星矢book

□軌跡
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2345hitヒノ様リクエスト「ペルセフォネが天馬座の聖闘士になるまで」

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ごめんね、ごめんね
本当は離れたくない
ずっと傍にいたかった
貴方の隣で生きていきたかった
でも……私の砂時計の砂は落ちきってしまった
最期に貴方にあえて幸せだったよ
貴方の腕に抱かれて逝けて嬉しかったよ
貴方には辛い思いをさせてしまったけど
涙を止めてあげることはできなかったけど
ごめんなさい
ありがとう
さようなら
愛してました
私が唯一……


・・・


「ルネ、久しぶり〜」

第一獄・裁きの館
そこに入ってきたのはごく普通の少年だった
おかしい、彼は女神の聖闘士だったはずだ
何故聖衣を着ていない

「ペガサス……ついに死んだか」

ルネが半眼で少年―――星矢を見つめる
聖衣を着ていないということは、聖域からの使者ではない
それ以外でこの冥界を訪れるのは、死者か上司の同僚の恋人位だ

「残念だけど、俺は生きてるぜ。今日は……会いたいやつがいるんだ。通してもらっていいか?」

使者でもない聖闘士を通すわけには行かない
だがそういっても星矢は引かなかった
どうしたものかと考えあぐねていると

「どうしたんですか?」

仕事をサボりに来たミーノスが現れた
これ幸いにと、己の上司にかいつまんで説明をする

「ふむ……ペガサス、貴方は誰に合いに来たんですか?」

「それは……」

「教えていただけないと、取次ぎも出来ないのですが」


金の瞳が光る
それに負けじと、星矢は見つめ返しながら答えた

「……我が夫、ハーデスに」

「「!!」」

その言葉に冥闘士二人は目を見開く
自分達の仕える神を夫と呼ぶのは一人しかいない

「貴方があのペルセフォネ妃だと?」

「覚醒したのは聖戦後だけどな」

「……証明できますか」

「証明って言われても……。あ、あれは?ハーデスにプレゼントしたくまのぬいぐるみ、縫うのミーノスが手伝ってくれたんだよな。んでハーデスもなんだかんだ言いながら棚に飾ってくれたのな。後、俺を無理やり冥界に連れて生きたくせに1年以上たっても手も握ってこれなかったこと、手を出してくるにいたっては40年かかったこと、寝癖がひどいって理由で髪を切ろうとしたこと、柘榴は俺から進んで食べたのに自分の所為にしたこと……」

「もう良いです、分かりました、貴方は間違いなくペルセフォネ妃ですよ」

どこかあきれたような顔で認めるミーノスに星矢はしてやったりといった笑顔を向けた


・・・



ふわり、と受けとめられる
魂だけになり、その魂すら滅びるにまかせるしかない私を
知ってる
優しく、暖かく、大地の匂いのするこの腕

「ペルセフォネ……」

はらはらと涙を流すのは――母様

「なんでお前が……。これも冥界に束縛されたせい?あの時ちゃんと愚弟どもをとめていればこんな事は起きなかったのかしら」

ぱたり、と流れた涙が私に当たった
違うよ母様
私がいけなかったの
私の不注意がまねいた結果
ハーデスは何も悪くなんかないよ

「お前を失いたくない」

・・・



「と言うわけでなんとかしなさい、愚弟その3」

「そうは言うがなデメテル……」

「私はまたボイコットしてもいいんですよ?」

「すみませんでした」

母様によって魂を修復された私は天界に来ていた
ちなみに、目の前で頭を下げているのは主神でもある父
相変わらず母様に尻にしかれているようだ

「魂を、人間の輪に。二度と愚弟その1に連れ拐われないようにしてください」

「人間と言っても……あぁ、アテナの聖闘士であきがあ」

不自然にもそこで言葉が途切れる
母様が見事にアイアンクローをきめていた
ギリギリと指先に徐々に力が篭っていく


「それでは、見付かる、確率が、高い、でしょう?」

言葉を区切りながら喋るのは怒りが頂点に達しかけてる証拠
このままだと父様は頭をトマトのように握り潰されかねない

「だだだだ大丈夫だろ!!記憶も力も小宇宙も魂の奥に隠す。そうすればただの人間だ!!」

必死に弁明する父様……って何て言った?
小宇宙も?
溜め息をついた母様が父様をはなすけど、気にしてなんていられない
消えるはずだった私は人間の輪廻転生の輪に加わり、異母姉妹・アテナの聖闘士になる
ハーデスに再び出会えるならそれもいいと思った
きっと記憶がなくても私はハーデスを探すだろうし、ハーデスだって私を探してくれる

「愚かな母の最後の願いです。ペルセフォネ、お前は光の当たる場所で幸せに……」

でも『私の小宇宙』がなかったら気付いてもらえない
それじゃ意味がない
嫌だよ
そんなの、嫌だ
だって私は―――


・・・


「……俺は、たとえ光が当たらなくてもハーデスが傍に居てくれさえすれば幸せだったんだ」

「何か言ったか、星矢?」

「うん。紅茶おかわり」

「……まったく」

うまくごまかされたと感じつつも、笑顔で差し出されたティーカップにラダマンティスは苦笑しながら丁寧に紅茶を注ぐ
渡された星矢はそこに砂糖を一つ落とした
それに首を傾げる

「それだけでいいのか?」

「今の『俺』は、ね」

何度も転生し、何度も違う体を使ってきた
様々な土地に生まれ、様々な環境で生きた
変わるものも多くある
その中で、変わらないものがひとつだけ
近付いてくる愛しい小宇宙に星矢は唇の端を持ち上げた




この気持は表に出てくることができなかった


……否、過去に一度だけ記憶を持ったまま対峙したことがあった


その時は間違ってしまったけど


もう、繰り返さない


だから


許されるならまたあなたの手を握りたい


俺が唯一、笑顔でいてほしいと願った人



fin.

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