『俺は女好きだから』

「知ってるよ!!」

『……男に欲情とかしねぇから。例え世界で二人っきりになったとしても、それはないから』

「分かってるってのッ……」

『大体近いんだよこのチビ』

「誰が目に入らないほどのミニマム微生物だああああああああッッッ!!!!!」

『うるっせぇよ!!!!』



 ──時刻、おそらく夜。場所、不明。

 現在、ハワード・ショア。金髪金目が特徴の小さな男と共に、薄暗い部屋にいる。


『ていうか、部屋じゃねえだろコレ。何だよ箱か?』

「とにかく狭い。ハワード、脚退けろよ」

『ふざけるな。俺は今必要最低限の範囲で収めているんだ。これ以上小さくなれってか。まず小さいお前が動けよ』

「小さい言うなッッッ!!!!!」


 人が2人分入って丁度いいくらいのスペースである『ここ』は、一体どこなのか。

 少しばかり光を感じ取れるが、外の様子は伺えない状況。全くもって理解不能。
 そもそも俺らがこんな『箱』に入った理由すら不明である。何故なら互いに目が覚めたら『ここ』にいたからだ。


『ちくしょーッ……一体誰だこんな所に閉じ込めやがったのは。犯人捕まえたら唐辛子とタバスコをブレンドさせて目ん玉に捩じ込ませてやる』

「ハワード大分正気失ってんだろ」

『当たり前だろうが!! かれこれ一時間以上は経ってんぞ!! 俺はもう限界なんだよ!! 大体なんで錬金術が通用しねぇんだよ、どんな成分してんだよこの箱!!!!』

「ハワード!! ちょッ、煩いって!! こんな密閉空間で叫ぶなよ」

『さっきまで叫んでたのは誰だよ!!』


 ──これは一種の精神を鍛える修行なのか。

 そろそろ限界に近いストレスだが、これ以上怒りを爆発させても何の解決にもならないと思うため、とりあえず黙る事にした。そして数分後。


「……何かさ、寒くねぇか?」

『なら火でも錬成して……』

「バカ野郎!! 自殺行為だろ、こんな狭い中で火なんか出せば二人とも丸焼けだ!!」

『……それもそうだな』


 エドの言う通り、何だか肌寒い。
 急に温度が下がったようで、コート一枚では足りない寒さだった。


『……二人して凍死になったりして』

「洒落になんねぇよ」

『ハハッ、そうだな………』

「…………」


 しかし本当に寒い。吐いた息が白い気がする。
 本気で危機的状況ではないのか。

 あまりの冷気に顔をしかめていると、寒さで震えているのか、震わせた声でエドはある事を提案する。


「ハワード、こっち来れば?」

『は?』


 唐突に何を言い出すのだろう。

 しかめた顔を更に歪ませながら睨み付けると、エドは人差し指で頬を掻きながら、言葉を続ける。


「いや、くっ付いてた方が……寒さ紛れるかなあって思ってさ……」

『お前ドサクサに紛れて俺を襲う気だろ』

「んな訳ねぇだろッ!!」

『冗談だよ』


 俺とエドは向かい合って座っている。ちなみに立ち上がることは不可能だ。強いて四つん這いくらいなら出来るだろう。

 さて、確かに肌を寄せ合う方が暖かいかもしれないが、男二人が抱き合うって非常に気色悪いことだと思わんか。


『…………』


 その為、俺は移動するのを控えた。

 寒さを必死に我慢しながら。


 すると、歯切れを切らしたのかエドは俺の腕を掴むと、そのまま自分の方へ俺を引き寄せる。


『ぅえッ……!?』


 そしてエドの脚の間に入り込むように、俺は背中を預ける体勢となった。


「ほら、少しは寒くないだろ」

『…………ッ』


 ──何だよ、急に大人みたいな対応するなっての………て、てて照れちゃうだろ。


『ってんな訳あるかああああああああああああああああああ!!!!!!!』

「!! 煩ぇハワード!!」

『…………すまん』


 いやだって何か凄くキモイ自分が降臨したような気がしたからな。

 とりあえずこの狭さでは暴れる事も不可能なので、俺は大人しくエドの腕の中に収まることにした。


『………なあ、エド』

「何だよ」

