雑歌
□君を想いて空を見る
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「……夜に生きてるから」
そしてぽそりと小さく呟く。
「あんたを想う時間が、長かったから……だから、今日は特別」
「佐助……」
表情は見えないけれど、優しげな声音で何となく分かる。
逢いたかった。
言外にそう言われてる気がして、それが佐助の想いの深さを表わしているようで嬉しくて、元親は堪え切れずクスクスと笑い声をあげた。
「ちょっと、笑うなって」
「悪ぃ、お前ホントに可愛すぎて」
「バカ、もー離してよっ。お風呂行ってくるから」
ぺし、と元親の頭を軽く叩き、するりと腕から抜け出し、佐助はそのまま部屋を出ていった。
笑いながらそれを見送った元親は、ふと昨夜が満月だったことを思い出す。
『ああ、本当に……あんたは、満月だ……』
満月を、自分と重ねてくれたのだろう。それを思うと、愛しさで胸が一杯になる。その感覚さえ、幸せで。
「ああ、もうホントに可愛いな……」
笑った理由は、本当はそれだけではない。
同じことを考えていた。それが何より嬉しいから。
佐助は気付いているだろうか?何故夕日を好きだと、綺麗だと言ったのか、その理由を。
夕日は、同じ色だから。
愛しい佐助の、その柔らかな髪の毛と同じ色だから。
夕日を見るたびに、佐助のことを思い出すから。
だから、大好きだと。
そう言ったら、どんな顔をするだろう?
君を想いて空を見る。
逢えない時間さえ、愛しく思えるように。
《end。》