NOVEL

□逢縁奇縁〜第二章〜
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side   原田壱


「元気ないね。」

土曜日の夕方からはバンドの練習と決まっている。しかしライブの予定がないとあまりやる気が無くダラダラモード。
隣に座っていた綾太が、俺の顔をのぞき込み問いかけてきた。油断していたこともあり少し焦ったが、なんとか笑みを作り首を振った。

「んな事ねぇよ。ちょっとねみぃだけ。」

「…そう。」

深く聞いてこないのが綾太の良いところ。綾太は俺から顔を背け、ちょっと離れたところで携帯をいじっている誠明に視線を向けた。
その横顔があまりに綺麗で、思わず息を呑む。恋をしてる顔って、こういうことを言うのだろうか。

「前のライブが終わった後、飲んだだろ、ここで。」

「ああ、神さんと修が来たときだろ?」

「うん。あの時、ごめん。俺知らない人が居るの苦手で…」

そんな事知ってる。
でもあの時綾太が席を外したのは別の理由だと俺は思う。誠明が綾太のそばで、綾太の顔をのぞき込んだ。あの近さはヤバかった。好きだとわかった瞬間からろくに会話も出来なくなってしまうくらいシャイな綾太が、あれに耐えられる訳がない。

「あの後誠明追いかけたろ?どうなったんだよ。」

行くように差し向けたのは俺だけど。
綾太は俺の問いかけに少し眉を寄せた。それはおそらく、今の質問が嫌だったわけではない。ただどう言おうかと悩んでいるだけだ。
最近少し、綾太の表情が読めるようになってきた。

「追いかけられたから、逃げた。」

「は?」

「だって誠明、なんだか怖い顔してたんだ。俺を呼ぶ声もいつもと違って、怒気が混ざってるっていうか…兎に角、逃げた。」

「……で?」

おバカ。誠明は焦ってただけだって。

「俺足遅いのかな。すぐ追いつかれた。息切らした誠明が俺の腕掴んで、凄い力で引っ張られてさ。」

綾太が遅いんじゃない。誠明が速いだ。噂では100メートル10秒切るとか聞いたことがある。ま、本当かどうかは知らないが。

「兎に角座りなさいって言われて、言われるまでもなく腰抜けてその場にしゃがみ込んだんだ俺。だって誠明の息がかかりそうなくらいの距離だったから緊張して…」

「うんうん」

「…バカにしてる?」

「全然。で?」

可愛いと思っただけ。あと誠明がそんなに焦ってるところ、ちょっと見てみたいなぁって。

「…最初は誠明、黙って俺の横に座ってたんだ。俺も頭真っ白で、会話が浮かばなくて黙ってたんだけど、誠明がいきなり立ち上がってさ。」

その時の綾太を想像すると笑える。びっくりしただろうな。肩とか揺らして。

「“そんなに俺が嫌いなのか”って聞くんだ。」

「へ?何ソレ。」

「だろ?なんでって感じだろ?だから俺もよくわかんなくて、取り敢えず黙ってたんだ。そしたら、凄く悲しそうな顔になって、そっか、って。」

「誠明が?」

「うん。」

「それ、誤解されてね?」

「お、俺もやっとその時気付いて、慌てて…」

「うん。」

「好きだよって言っちゃった…!」

わお。

綾太の顔がみるみる内に赤くなっていく。それを隠すように両手を頬に当て、俯いてしまった。その時の光景や、誠明の顔を思い出しているんだろう。なんだか俺も恥ずかしくなってきてしまい、視線を泳がした。


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