古書T

□放課後、君と・・・
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放課後――理科室――

ヴィンセントは今日、放課後、一人だけで理科の勉強をすることになっていた。
それもその筈。ヴィンセントは何日か前に熱を出して授業を休んでいたのだ。その中に理科が入っていて、ヴィンセントが休んでいる間に皆は実験をしていた。
実験というより、調合だ。理科の授業では、実験の他に調合もする。
今回は回復アイテムを使って自家製のエリクサーを作るのだ。
シャルア先生は、今回の調合はやっておいて損はないと言って、ヴィンセントを放課後の理科室に呼び出した。
ヴィンセントとしては、ノートを良く取っているヌージや教え方が上手いバラライにでも教えてもらおうと思ったが、シャルア先生は強引に呼び出した。
まぁ、暇潰しにとでもと思い、ヴィンセントは一人、理科室へと歩を進めていた。






理科室

ガラッと扉を開けて、目を大きく見開く。
そこに居たのは、セフィロス教頭と同じように生徒が困る様を楽しむような顔と茶色の髪の毛に閉じた片目、動かない左腕で実験用の白衣を着て眼鏡を掛けたシャルア先生はなく、漆黒のショートヘアに黒く猫のような瞳に白衣と眼鏡を掛けたユフィがいた。

「遅いぞ〜、ヴィンセント」
「・・・どうしてお前がここに?」
「シャルア先生に頼まれたの。自分の代わりにヴィンセントとエリクサーを調合してくれって」


図られたか・・・?


ヴィンセントは内心呟いた。

ユフィはセルフィと共にリュック直伝の調合術をマスターしたらしく、エリクサー作りの調合に大成功したとか・・・。

・・・成る程、今回の調合はやって損はないとはこういうことか。

「さぁさぁヴィンセント君、調合の為の器具を用意しましょう!」
「・・・はい、ユフィ先生?」










ああ、幸せだ。

ヴィンセントはそう思う他なかった。
放課後の理科室でユフィに手取り足取り教えられながらエリクサーを調合する。しかも、ユフィはシャルア先生から借りた実験用の白衣にどこぞから手に入れた伊達眼鏡を着用していて、なんだか可愛い。

「・・・次はこれか?」
「ううん、それはこれを使ってね・・・」

本当は知っているのだけれど、知らない振りをして真面目に教えてくれるユフィを眺める。真面目に教えるその姿が新鮮な感じがして、逆に可愛い。





しばらくして、エリクサーは完成した。

「じゃあ、成功したかどうか試しに飲んでみよ〜!」

という訳で、ヴィンセントは完成したエリクサーを飲むことにした。
グイッと一口飲んで、苦しむ。

「ぐっ・・・!」
「えっ!?失敗だった?大丈夫!!?」
「・・・なんてな」

してやったりという顔でヴィンセントは悪戯に笑ってみせた。

「はぁ〜っ!?心配して損した!!!」

ユフィはヴィンセントからエリクサーを取って、一口飲む。
・・・間接キスをしているのに、本人は全く気にしたような顔をしておらず、少し残念だった。
コトッとエリクサーを机の上に置く。

「ぷはー、やっぱエリクサーはおいしい・・・」

すると、ユフィは突然床に倒れた。

「ユフィ!!?」

ヴィンセントはすぐにユフィを抱き起して呼びかける。

「ユフィ、ユフィ!どうした?まさか・・・!!」


調合を間違えたか?
しかし、回復アイテムしか使ったいない筈・・・。
もしかしたら、超反応を起こしてそれで・・・!!
自分は改造された体だから何も起こらないが、ユフィは普通の人間だからきっと・・・!!!

「ユフィ、目を開けてくれ!!頼む、死ぬな!!」

無我夢中で叫んで呼びかけるヴィンセント。
だが・・・

「・・・?」

心なしか、ユフィの体が少しだけ震えていた。
薬による作用かと思ったが、何か違う・・・。
顔をよく見てみれば、少し笑っているようにも見えて、唇が震えていた。

「・・・ユフィ・・・」
「ぷっ・・・くくっ・・・あっははははっ!ヴィンセントったらおかしい〜!!」
「・・・」

ヴィンセントは気が付いた。
ユフィはやられたらやり返す精神だということを。そして、自分はからかわれていたことを・・・。

「・・・心配して損したな」
「ヴィンセントだってしたんだから、おあいこだよ」
「・・・だからと言ってやりすぎだ」

少し怒っているように言っても逆効果。立ち上がったユフィは更に笑いを堪えられなくなっていた。

「でもさぁ・・・!くくくっ!!普段は冷静沈着なヴィンセントが芝居も見抜けなかったなんて・・・アタシって女優の才能ありかも」
「・・・そうだな」

ヴィンセントは未だ怒りながら、ノートに結果を書く。

「そんなに怒んないでよ〜。ヴィンセントだってしたんだからいいじゃん」
「・・・私のはともかく、お前のは度が過ぎるんだ」

そう言ってユフィの掛けている伊達眼鏡を取って掛けてみる。

「・・・どうだ?」
「う〜ん、微妙かな?髪縛ってやった方がいいかな?」
「・・・そうか?」

眼鏡を外してユフィの顔をまじまじと見る。

「なんだよ?」

右手を伸ばしてユフィの頬に添える。

「・・・やはりお前は素顔の方が可愛いな」

そう言われて、ユフィの顔はみるみる内に赤く染まっていった。

「な、ななななな何言ってんだよ!?」
「・・・判らなかったか?つまり、眼鏡を掛けない方が―――」
「あーっ!!終わったから器具でも片付けようか!?」

ユフィは照れ隠しに、慌てて器具を片付ける。その様子もまたおかしくて、思わず口元が緩む。

「ほ、ホラッ!見てないで手伝ってよ!!」
「・・・ああ、判った」

ヴィンセントは手始めに、残りのエリクサーを飲みほした。
また、間接キスということを考えて今は我慢する。

いつかは間接キスではなく・・・

「どしたの?」
「・・・いや、何でもない」

君の唇に・・・

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