SHORT
□過去拍手
2ページ/24ページ
〇 HAPPY Halloween! 〇
『ハロウィン?』
「もうじきあるらしいな」
『……ハロウィンねぇ…』
もう直ぐ10月の終わりを迎える中、町中はハロウィンで持ちきりだった。
子供が仮装して、大人にお菓子を貰うという…若干訳が分からんイベントだ。
『お前そんなのに興味あるんだ…』
「興味があるわけではない」
ただ、と歩いていた足を止めると。
「ショア少佐の仮装した姿がみたいと思ってな」
マスタングは相変わらずの微笑を浮かべてそう言った。
『……』
若干引き気味になっていると――
「少佐なら猫とか似合うんじゃないか?」
……有り得ない発言。
『阿呆か!! 誰が猫んなるか!』
「それは残念」
『……、』
いつもの如く、この上司はよく分からない。
―――
「少佐ってやっぱ菓子もらうんスか?」
喫煙所でのハボックからの問い。
もちろん俺は面白くない。
『何でそうなる』
「え、だって子ど……」
『誰がおしゃぶり大好きなクソガキだって?』
「いや、そこまで言ってないッス」
胸ぐらを掴んでいた手を離し、溜め息と共に煙を吐く。
『俺は菓子なんかいらん』
「あ、もしかして甘いもん嫌いッスか?」
『別に嫌いじゃねーけど、何で“トリック オア トリート?”なんて言って菓子貰わにゃいけねーんだよ』
「あははっ…少佐らしいっすね」
軽く返した俺を見て、ハボックは火を消すと白い歯を見せた。
「大佐の事だから仮装しろなんて言って来たんでしょ?」
『…ああ。なんか猫なら似合うんじゃないか? とかなんとか…』
「あ、確かに似合いそうですね」
いや何故だ、おい。
『何が嬉しゅーて猫の姿しなきゃいけねーんだよ。犬ならまだしも猫だぞ猫』
「猫の何がイヤなんすか? 可愛いじゃないですか」
『全っ然可愛くねー。ゴッキーのがまだマシだ』
「そこまで?」
当たり前だ。あんなの地球にいらん。
「でも、大佐ちゃんと仕事してるじゃないすか。最近は」
『……』
「お疲れな訳だし、褒美としてちょこっとっていうのは……」
『やだ』
拳骨を一発食らわせ、俺は喫煙所を後にした。
ハボックは頭をさすりながら「もうちょい素直になったらどうスかー?」なんて言いやがるから、一睨みしてやった。
蛇に睨まれた蛙だな。
―――
"大佐ちゃんと仕事してるじゃないすか"
――確かにそうだ。今もマスタングは書類にペンを走らせている。
…マジで槍が降るんじゃないか?
─カリカリカリッ…
無造作に響くペンの滑る音。
妙に部屋が静寂に溢れている気がする。
『……』
"お疲れな訳だし、褒美として…"
どうやら明日は人生で、一番最悪な日になりそうだ。
―――
「ハワードとハボックはまだか?」
「まだ来てないみたいですね」
「ハワードが寝坊? 珍しいな」
「大佐が仕事しているのも充分珍しいですよ」
ロイとリザが話している最中――
「……か…」
『……い…っ…!』
外が何やら騒がしい。声からしてハワードとハボックだ。ロイが不思議に思っていると、突然扉が開いた。
──バタンッ
『うわっ!!』
「!」
おそらくハボックが背中を押したのだろう、ハワードは少々よろけながら部屋に入ってきた。
それは良いのだが、ロイが驚いた理由はこれではなく他の事。
「大佐ー、どうっすか? 少佐お似合いでしょ?」
ハボックは笑みを浮かべて言い、ロイは視界にハワードを捉える。
『にっ、に……にゃーん、』
若干頬を染めながら呟いたハワードには御丁寧に猫耳と足尾がついており、いつものポニーテールとは違い、ツインテール。
おまけに服装がメイド服に似ている。コーディネートはハボックがしたのだろうが、どこからこんな物を仕入れたのか謎だ。
『っ菓子くれねーと…いっ、悪戯する、にゃんっ、』
「……」
硬直して黙り込むロイ。
さすがにハワードは戸惑いを覚える。
『マ、マスタング…? 大丈…』
呼び掛けた突如。
──バタンッ
ロイは椅子ごと後ろに倒れ、部屋にいたハワードとハボック以外の皆は慌てて駆け寄った。
「大佐!?」
「しっかりして下さい!」
『???』
皆が焦りを隠せない中、ハボックはただ1人――
「ちょっと刺激が強すぎたか?」
そう、苦笑いしていたのだった。
(俺なんかしたか!?)
(…ある意味したかもしんないです)
‐END‐