはドキリとした。




「隼人…お前、まさか…」

「話し声が聞こえると思ったら……綱吉君はもう大丈夫なんですか?」

「おぅ。それより練習しようぜ、骸!」




音楽室に駆けていく獄寺の背中を見つめながら、ディーノは頭を悩ませた。



(恭弥の最大のライバルは、骸ってことか…)




隼人は多分、まだ自分でも気付いてないだろう。



骸を想って漏らした笑みが、まるで恋する乙女のようだったことを。




「出来れば恭弥に頑張ってもらいたいんだけどな…」




切ない片想いの連鎖が、嵐のように吹き荒れた。




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