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□第十夜
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ドドドドドドドドッ
バンッ
「大変なんだ!
今夜うちのお祖父様がここに来る!!」
安らかな朝を奪ったのは、副寮長である“一条拓麻”の声だった。
拓麻の“お祖父様”
つまりは、
“一条麻遠”
吸血鬼の貴族の中でも筆頭の一族の長であり、
『元老院』に名を連ねる最古参の吸血鬼の一人。
別名…“一翁”
その名を聞いただけで、枢は煩わしいといった表情になった。
“一翁”
どこかで聞き覚えのある名のような気がする。
無意識の中に恐怖を感じて枢を見上げると、彼も難しそうな顔をしている。
私と目が合うとすかさず笑みにはなるが、そんなものは偽りでしかない。
「“一翁”ってどんな方?」
私の何気ない質問さえも、あからさまにはぐらかされる。
「真優…僕が帰ってくるまで、絶対に部屋を出てはいけないよ?」
一方的にそれだけ言うと、枢は部屋を出て行った。
見くびられたものね…
私が、そんな簡単におとなしくしているとでも思って?
部屋を抜け出し、柱に隠れて見たロビーの風景は予想を遙かに超えていた。
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