情炎に溺れる華(長編)
□5 秘め事
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虚ろな瞳とぶつかる。
「…ッ」
瞬間、思わず息を呑んでしまった。
「………」
白哉が目を逸らす。ゆっくりと立ち上がり、覚束ない足取りで窓辺へと歩いた。
そこへ腰掛ける。
しばらくそこで外を眺めていた白哉に、恋次が声を掛けようとした時だった。
「……嘲うがいい」
「!」
抑揚のない声が、自嘲気味に言った。
向こう側を向いている所為で、表情が見えない。
「…卑しい、男妾だ…と。」
憎悪を込めた声だった。耐えてきたものを吐き出すかのように。
「嘲え……そう、お前がすれば……」
先程とは打って変わった弱々しい声。酷く怠慢な動作で、恋次を返り見たその人。前にも見た寂しげな影が、その人を捉えていた。
「……私は幾分………不幸にならずに済むのに……」
眉を寄せ、苦渋に満ちた表情で。
その人の双眸は虚ろだった。
どこか遠くを見つめる、何も映すことのない漆黒の闇。
気がつけば、身体が動いていた。
「…ッ!」
頬に触れようとした恋次の手から、反射的に逃れようと後ろの柱に背を押し付けた白哉。
それでも、その涙に濡れた頬に手を伸ばした。
「………」
触れそうで、決して触れない掌。それでも、その人の冷たい体温を感じた。
かざしているだけなのに、まるで、触れているかのような感覚。
恋次の方に自然と、白哉の瞳が向けられた。
涙に濡れ、戸惑いに揺れる双眸が恋次を捉えると。
恋次はふっと微笑んだ。苦虫を噛み潰したかのように、口元を歪める。
「……拭かないと……目、腫れちまいます」
驚いたように開かれる黒曜の瞳。
数秒後、それは静かに瞼に覆われて。
「………」
そっと溜息を吐いた後、伏せた目を、雨が降り続く窓の外へと滑らせた。
一瞬、その人が
微笑んだような…そんな気がした。