星矢book

□聖戦と死神2
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帝国暦元年〜グラスミアの戦い〜


ブリタニア侵略のために送った帝国軍第一陣と第二陣
十分に思われた進軍だったが、予想に反し時間がかかりすぎていた
そして皇帝はある決断を下す
多くの国を侵略する際に活躍した英雄・シュラの投入だった


―――

将軍・シュラ率いる帝国軍第三陣は、ブリタニア国辺境の地ホワイトヘブンに上陸した
敵陣の背後を突く形になる
これでフランドル帝国はかなりの優位に立てるだろう
しかし白銀の甲冑を纏い、白馬に乗るシュラの足取りは重かった
原因は帝国を出る際にかけられた皇帝陛下の激励の言葉

『いいか。これは<聖戦>だ。殺す相手に愛する者や祈る者がいる事は忘れろ。邪教の使徒は根絶やしにするんだ』

敬礼して応えはしたものの、頭の中は疑問でいっぱいだった

聖戦?
本当にそうなのか?
最近の皇帝陛下はおかしい
兵でない者も殺して構わないと笑顔で言うような人ではなかったのに
何が彼を変えてしまった?
何処で歯車が狂った?

そこでシュラの思考は途切れる
前方から悲鳴が聞こえてきたのだ
馬の腹を蹴り、進んだ先は正に地獄絵図
以前は長閑だったろう山村は燃え上がり、村人は逃げ回る
しかし馬上から容赦なく振るわれる剣に、人々は次々と倒れていった

これを自分の軍がやっているのか

到底信じたくない光景に、シュラは目を伏せようとした
しきれなかったのは視界に飛び込んできたものがあったからだ

漆黒

と言っても過言ではない黒い髪
逃げ遅れた村人だ


助けなければ


瞬時に思ったシュラが目にしたのは村人に向かって矢を放とうとする部下の姿

「やめろ!!」

叫ぶが、一瞬遅かった
村人は放たれた矢に足を貫かれ、その衝撃で転倒してしまう
そこを狙って、留めを刺そうと男が飛び出す

「サガ!!」

思わず今は亡き恋人の名を叫んだ
あの人も、こうやって殺されたのだろうか

カキンッ
と音を立てて村人に振り下ろされた白刃を弾き返す
互いにその反動でよろけたが、すぐに体制を立て直した
村人と相手の間に馬をすべり込ませる
彼はたしか、プロイツェン領で捕虜にした……

「アイオリア、武器を持たぬ者に何をする!!」

「一般人といえど邪教の使徒。情けを掛けてやる必要など、ありはせん」

黒馬に乗るアイオリアから返ってきたのは冷たい言葉
そしてギラギラ光る、世界を憎み呪うかのような瞳
それはまるで……そう、まるで

「っ……道を踏み外すな!目を醒ませ!」

「シュラ、おまえにだけは言われたくない。偽善者……英雄狂……人殺しの<ベルガの死神>め」

まるで自分のようだ
過去の、自分

チラリ、と倒れた村人に視線をやる
意識はあったようで、上体を起こしていた
それをアイオリアから見えないように体の影に隠す

「陛下は変わってしまった。他国を侵略し、逆らうものは全て排除。幼い命さえ刈り取れと命じる。これが本当に聖戦なのか?俺にはただの……虐殺にしかみえない」

「……貴様、裏切る気か」

再び村人に視線をやる
射抜かれた足を庇うようにして立つ彼と目が合った
赤い瞳が警戒するように睨みつけてくる

「さあ……どうだろう、なっ!!」

「!!!?」

言葉の終わりと同時にシュラは素早くナイフを数本腰のベルトから引き抜き、アイオリアの乗る黒馬の足元に投げ付けた
驚いた馬はいななき竿立ちになる
突然の出来事にアイオリアはひるんだ
その隙にシュラは馬頭を翻させ、駆け出した馬の上から呆然としている村人を掬い上げた
そのまま自分の前に座らせると、勢いを殺さずにアイオリアとは反対方向へ走る

「なっ……何をする!?」

「死にたくなかったら黙っていろ!!」

追い掛けてきたのであろう、複数の蹄の音に眉根を寄せた
こちらの馬には向こうの倍、負荷かかっている
シュラはとにかく手綱を握ることに集中した




狭い山道を白馬は風のように駈け抜けていく





...続く?

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