巻物

□V
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今のアタシは絶体絶命。
もう全身ボロボロで体力なんか殆どない。
地面に横になってて・・・もう駄目みたい。


「愚かな小娘よ」


カオスがアタシの首を掴む。
無駄な悪あがきだけど、両手でカオスの手を掴んでカオスを睨む。
それも穴が開く程に。


「我を睨んだ所で無駄な悪あがきでしかない」

「生憎・・・それがアタシの性分だから・・・」


喋るのが億劫になっきて呼吸も段々苦しくなってきた。
でも、絶対に目は反らしてやんない。
多分、ここで逸らしたら次には死んでるかもしれないから。


「貴様は我に挑み、我と戦い、そして何を得た?」

「・・・ヴィンセントの・・・呪いを・・・解いた・・・」

「だがそれも、我がまたかければお前のやった事は泡となる」

「そうなったら・・・今度は・・・お前を呪ってやる」


もっと強く睨んでやった。
顔がアレだから表情の変化は判りにくいけど、多分そんなに動揺してないね、こりゃ。


「フン、どこまでも往生際の悪い小娘だ」

「往生際を悪くしてまで・・・ヴィンセントは・・・守りたいやつ、なんだ・・・」

「その守りたいやつはお前を傷つけ、突き放し、
 お前がこの様な状況になっているにも関わらずお前を助けに来ていない。
 そんな男を守る価値がどこにある?」


少しの間を置いてからアタシは勝ち誇ったような笑みを向けた。


「ヴィンセントの事・・・何も知らないくせに・・・知った風な口聞かないでくんない?
 ヴィンセントは・・・アタシや仲間たちを巻き込みたくないから突き放したんだ。
 そりゃ、あんな事言われて傷つかない事はないけど・・・でも、アイツは不器用だから。
 不器用だからこそ、本当はあんな事を言いたくないっていうのは判る」

「では、助けに来ないのは何故だ?
 この状況は恐らく既に他のカオスの戦士から伝わっている筈だ。
 アイツらはこういう事を伝える事だけは早いからな」

「さぁね。そこまではアタシも知らないよ。
 でも、来なくていい。来たらアンタに呪いをかけられるから」

「判らんのか?お前は死ぬのだぞ?」

「だから何?アタシの世界じゃ人は死んだら星に還り、星を巡り、そして復活する。
 また復活してヴィンセントに会いに行ってやる。
 多分、別人になってるだろうけど」

「何故そうまでしてあの男に尽くす?何がお前をそうさせる?」

「さぁね。アタシも判んない。でも、気づいたそうなってた」


アタシは一息ついてまた間を置き、今度は射抜くような目でカオスの瞳を見据えた。


「一つ言える事は、アタシはアイツに―――ヴィンセントに幸せになって欲しいんだ。
 長い間ずっと罪の意識に囚われて苦しんで、でもやっとそれから解放されて新しい人生が始まった。
 今まで苦しんだ分、ヴィンセントはこれから幸せになってくんだ。
 それをこんな所で足止めされちゃあまりにも可哀相すぎる」


アタシは力を振り絞って叫んだ。


「だからアタシはヴィンセントを守る!例えそれが無謀であってもだ!!」


カオスはしばしアタシを見つめた後、小さく笑った。


「本当に愚かな小娘だ」


カオスのアタシの首を締める力が強くなる。


「それに・・・アタシ、は・・・ヴィンセントのこと―――」


目の前が霞んで段々意識が遠のいてきた時だった。


ガウンッ!


「うぐっ!!」


銃声がしてカオスの苦しそうな声が聞こえた。
カオスはきっとダメージをくらったんだと思う。
でも、それと同時にアタシは解放されて地面に放り出された。
痛みを覚悟したけど、むしろ何かに抱きとめられた。

―――大好きな“紅”が視界に入ってアタシの頬は思わず緩む。


「―――ヴィンセント」
「・・・大丈夫か、ユフィ」
「何で・・・来ちゃうんだよ・・・」
「・・・お前を失いたくなからだ」


そんな事言われると照れちゃうな。


「・・・ヴィンセント。貴様、クリスタルを見つけたな?」

「・・・ああ、この通りな」


ヴィンセントは手を翳してクリスタルを出した。
キレーだけど・・・先越されちゃった。


「こうなってしまっては我が呪いなどほぼ通用しないも同じ。
 されば貴様など無用だ。その小娘共々消えるがいい!」


無茶苦茶な事を言い出したカオスはアタシたちに向かって闇を放った。
闇は瞬く間にアタシたちを包み、取り込もうとする。
・・・前にもこんな事あったな。思い出したくないけど。


「・・・くっ!身動きが・・・!」


ヴィンセントは闇に足を取られてるみたい。
このまま終わっちゃうのかな?
だったら・・・だったら終わっちゃう前にヴィンセントにこの想いを伝えよう。
どうせ最期なんだから。


「・・・聞いて、ヴィンセント」
「・・・ユフィ?」
「アタシ、ヴィンセントの事が―――」
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