情炎に溺れる華(長編)
□2 囚われ人
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藍染はその後すぐに急用で家を空けることになった為、他の雑用については従者の一人が教えることになった。
「檜佐木修兵だ。」
他の従者とは一線を画した井出達の男。短い黒髪に数字の刺青、そして傷跡が三つ、額から頬にかけて走っていた。
「…阿散井恋次です」
「よろしくな」
「お前…」
早速客人の会食の後片付けをしている最中に、修兵が恋次の背中に声を掛けた。柱に背を預け、恋次を見下ろす。
「白哉さんの世話係になったんだってな」
振り向くと、そこには真剣な表情があった。
「…くれぐれも気をつけろよ」
何を、と訊ねようとした瞬間、どこからか修兵を呼ぶ声がした。ため息の後、じゃあな、と手をひらひらさせて部屋を出て行ってしまう。
恋次は一瞬視線を彷徨わせ、しかしすぐに立ち上がった。
今は、この仕事に慣れることだ。
家主である藍染は、複数の暴力団を配下に据える男であった。裏社会では名を知らぬ者がいない、その世界を牛耳っている藍染組の若頭である。
冷酷非道、その片鱗を、先の間に見せただろうか。
噂には聞いていたが、読めない男だ。恋次は唇を噛み締めた。
少しでもボロを出せば途端に自分の素性に気づかれてしまうだろう。
目的を、何としてでも果たしてみせる。
そう誓ったのだ。幼い頃から養い、匿ってくれたあの人に、恩返しする為に。
(まずは…このただっ広い屋敷内で、迷わないようにしねぇとな…)
重ねた上質の陶器の皿が、カチャリと音を立てた。