古書T

□マグカップ
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アレクサンドリアデパート

マグカップ売り場


ユフィが私のマグカップを割った為、ユフィが弁償と言って、ここ、アレクサンドリアデパートに来た。
私は別に弁償してもらわなくてもいいと言っているのだが、ユフィはどうしてもというので、甘えることにした。
しかし、どれもこれも私の好みに合うものではなかった。
今見てるマグカップなど、カラフルではあるが、私の好みではないし、むしろ女性向であったりする。
ふと、先程まで私の隣で一緒にマグカップ選びをしていたユフィの姿が見えないことの気付いた。
何となく横を向いたら、ユフィが何かを見つめて立っていた。

「・・・ユフィ」
「・・・」

返事がない。
もう一度。

「・・・ユフィ」
「え?うん、何?」

我に返ったユフィは今、ヴィンセントの存在に気が付いたというような反応をした。

「・・・それを見ていたのか?」

ユフィが見ていたものを見る。
それは、黄緑色の大きめの長方形の箱に入っている、猫の絵がプリントされたマグカップだった。
・・・それも二つ。

「・・・欲しいのか?」
「ま、まさかそんなことないよ!だって、ヴィンセントのマグカップを買いに来たんだもん!それに・・・」
「・・・それに?」
「・・・これ、ペアでしか買えないんだ」

よく見れば、箱に入ってるマグカップの値段表には、『ペアでのみ販売』と書かれていた。
つまり、単品では売られてないということだ。

(好きな人の好みに合わせると吉)

この時、ビビの言葉が脳裏を過ぎった。
ここで合わせたら・・・

「・・・ユフィ、私は・・・」
「あ、あっちにヴィンセントの好きそうなマグカップがあるよ!アタシ、取ってくるね!」

ユフィは慌てたように突き当たりにある棚のマグカップを指して、足早にその棚の方へと行ってしまった。

・・・私としてはこの猫のプリントがされたマグカップでもいいと思っている。
私も満足するし、ユフィも満足する。
それでいいと思う。

「ヴィンセント!これなんかどう?」

ユフィは白クマがプリントされているマグカップを持ってきた。
・・・やけに白クマがリアルにプリントされていて、流石の私もこれは嫌だった。

「・・・ユフィ、流石にこれは・・・」
「ええ〜!?じゃあ、何がいいの?」
「・・・これがいい」

そう言ってヴィンセントが指したのは、ユフィが見入っていただろう、猫の絵がプリントされたペアのマグカップ―――

「え?でも・・・」
「・・・たまにはこういうのもいいと思ってな」
「本当にいいの?他にもいいの沢山あるよ?アタシに無理に合わせなくていいんだよ?」
「・・・別に、合わせている訳ではない。たまたま、私の欲しいものがお前のと被っただけだ」

それはそれで下手な嘘ではあるが、ユフィにはそれが嬉しかった。

「本当にいいんだね?後悔しないね?」
「・・・早くしないと気が変わってしまうぞ?」

これはからかっているだけ。
しかし、ユフィはこれまた慌てて見本の奥にある箱を取ってレジに向かった。
その時に見えた嬉しそうな笑顔がどれだけ、私のユフィへの愛しさをまた強く深めたかを彼女は知らないだろう。
その笑顔が何度でも見れるのなら、いくらでも君の好みに合わせよう。
ああ、ビビの占いを信じてよかった。
一時の至福に浸っていたヴィンセント。その時―――

ガラン ガラン ガラン

ベルが高らかに鳴る音が店内に響き渡った。それと同時に、ユフィの私の呼ぶ声も聞こえた。

「ヴィンセント!来て来て来て!」

呼ばれて来てみれば、カウンターには、私たちが買ったマグカップの箱と、二つの黒猫のストラップが・・・。

「ヴィンセント、アタシたち、ペアのマグカップを買った10万人目の客なんだって!」

嬉しそうに話すユフィ。

「・・・では、黒猫のストラップは?」
「景品だって」
「・・・これが?」
「わかってないな〜、ヴィンセントは」

ユフィはそう言いながらマグカップが入った紙袋と二つの黒猫のストラップを持ってレジを後にした。
ヴィンセントも続く。

「・・・袋は私が持とう」
「ありがと♪」

ヴィンセントはユフィから紙袋を受け取った。
ユフィは先程の黒猫のストラップを掲げて、ヴィンセントに説明した。

「これはね、幸運を呼ぶ黒猫なんだよ」
「・・・どんな幸運を呼ぶんだ?」
「ん〜、忘れちゃった。それより、携帯出して」

ヴィンセントは促されて携帯を出した。

「ちょっと借りるね」

ユフィはヴィンセントから携帯を取ると、二つある黒猫のストラップの片方をヴィンセントの携帯につけ、もう片方はポケットから取り出して自分の携帯に付けた。

「はい」

そう言ってユフィはヴィンセントに携帯を渡した。
よく見れば、ヴィンセントの黒猫の首には青の首輪がしており、ユフィの黒猫には赤い首輪がしてあった。
ヴィンセントは携帯を受け取った。

「・・・色違い、だな」
「ね!しかもお揃いだよ」
「・・・そうか」

口元を緩めるヴィンセント。
ここで、ふと考えた。

お揃い・・・?
お揃い・・・
世間一般で言う・・・
ペアルック・・・

「ん?どしたの?」

ヴィンセントが急に黙ったことを不思議に思ったユフィは声を掛けた。

「・・・いや、別に」

ヴィンセントは適当にかわして心の中で叫んだ。

距離が・・・縮んだ!!!!!
・・・多分!!!

これを思っているのはヴィンセントだけ。
ユフィは一ミリも思っていない。
ユフィは、幸運が来るぞ〜!!
としか思っていなかったりする。
でも、ヴィンセントとお揃いで嬉しいながらも照れに似た恥ずかしいような気持ちになったことはここだけの話。

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