『何か、抱きしめすぎじゃね?』

「ち、違ぇよ!! ハワードが寒いと思って暖めようとしてるだけでッ……そ、そんなこと思うとか変態はハワードの方だろ!!!」

『はあ!? 俺はなあ、女好きだって言っただろうが!! 大体テメェみたいなちっぽけな少年なんざ頼りがいねぇよバカ野郎!!』

「ッ………クソ、何だよ!! 俺はただ……」


 文句を言い出すエドに言い返せば、反抗しようと試みたのか、エドは体を動かそうとした。

 しかしこの狭い空間で自由に動ける筈もなく───


「うわッ……!!」

『なッ……!? てめ、こっちに倒れんな!!』


 思う様に動けなかったエドはバランスを崩し、俺の方へ倒れ込んできやがった。


「いててッ………」

『てんめぇッ………痛ぇのはこっちだっての!! 早く退けろよこの野郎!!』


 俺の上半身にエドが跨いでいる状態で、見事エドに潰された俺は足も伸ばせないので、壁に脚を置いているという──中々キツイ体勢だった。

 しかし、怒声を上げる俺を無視してエドは退けようとしない。


『……お前なッ!!』


 流石に腹が立ったので、腹にパンチの一つを食らわそうとしたのだが、それよりも先に、エドの手が俺の両腕を掴む。


『何す………』

「ほ、本当に……」

『あ?』

「本当に、世界で二人っきりになったとしても、その二人って実らねえのか?」

『はあ? お前何言ってッ………』


 そこで俺は気付いた。

 眼前にいるコイツの目が、欲に飢えて息を荒くさせながら俺を見つめているという事に。(あくまで俺の客観ですが)


『エ、エド……?』

「もし、出られなくても……ていうか、こんなチャンス二度と無い気がする」

『お前何言ってんだよ……?』

「……………」


 危機感というのは動物の本能で案外察知できるものだ。危険だと感じれば直ぐに対応できるように出来ているのが普通なのだが。

 今回ばかりは逃げ場もなければ抵抗できるスペースもないという、地獄絵図です。さて、どうしましょう。


『エド、人は本能だけの動物とは違って意思がある。だからな、冷静になって考えろ大馬鹿野郎』

「これは俺の意思だから」

『ふざけんなッぁぁぁああああああああ!!?』


 こんな狭い中で押さえ付けられたら、そりゃ身動き取れなくなるよな。

 頭の上で両手を掴まれていた俺は、一切の抵抗すら出来ないまま、いとも簡単に上服を捲られてしまった。

 いま捲られるだけならまだ大丈夫だ。

 俺の安堵も即座に打ち消され、エドは鎖骨あたりまで服を捲ると、俺の上半身に顔を近づけた。


『なッ……や、やめろ馬鹿!! おおお前何しようとしてッ……ひぅ!』


 抵抗するには遅すぎたというより、抵抗すら出来ないこの状況。

 恐ろしいことにエドは俺の……俺の乳首に舌を滑らせ始めた。


『ひッ……ちょ、なっあ………テメェ何やってんだ馬鹿変態スケベ!! 我を失ってんじゃねえ!!』

「俺は冷静だし」

『ゃッ……そこで喋るなよ!!』

「ハワードって、意外と敏感なんだな」

『アホ!! んな訳ッ……あっやだ……ッ!! やめろって馬鹿!!』


 自由に動き回るエドの舌が、妙に熱く感じた。

 体は自由に動かないし、手は押さえ付けられたままだし、脚も動かせられない。
 こんな絶望的な状況をハッキリした意識で味わうという拷問。

 既に俺は死にたい。


『も、やめっん……そこばっかッ……!!』

「……ハワードだって感じてんじゃん」

『ちがッ……ん…あぅっ!』


 舌で弄び続けたかと思えば、今度は甘噛みしながら更に舌が動き出す。


『ゃ、あっ…んんっエド!! 馬鹿!! 正気に戻れってば!!』


 まるで別人のようだった。

 普段あんなにチビで生意気なクセに、今はまさに獲物を逃がさないとでも言うような野獣に思えた。

 ──……こ、この密閉空間だからか? 人は暗闇になると激変するだとか訳分からん事を聞いたような気がするが、まさか本当にそうだなんて思わねえよ!!


