雑歌

□酒と月の光と
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 黙った小十郎に満足そうな笑みを向け、政宗は小十郎の腰に手を回す。小十郎をしっかり捉えるその左目は、冷えきった身体とは対照的に、どこか熱を帯びていた。
「俺だって、月よりお前が愛しいんだ……分かるだろ?」
 魅惑的な微笑みを浮かべ、吐息混じりに言うそれが、暗に床に誘っているのを意味するということが分からない程、小十郎は鈍感ではない。理性を吹き飛ばしそうな眩暈を懸命に振り払って、小十郎は大袈裟に肩を竦めてみせた。
「酔っておいでですか?」
 今度は雰囲気を壊すように、わざと茶化すように言ってみせたが、政宗は少しも逸らさなかった。
「そうだな……」
 ゆっくり瞬きを1つすると、政宗の顔から笑みが消える。代わりに真剣な眼差しで小十郎を真っすぐに見据え、静かに囁いた。
「酒と月の光に、酔わされたのかもしれねぇな……」
 政宗の言葉は、月の光に溶けていった。


《end。》
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