古書T

□悪魔と花嫁
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幸福の鐘が鳴り響く教会。
ここで、一つの結婚式が行われていた。
神父が色々何か唱えているが、そんなものは新婦の耳には聞こえていなかった。
そして、いよいよ神父が誓いの言葉を問うてきた。

「新郎はこの者を妻とし、健やかなる時も病める時も支えることを誓いますか?」
「誓います」
「では、新婦はこの者を夫とし、健やかなる時も病める時も支えることを誓いますか?」
「・・・」

新婦は静かに黙ったままだった。
新郎の親類・知人しかいない席でどうしたのだろうかというどよめきが湧いた。

「どうしたんだい?ユフィ」
「・・・」

しかし、新婦―――――ユフィは無言のままである。
別に寝ている訳ではない。
かと言って口がきけない訳でもない。
ただただ、黙ったままである。
焦れを切らした新郎は神父に促した。

「もういい。神父さん、誓いのキスをします」
「しかし・・・」
「早く!」

新郎は声を荒げた。
神父は仕方なく、言葉を続けた。

「では、誓いのキスを」

そして、新郎だけが向かい合う。
新婦のユフィはじっと、神の絵が描かれたステンドガラスを見たまま。

「ユフィ・・・?」

新郎が不審に思ったその時――――――

ガシャアン

ステンドガラスを突き破り、一人の男がユフィの前に降り立った。
漆黒の髪に、紅い血の様な瞳。そして、背中から生えている黒い翼。
席の者たちは悲鳴と驚きの声を上げ、中には悪魔と叫ぶ者もいた。

「き、貴様、悪魔だな!?ここへ何しに来た!?」
「・・・花嫁を取り戻しに来た」

悪魔と呼ばれた男は事も無げに言うと、おもむろにユフィを抱き上げた。
――――俗に言うお姫様抱っこで。

「ユフィを離せ!!」

新郎が叫ぶが、離すわけもなく、男はユフィを抱きかかえたまま、飛び去った。

「ユフィ!ユフィ!」

新郎の叫びは空しく、割れたステンドガラスの外へと溶けた。






上空は風が優しく吹き、下を見れば一面に広がる緑。
ユフィはヴェールを取ると、広がる大地へと捨てた。

「ありがとう、悪魔さん」
「・・・おい」
「冗談だよ、ヴィンセント」
「・・・それより、契約は覚えているな?」
「あれ〜?なんだっけ?」
「・・・」
「なんてね、覚えてるよ」
ユフィは笑うと、悪魔―――――ヴィンセントの首に腕を巻いた。

「覚えてるよ。アタシの呪いを解く代わりに、ヴィンセントと結婚することでしょ?アタシから契約したんだもん、忘れる訳ないよ」
「・・・そうでないと困る」

とは言うものの、ヴィンセントの顔は笑っていた。

「・・・あっちについたら、着替えてもらうからな」
「え?」
「そんな粗末なウェディングドレスはお前には似合わん。――――ティファやシェルクが作ってくれたドレスがある」
「本当!?」
「エアリスが作ってくれたブーケだってある」
「やった!じゃあ、急ごう!!」
「その前に―――――」

ヴィンセントの唇がユフィのそれの重なる。



二人は笑い合い、皆が待つ本当の教会へと向かった。

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