雑歌
□白の世界
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政宗の声音が明るくなったのを感じ取って、小十郎が政宗の顔を覗き込んできた。小十郎も笑顔で、それがまた政宗を安心させる。
「相手が何であろうが、関係ありません。小十郎は、あなたの傍にありたいのですから」
穏やかな口調で、強く言い切ったその言葉。
この強い言葉が、政宗は好きだった。
それは必ず政宗に安心と信頼と、喜びを与える。そこには建前もおべっかもない。心からの、政宗に対する気持ちだけだ。
いつだって自分に向けてくれる彼の言葉が、政宗を支えてくれていた。
「……お前には、かなわねえな」
彼の強い言葉を貰うだけで、胸が安らぐ。
それを改めて認識して、政宗は照れ隠しに悪戯っぽく微笑み小十郎に口付けた。
「っ!」
触れるだけで離れれば、小十郎は困ったような顔をして口元に手を当てる。
「……どっちが……」
「? 何か言ったか?」
「いいえ、何も」
小十郎は深いため息を吐くと政宗から離れた。怪訝な顔をする政宗をよそに、背を押して先に行くよう促す。
「さ、参りましょうか。今日はこの吹雪ですから、絶好の政務日和ですね」
「政務日和、って……」
あからさまな皮肉に、政宗は反論も出来なかった。促されるまま歩きながら、山積みの仕事を思ってため息を吐く。
「分かったよ、今日は大人しく仕事すりゃいいんだろ」
「やる気を出していただけて何よりです」
わざとらしい小十郎の応えに苦笑しながら、政宗は再び外の景色を見た。
吹雪は相変わらず激しい。世界はますます白く変わってゆく。
けれどもう、この吹雪に恐怖は感じなかった。
「……雪が止んだら、出掛けようぜ」
白く塗り潰された世界を、お前と共に歩きたい。
きっとその時、世界は色を変えるから。
俺とお前の色に、変わるから。
それを思えば……白も、悪くはない。
《end。》