記念

□まどろんで
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…柔らかい

あたたかい

気分がいい


不思議と目覚めが良くて


『まどろんで』


うっすらと目を開けたヴィンセントが見たのは柔らかいクリーム色の壁紙だった。

(──……?)

 ─ぱたり。

すぐそばで音がした。

(──………ぁ)

ぼんやりとした意識に、さらりとした何かが触れた。

ゆるゆるとした動きでヴィンセントの長い髪を梳いているそれ。繊細で、柔らかな動作にまた、瞼が重くなった。

まるで童心に返ったかのような居心地の良さに頬が緩む。思わず──……ふっ、と息を吐いた。


「ヴィン…セント?」

その声に弾かれたかのように頭を上げた。

「……ユフィっ!!」

あんまり激しく体を起こしたものだからユフィの爪先がヴィンセントの髪に引っかかった。

僅かに痛みを訴えるそれを無視してヴィンセントは振り返る。そして同時に思い出す。


(ね…っ、寝てしまっ─…!!)


そうして彼は自分が何をしたのかに気づいて…愕然とした。

視界に入った窓。既に斜陽が差し込んでいたそれは相当の時間、寝入っていたことを証明して有り余る。

「ユフィ……すまない」

「……ん」

一拍遅れてはたりとユフィの白魚の手が床に落ちた。

それに少しの違和感を覚えて、ヴィンセントは未だに正座したままのユフィの顔を覗き込んだ。

「…ユ、フィ?」

「…………………うん」

「すまなかった」

「…………………うん」

「……クラウドがエアリスを取ったらしいぞ」

「…………………うん」

「…セルフィがアーヴァインに告白されたそうだ」

「…………………うん」

「…………ユフィ、好きだ」

「…………………うん」

「………愛しているんだが」

「…………………うん」






かくん、と首が落ちて

「…………………眠いのか?」

「………………………………」

とうとう頷いたままの姿勢で止まってしまった。


「…ユフィ」

ゆさゆさ ゆさ

「寝るならベッドで寝ろ」

ゆさゆさ ゆさ

「んー…───…………」

「…ムリか」

「──…つれてって?」

(ムリだ!!)

歓喜する感情に即座に拒否する理性が警鐘を鳴らす。

「ぅ──────……?」

嗚呼ダメだ。そんな眠そうな顔で抱っこをせがまないでくれ!

首に手を伸ばすだとか……
ち、近すぎるんだ、顔が、ほら、吐息が首筋に当た───っ…!!

「ねぇ…して?」

ノックアウト。

「サセテイタダキマス」



ガラガラと理性が崩れる音を聞きながら、ヴィンセントはユフィの膝に腕を差し入れた。

(相手は眠い)
(相手は眠い)
(相手は眠いだけ)

(だから決して疚しいことは…!!)

いくら女子とは言え人間だ。それ相応の重さを覚悟していたヴィンセントは、あまりの手応えのなさに拍子抜けした。

(昨日、小麦粉[50s]を食堂に運んだが…それより…軽い?)

ちゃんとコイツは飯を食ってるのだろうか?ああ、重心の取り方がユフィは上手いんだ。確か荷物と持ち手がより近いと少ない力で──……

そこまで考えたヴィンセントははたと気づいた。

(ユフィが近い、ってか密着して…!?)

「ね……ベット、いこ?」

─ぎゅぅ


自覚してしまったヴィンセントにユフィが無邪気にトドメを刺したのは確定である。

(い…息が温度が湿度が、布越しってか首、直に当たってる)

いやそれよりも(それはそれで美味しいが…)気づいた事がある。今までこんなに近くでユフィの寝顔を鑑賞できたことなどあっただろうかと。…否、ない。ないに決まっている。

(なんだろう……嬉しい。)


そんなヴィンセントの喜びは、ベットに到着したときに終わった。

(たどり着いてしまったか…)

少しだけガッカリしてヴィンセントはユフィをそっとベットの上に下ろした。

丸めた背中がコロンとヴィンセントに背を向ける。

そうして、もぞもぞ。

まるで猫のようだ。そう、笑ったヴィンセントの顔は次の瞬間凍りついた。

──ころん。

──ぎゅむっ

寝返りを打ったユフィの腕がヴィンセントの胸元を掴んだからだ。

「ユ…ユフィ?」
「やだ…さむい」

そう言ってなおさら密着してくるユフィにヴィンセントは焦った。

確かにベットは冷えていただろう。

しかし、今は居ない同室者が帰ってきた時のことを考えるとヴィンセントは素直に喜べない。

──……だが。


「お願い…あと…5分」

「…あと5分だけだぞ」


そのお願いが1時間になるのはまた別の話である。








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