情炎に溺れる華(長編)

□5 秘め事
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はっと振り向けばその人は窓の外を遠目に眺めていた。何か、放り出すような声色。
咄嗟に、何も言えなくなる。



「白哉さん…」







そんな訳……ないだろ。











喉まで出掛かった言葉を飲み込む。



「…白哉さん……これ、飲めますか」



付け足した台詞で誤魔化して。
湯呑みを差し出す。飲み易く冷ました白湯を入れたそれは、熱くも冷たくもなく。



しかし、白哉の手には暖かく感じられただろう、と。

僅かに触れた指の冷たさに、そう思った。




「………」

白哉は湯呑みを受け取ると、目を伏せ、言われるままに白湯を飲む。
恋次はその白い喉がコクリと波打つのを、苦渋の表情で見つめていた。

何も言えぬまま、外の雨音が部屋を満たしていく。



「…薬はいらぬ」

「え、でも…」



封を切ったところでその言葉が降ってきて、慌てて顔を上げれば。

見れば、白哉の顔は青褪めていた。悟られるのを畏れるかのように、潤んだ視線を彷徨わせる。



「!」



立ち上がろうとした白哉の身体が、ぐらりと傾いた。





突然のことに恋次は目を見開く。



「グ……ゲホッ…ゲホッ…」

「白哉さん…ッ!!!」



抱き留めようとして、腕を振り払われる。

「!!」


白哉はそのまま倒れ込み、四つん這いになるようにして背を丸めた。

「白哉さん…すぐ、医者を…ッ」
「…いらぬ…!」




口元から、唾液が糸を引いて滴り落ちた。
畳に無数の染みをつくる。


恋次は苦しむ白哉の横で、ただ立ち尽くしていた。驚きと動揺で…動けない。

大きく上下する薄い肩。激しく咳き込みながら、胃の中に何も入っていないにも拘らず尚も吐き出そうとする。





「………」

十数秒後、やっと落ち着いたのだろうか。荒い息を抑えながら、手の甲で口元を拭う。



顔を上げた白哉の頬には、幾筋もの涙が流れていた。
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