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□最終宣告
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無数の矢が蛍の光目指し放たれる
それをまともに浴びたルカは呻きながらふらついた
しかし倒れることはない
そして、瞳の強い光が消えることも
その眼差しを真っ正面から受け止めたリオウは爪が食い込むほどに手を握りしめた

「…決着はつきました。降伏してください。僕は……貴方を殺したくない」

ざわり、と同盟軍から動揺の声が上がる
同時に、疑念の声も
この狂皇子――今は皇王か――は村を焼き、罪なき人々を虐殺した憎むべき相手であり、彼を倒すことは同盟軍の最大目標であった
それを覆すような軍主の発言に、誰もが驚きを隠せない

「ふん……とんだあまちゃんだな。そんな奴に負けたとはな……情けない!!」

ぐっ、と剣を杖がわりにし、ルカが立ち上がった
リオウの眉間にシワが寄る
何かに耐えるときの彼の癖だと知るものは少ない

「これが最後です。……どうか降伏してください」

「笑止!!」

最後の力を振り絞ったのだろう
剣を片手にルカはリオウへと向かう
彼等を遠巻きに見ていた同盟軍メンバーは顔色を変えた

「弓兵隊っ!!」

「駄目です!!リオウ様が近すぎます!!」

軍師の言葉に泣きそうな声で兵が答える
一層、軍師の顔色が悪くなる
リオウの後ろに控えていたメンバーも間に合うか危うい
このままでは軍主が――リオウの命が

「…………残念です」

一瞬伏せられた瞳
次に顔をあげた時には、ルカの纏う鎧の隙間を的確に狙った一撃を放った
血を吐き、白い甲冑の音を響かせて倒れる姿からリオウは目を逸らさずに見つめる

「……リオウ殿」

「ごめん、シュウ。少し……一人にさせて」

声は震えていなかっただろうか
シュウは数秒沈黙し、了解の意を伝えた
ヒュー、ヒューと今にも止まりそうな呼吸をしている彼に戦う力が残っていないのは明白だ
兵達に城へ戻るよう言い、自分もその場から去る
その間際に傍にいたルックへ2、3言い付けた
嫌そうな顔はしたものの、テレポートで消えた所を見ると引き受けてくれたのだろう
一度り返り、今にも崩れ落ちそうな背中を視界におさめてから、自らも城を目指した










足音が聞こえなくなった頃、リオウは膝をつき、目に涙を湛えながらかろうじて生きている状態のルカの手を握りしめた

「兄様っ……!!」

物心がつくかつかないかという頃、霞の向こうの記憶
母は亡く、多忙な父は妾腹の自分など見向きもしなかった中、唯一愛情を注いでくれた肉親
血の繋がりは半分――しかも憎い父の物だ――しかなかったが、それでも不器用に頭を撫でてくれる大きな手が好きだった
ぽたり、と耐えきれなかった涙がこぼれ落ちる

「……この紋章の力なら」

ふと過ぎった考え
真の紋章の片割れ、回復を主体とするこの輝く盾の紋章の力ならルカを救えるのではないだろうか
それが――同盟軍を裏切る行為だとしても、抗いがたい誘惑だった

「お願い…輝ける盾の紋章………僕の命をいくら削っても良い。だから兄様を……!!」

「何バカなことしてんの?」

紋章がわずかに輝いたまさにその時にかけられた聞き慣れた声にリオウは振り返る
不機嫌な顔を隠しもしない彼の名前を呼んだ

「ルック……」

サッ、とリオウの顔が青ざめた

「安心しなよ。君の血筋のことなんて報告する義務、僕にはないからね。それより……その死に損ない、渡してくれる?」



続く...?

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