「やべーッ、ハワード……可愛すぎ」

『あ、頭おかしいんじゃねぇのか!! さっさと離れろよ!!』

「無理だよ。もう収まらねえ」

『ひッ……あああ当てるなおぞましい!! この変態スケベ!!』


 押し倒されている俺とは違い、エドは少しばかり動けるようで、わざとらしく耳元で囁きながら、奴は硬くなっているモノを俺に当ててきやがる。


「よくあるだろ、寒さを紛らわす為に人肌で暖めるっていうやつ」

『それはだな、男女だから許される事であってだな。決して男通しが行っていいキュンキュンイベントではないんだよ!!』

「俺はもう欲情しまくってるから」


 話を聞く気が全く無いんだな。よし来た、理解。

 どうにか抵抗しようにも、やはり100%奪回不可能であるのに気付くのが早い。
 既に戦意喪失だと頭を横切るが、俺は諦めんぞ。諦めてたまるか。理性がまだ勝ってるんだよ!!


『エドワード、テメェここから出たら再起不能なくらいぶっ殺すからな』

「俺は今が幸せならそれでいい」

『なッ、意味分かんねえから、いやマジで理解不能ですからエドワード君ッ……とりあえずそのズボンを掴む手を離せよコノ野郎!!!!』


 一体何をする気だ。確かにこんな空間に数時間もいれば気が変になるのは分かるがな、正気を失い過ぎだぞオイ。

 勝率ゼロですが何とか抜け出せないのか。
 ていうか何でこんな事になっているんだ俺か? 俺が悪いのか? いやいやいやいやないないないない。俺は至って正常ですから。

 目前のこのチビをどうにか出来ないのか。


「なあ、ハワード……俺ってそんなに頼りない?」

『そんな悲しそうな目で見られてもな、テメェの行動と相反してっから矛盾の塊だぜハハハハハハッ何か笑えてきたぞ』

「俺だってやるときはやるんだよ。それを証明してやるからな」

『お前絶対後悔するぞ絶対するからな!! 俺はもう知らねえぞ!! あとで泣き崩れても知らねえぞ!!』


 負けじと言葉で押そうと思ったのだが、既にエドの耳には俺の言葉は届いていない。


『バッ……!! テメェまじで止めろ!!』


 エドは俺のズボンに手を掛けると、片手で器用にベルトを外していく。


『うッ………絶対、絶対殺してやる!! テメェ絶対ぶっ殺すからなこんちくしょうッ!!!』


 半泣きなのは無視してほしい。

 ベルトを緩ませたエドの手は、そのまま流れるようにズボンの中へ入っていった。


『んっ……触るな変態!!』

「ハワード、ちょっと硬くなってね?」

『断じてない!! んのッ……やろ、触るな触るな触るなあッ!!!』

「俺が、ちゃんと良くしてやる」

『ぁッ……や、やめろって!!』


 体を自由に扱えないとはこんなにも苦しいことなのかと、初めて解った。いっそのこと感覚すらも自由に出来たらいいのに。


『ん、はっ……エド、やっあ……』


 ああ、そうだ。いっそのこと不感症だったら良かったんだ。あれ、でもそれ女の子だけか。

 意識をどうにか別方向へ持ってこようとするが、それもエドの手によって引き戻され、身体が否応なしにビクりと反応する。


『んうっ……はっあっ、も、はあっ……』

「何? イキそうなの、ハワード?」

『あぁっん、エド…あっやだっんんッもう、だめッだめだって!!』

「見せてよ、ハワードのイキ顔」


 迫る快楽から逃げたくて顔を背けると、エドはそんな俺の頬に舌を滑らせながら、囁く。

 今の俺には、エドの舌すら妙に熱く感じるような気がした。


『あっあ…やっんっ、だめッやっエド……出るっも、だめっイクっ…やだっ!!』

「ハハッ可愛い、ハワード……」

『ぁあっやあっん…えどぉッだめっもう、はっあっイっちゃうっ…んあぁあ!』


 快楽に足掻くことも出来ぬまま、俺は下着の中に欲望を放った。無論エドの手は汚れただろう。


