星矢book

□恋すてふ
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恋すてふ 今は枯木の 花のした 再びまみえる 輪廻の先にて



郊外にある西洋風の屋敷
そこは所謂『なんでも屋』の事務所であり、従業員の家でもある
血の繋がりはなかった
最初は一人だった所にぽつり、ぽつり、と集まりだして、この形になったのだ
それでも彼等は自分達のことを『家族』とよんでいる

さて、そんな『なんでも屋』にある仕事が舞い降りた

「妖怪ぃ?そんなの迷信だろ」

鼻で笑うように返したのは最年少――と言っても立派な成人だ――のミロだった

「わからないぞ。実際、被害は出ている」

ほら、と所長のアイオロスから一枚の用紙を渡される
書かれている内容は……

「…………これ、本当に妖怪の仕業なのか?」

「それを調べるのがおまえの仕事だ」


―――


丸い月が青白く光り、闇を照らす
しかし枝葉の天蓋を広げる森の中はその恩恵にあずかることはできず、ミロは薄暗いそこを己の眼だけを頼りに歩いていた
本来なら当の昔に屋敷に帰っているはずだったのだが

「っくしょ……。どこだよ、ここ。泉どころか川すらねぇじゃんか」

依頼にあった『妖怪』の現れるという泉を探し回っているうちに方向感覚を失い、今に至っていた
ざわざわと風に揺れる枝葉の音が不安を煽る
早く帰りたい
もはやミロは半泣きである



それからどれほど歩いたか
ミロの鼻が水の匂いを掴んだ
自然、歩みも速くなる
未踏の地故、伸び放題の草を掻き分けて
先にはここより僅かに明るい空間
服を小枝に引っ掛けながらもそこへ手を伸ばす
湿った土から渇いた土へ足を踏み入れた途端

「っ!?」

ごう
と目も開けていられないほど強い風が巻き上がる
ミロは思わず両腕を顔の前でクロスさせ、目を庇った



「う……わぁ」

風がやみ、ゆっくりと瞼を持ち上げたミロはその景色に感嘆の声をもらした
目の前にあるのは大きな泉
その水面はあれほどの風が吹いたというのに揺らぎもせず、天上に昇る満月を映し出している
そしてその傍らにあるのは年月を感じさせる巨大な枝垂れ桜
幹は大人が3人で腕をまわさなければならないほど太く、その垂れた枝先は水面に着くかどうかと言ったところだ
その枝は今、薄紅色をした満開の花を咲かせている
はらり、と時折舞い落ちる花びらまで妖しいほどに美しかった

もっと近くで見てみたい

不思議な欲求にかられたミロはふらりと歩を進め、桜へと近づく
伸ばされた腕
あと数cmで指先が触れる、と言ったところで

「ぎゃ!!?」

ばしゃん、と頭上から水が降りかかった
調度、バケツ一杯の水をひっくり返したような量だった

「それは妖樹だ。迂闊に近づくと生気を搾り取られるぞ」

何が起こったかわからず目を白黒させていたところに声がかかる
声の主は……なんと水の上に立っているではないか
白い肌に真っ赤な髪
その赤が纏っている黒の着物に恐ろしいほど栄えていた

「……あんたがこの泉に住む妖怪?」

「妖怪では……否、人間にしてみれば同じようなものか」

人間ではないと悟ったミロが尋ねれば、彼は表情を変えずに答えた
その曖昧な答えにもう一度問い掛けようとした時、彼が動く
音を立てず、まるで水面を滑るようにミロへと近づく
するとズキン、とミロは頭の奥が痛むのを感じた
それは彼が近づくに連れ酷くなり、思わず一歩後退した
それに気づいた彼はそこで歩を止める

「……………か」

「は?」

「独り言だ。それで……お前は何しにここへ来た?」

「……ああ!!」

ミロは忘れてたと言わんばかりに手を叩いた

「怪奇現象の真実を確かめに来たんだった。それで……」



―――


「あれ?ミロ、今日も出かけるのか」

窓の外を眺めていた星矢は屋敷の門を出ていく癖のある金髪を見つけ、そう言った

「ああ、きっと森に住んでる水神の元に行くんですよ」

「まったく、すっかりカミュの策にはまって……」

「ムウとシャカはその水神を知ってるのか?」

「ええ。何年生きてると思ってるんですか」

「ん……俺の12倍くらい?」

「……君は簡単な計算も出来ないのかね。18倍だ」

痛恨の一撃
正に星矢がorzとなっているところに、コーヒーを入れにいっていたアイオリアが帰ってきた

「ほら、出来たぞ。……って星矢はどうしたんだ」

「シャカにいじめられて凹んでるんですよ」

「いじめてなどいない。正論を言っただけだ」




「で、結局なんでミロは毎日水神の所に行ってるんだ?」

「それが……前の仕事でもう人間に手出ししないと約束する代わりに人を探してくれと言われたらしい」

「カミュはずっと待っている人がいるんですよ」

自分専用のマグカップを傾けながらムウが会話に入ってきた
この屋敷ではシャカと並んでかなりの年月を生きてきている
この都市周辺の事情もよく知っていた

「もう……何年前になりますかね。カミュは自分の住家であるあの泉である人物と約束したんです。その人物が兵として戦地に赴く前日――桜が満開の季節だったと言ってましたね――この桜が再び咲く頃必ず帰ってくるから待っててくれ、と」

「結局、帰ってくる事はなかった。それでも……カミュは待っているのだよ。もう枯れた桜に自分の力を注ぎ、約束した花が絶えぬようにして。もっとも、今ではカミュの力の影響を受けて妖樹になってしまったがね」

ムウとシャカが同時にコーヒーを口に含む
その話を一度頭の中で整理した星矢はふと気づいた

「それじゃぁ……ミロは居もしない奴を探してるってのか!?」

「居ない、わけじゃないんですよ」

「同じ魂の持ち主。それを探してるって事さ」

「へぇ……途方もない話だな。……ん?でも毎日水神の所に行く理由って」

「探し人のヒントをもらいに行ってるんだと。しかし約束により一日1つの質問しか出来ないらしい」

「……それが策にはまってると言うのだ」

「へ?」

「カミュはもう探し人を見つけた、という事ですよ」





(なぁカミュ、今日の質問はな……)

(少し落ち着け。髪に葉がついてるぞ)

(えっ!?どこ!!?)

(そっちじゃない。右だ……)

(あ、笑った!!カミュ、絶対笑った方が可愛いって!!)




End


歌解説
恋すてふ 今は枯木の 花のした 再びまみえる 輪廻の先にて
→枯れてしまった桜の花が咲く下で輪廻転生した貴方に出会えたら、再び恋に落ちてしまうのでしょうね


短歌や俳句で花と言ったら桜しかないらしいです
歌=美しいものを詠む
美しい花=桜
みたいな方程式が昔の人にはあったのでしょうねぇ……

ちなみに
雷神の系譜→ロス、リア
龍神→紫龍
鬼神の末裔→デス、シュラ、ディテ
天狗→星矢
仙孤→ムウ、シャカ
吸血鬼→サガ、カノン
水神→カミュ
一般人→ミロ

紫龍は卵の時に拾われてきて、孵化した時のすりこみ効果でシュラになついてるとか
サガとカノンは棺桶で寝てたらいつの間にか美術館の展示品として飾られてたとか
無駄に背景設定があった(笑



お題配布元
確かに恋だった

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