Long

□第六夜
1ページ/4ページ


太陽が降り注ぐ昼間――
黒主学園の校庭では、
普通科の生徒達が乗馬の授業中である。

普通なら吸血鬼は睡眠中の時間帯
にもかかわらず、月の寮の寮長室には吸血鬼の気配が二つあった。


「やれやれ…びっくりした
あの馬、敏感すぎるよ…」


窓を開け放って外を見つめながら、
一条拓真は枢に話しかける。


「僕が窓を開けたとたん、優姫ちゃんを蹴りとばして暴走…
僕たちってそんなに草食動物に嫌われる臭いがするんだろうか…
ねえ?枢」


自分の腕の臭いを確かめるような仕草をする一条は、周囲の吸血鬼達から称されるように
まさしく吸血鬼らしくない。
窓を閉め、書類から顔を上げない枢に話し続ける。


「今日は休日だというのにさ…たいへんだね…
いつも君はゆっくりする事ができない。」


そこで枢はようやく口を開いた。


「『元老院』がいちいち報告書をよこせとうるさいんだ…」

「…で、じい様方のためにイヤイヤ文章書きね…
漫画を読みふけって昼夜逆転ぎみな僕とはワケが違うか、
やっぱり。」


枢の素っ気無い態度を試すかのように、
一条はさりげなく呟く。


「……優姫ちゃん、馬に蹴られたのはお尻だったから平気みたいだよ。」

「そうか…」

「それに、真優ちゃんはどうしているんだろうね。
随分長い間、会っていないんだけど…」


今度こそ、枢は一条を睨み付けた。
機嫌の悪い枢に真優の話題は禁物であったことを、思い出したらしい。
思わず笑みも引きつってしまう。


「さーてっと…漫画の続き読もーっと…」


面倒なことにならないうちに逃げ出そうとしたらしいが、
そんな目論見も枢によって
砕かれる。


「一条」


呼ばれた自分の名前に、諦めを感じたようだ。


「……何だい?枢」


枢の機嫌を損ねてしまった自分を呪いつつ、
代償を甘んじて受ける覚悟を決めるのであった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