『うっ……はあっはっん……』

「やっべーッ……ほんと可愛いハワード」

『てんめぇッ……殺してやる』


 エドは手についたモノを舐め取りながら、似合わない笑みを浮かべている。

 少しと言うより、かなりその言動に引いていると、突如妙な音が響きわたった。



 ───ピロリロリーン ……〈ミッション成功です〉


『は?』

「は?」


 意味不明なアナウンスが流れ、見事に互いの声が揃ったと同時に、二人を覆っていた箱が塵のように崩れ去って行った。

 箱から無事に解放されると、そこは何の変哲もない一室。そして倒れ込む二人のみ。


『…………』

「…………」

『…………とりあえず退けろ、エド』



 未だに理解出来ない為、互いに沈黙していたのだが俺は自分が置かれている状況を再確認したのでそう声をかけた。


「あ、ああ」


 素直に離れたエドは未だに混乱しているようで、だがしかし俺は──今の状況を理解するよりもやらなければならないことがある。


『エド』

「え、ァ、何………」

『コロス』


 それは勿論───目前のクソ生意気な変態チビ野郎を再起不能にさせてやることだ。


 ──思考が回っていないエドには俺の言葉すら理解できないまま、俺が振りかざした右腕を避ける暇もなく、見事にパンチを食らった。


「痛ってぇッ!!!」

『煩ぇ、俺の心はズタボロだ。プライドがぶっ壊れたぞこの野郎。制裁してやる』

「あ、あんなに良さそうにしてたクセにッ!!」

『……なッ………てんめぇ、ただ俺を無理矢理犯しただけだろうがああああああああ!!!!』

「うわッ!! だ、大体な、ハワードが悪いんだよこの鈍感!!」

『何だよ鈍感って!! お前こそ理性崩壊してたじゃねぇか!! この変態!!』

「それはハワードが悪いんだよ!!」

『意味分っかんねぇよ!!』

「じゃあ俺が分からせてやるよ!!」

『はっ!! どうやってだよッ!!』


 ──ピロリロリーン……

 二人して怒声を上げていた最中、それを遮るように再び妙な音が流れた。


『何だよ今度はッ…………あ?』


 怒りが頂点に達する直前、背中に『何か』が当たる感触と同時に、俺の手足が『何か』に掴まれる。


『は?』

「えっ……」


 それは、突然床から壁のようなものが現れ、その壁から出現した機械によって、俺の両手足を拘束したのだ。


『なっな、何だこれはああああああッッッ!!!』

「……………」

『箱の次はこれか、これですかッ!! ハハハハッもう笑い止まらねえわ!! とにかくどうにかしろよエド!!!!!』


 何故か俺よりも放心しているエドに一喝入れてやれば、ふと我に返るように瞬きを数回した後、エドは歩み寄ってくる。

 嫌な予感がしたのは言うまでもない。


「……言っただろ。鈍感なハワードに、分からせてやるって」

『だ・か・ら・何・を・だ・よ!!!』

「解るまで何度でもやってやる」

『へぁッ!? なっ、やめろ馬鹿!!』


 もはや解釈不明ですが、エドはしゃがみ込み、俺のスボンに手を掛けた。イコール脱がそうとしているわけで。


『い、やめっ脱がすな!!!』

「俺の思いを弄ぶからだよ」

『意味分かんねぇよ!!』


 何ですか俺の所為ですか。
 若干キレてるエドは不服そうに囁くと、遂に俺のズボンを脱がしやがった。


『いいいいやああああああああああ!!!!!』


「分かったらやめてやるよ」



 ──いや、多分一生分かんないから。


 それから好き放題され、再びアナウンスが流れて解放された俺がエドを殺しにかかったのは別の話だ。





‐END‐(強制終了)


リクエストでした。



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