花ざかりの君たちへ

□本当は分かってる
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「今の俺の願いは、お前が俺の視界から消えることだ。」

一瞬、俺は自分の口から出たセリフに耳を疑った。
その言葉の意味が分かるまでに少し時間がかかった。

俺は今、人間として最低な言葉を芦屋に投げつけた―

転校してくるなり、俺にハイジャンをもう一度跳んでほしいと言うし、確かに俺にとっては疎ましい存在だった。

でも、芦屋の言葉は真っ直ぐで、俺の心の奥深くに眠っていた何かを目覚めさせた。
だが俺はそれを無理やり押し込んで、ハイジャンをやっていたあの時の気持ちを忘れようとしていた。

そんな荒んだ心が、あんな冷たい言葉を生み出したのかもしれない。
あんなに傷付けてから気づいても遅いけど・・・。

俺は、芦屋が出て行った後を追った。
ふと窓の外を見ると、芦屋が飛び出していくのが見えた。
あいつは―

泣いていた。

どうして俺は、あいつを傷つけることしか出来ないんだろう。
あいつの言葉は間違ってなんか無い。むしろ俺の心に紛れも無い「真実」として刺さってくる。

・・・だからか?
俺はその「真実」から逃げているだけなんじゃないか?

本当は、本当はもう一度ハイジャンがやりたい。
もう一度、ただ跳ぶことが楽しかったあの頃を甦らせたい。

それでも、その一歩を踏み出せない。
芦屋が背中を押してくれているのを分かってても―

END
 

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